第16話 文通相手
雪が降る季節のライネ領は、白銀の世界に様変わりする。
その期間はあまり長くはないけど、外に出られないから暖かい室内で本を読んだり手紙を書いたりして過ごしていた。
キャルム様とは、ずっと手紙のやり取りが続いていた。
月に一度、多い時は三度も手紙が届く。
いわゆる文通相手ということになるのかな。
帝国からの手紙は通常よりも短期間で届けられるし、こちらからも、キャルム様に遣わされた方に頼めば同様の速度で届けられる。
いつもは気軽に興味深い話題を提供してくださるから、私も変に構えることなく、このやり取りを楽しめていた。
“せっかくの縁なので、友人と思ってもらえたら嬉しい”と、キャルム様の手紙には書かれていた。
文面通りなら、あの時計を贈られたことも素直に喜べる。
それで油断していたのか、寒い季節も後半に差し掛かったこの日、手紙の内容は驚くものだった。
ルニース王国の第二王子殿下が学院に入学するので、祝いの品を届けるために、キャルム様が自らお越しになると言うのだ。
そして、中継地にある我が家への滞在を願い出てきた。
しばらくこちらでいくつかの商談を行いたいとも書かれていた。
それは、すぐさま家族に相談しなければならなかった。
また家族会議が紛糾するのかと心配になる。
でも、第二王子殿下が学院に通えるほどお元気になられたのは嬉しいことだ。
その情報を私は知らなかったので、キャルム様から教えてもらえたのは有り難かった。
私が第二王子殿下にお祝いの何かを差し上げたりすることはないけど、殿下の体調は気になっていたので、それを知ることができだけでも嬉しいことだった。
その晩の家族会議で、キャルム様が我が家に滞在することはすんなりと決まった。
それはそうであって、皇族の来訪をお断りするにはそれなりの理由が必要だ。
お父様にも同時に届けられていた書状の内容には、キャルム様とライネ家で取り交わしたい商談の内容が記されていたようで、それは我が家にはかなり都合の良いことのようだった。
だからお父様はキャルム様の訪れを心待ちにしている様子もあったし、そんなお父様を見て、現金なものだと呆れていたのはお兄様であった。
思えば、婚約を解消してから一年になる。
あっという間に過ぎていった一年だったから、家族ともっとたくさん過ごしたいし、もっともっといろんな事を経験したい。
新たな一年がどのようになるのか、キャルム様への返事を書くために机に向かいながら、思いを馳せていた。
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