第3話 真実を知って

 逮捕され、鉱山送りになったはずの義妹が小屋から現われて、驚きで声も出せずにいると。


「ベル、会いたかったよ」


 聞いたことのない優しい声を出しながらマグノリア様は義妹を抱きしめると小屋の中へと入っていった。


「なに、なんなの? なんであの子が?」


 混乱しながらも中でどんな会話をしてるのか気になって、ドアに近づき聞き耳を立てる。

 質素な小屋だからかドア越しでも二人の会話は聞こえた。


「彼奴は褒めれば本当にやってくれるよ。今日なんて古語だらけのレシピを解読しやがった」

「なにそれきんも~☆ 褒められてやるなんてバカのやることよ」

「だよな! まあ、そのおかげで利用しやすいんだけどな」

「ねえ、マグノリアの計画っていつ終わるの? 早く、彼奴を追い出してよ~。同じ場所に居るってだけで気持ち悪いの!」

「落ち着け。例のレシピ、万能毒と呼ばれるカンタレラのレシピが見つかるまでの辛抱だ」

「ぶ~。早く見つけてよね!」

「早く見つけるさ。カンタレラを作ってもらって、それをあのクソ親父とバカな兄貴共に使えば、彼奴は用無し。んで、後は彼奴を王族暗殺の首謀者として処刑する。これで、俺とお前は晴れて、この国の頂点だ」

「本当! 嬉しい~♡」


 ドア越しで聞こえてきた会話は信じられない内容だった。


 つまり私は騙されていたってこと?


 そう理解したとき、私は足下にあった大きめの石を持ち上げ。


「やめなさい」


 石を持った手を誰かに掴まれた。


「気持ちは解ります。ですが、抑えて下さい」


 私の手を掴んだのはカノンだった。


「カノン・・・・・・?」


 どうして此処に居るの? と聞く前に。


「此処ではバレてしまいます。移動しましょう」


 と私の手を引いて歩き出した。





「やあ、話はカノンから聞いていたよ。君がクコさんだね」


 カノンに連れられ、やってきたのは第一王子であられるダミアン様の元だった。


 此処に行くまでの道中、カノンは真実を話してくれた。


 カノンは侍女ではなくダミアン様が率いる特殊部隊の人間だということ。

 マグノリア様が何か企んでいる事を知って監視していたこと。

 その為に私に近づいたこと。


「貴方と話をしていて、貴方がマグノリア様に騙されていると知りました。だから、あのような形で真実を知らせるように仕向けたこと、そして、貴方を騙していた事をお詫びします」


 カノンは私に謝罪した。


 そんなカノンに私は誠実な人だと感じ、怒りの感情なんて湧かなかった。

 だから、私は気にしてないと言ったけどカノンの表情は曇ったまま、その表情をするカノンは本当に良い人だと思う。


「先ずは先に謝罪させてほしい。あのバカ弟の企みを阻止する為とはいえ君を傷つけるような形で真実を知らせるように仕向けたのは私の命令だ。どうか許して欲しい」

「いいえ、私は逆に感謝しています。もし知らなかったら、私は殺されてました」


 此処に居る時点で冷静になれていた私はマグノリアは義妹と共に私を騙していた男という認識になっていた。

 カノンが私を冷静に諭してくれた部分が大きいけど。


「そう言ってくれると嬉しいよ。もし、バカ弟の企みが暴かれたとしても、あのままだったら君は共犯として捕まっていたからね」


 ひぇ~。

 あのまま、真実を知らない状態のままだったら、マグノリアの企みが暴かれたとしても私は捕まり処刑されてたって事か。

 私の置かれていた状況ってヤバかったんだ。


「カノンから君の事情を聞いてね、このままでは哀れだと真実を教え、君は逃がすべきだと思ったからだ」

「・・・・・・そうなんですね」


 ダミアン様はカノンから私の事情を聞いて逃すべきと判断したそうだ。

 嬉しいけど、もうすでに居場所がない私は城を出てどうすればいいのか解らない。

 本当にどうしよう。


「君をそのまま放り出さないから安心してくれ。

 隣国が薬師の国と言われているのは知っているよね? そこの医療ギルドに私が書いた推薦状を持っていけば仕事が見つかる手配をしてある」

「本当ですか!?」

「ああ。我々の事情に君を巻き込んでしまったからね。その詫びだよ」


 ニッコリと笑いながら、ダミアン様は推薦状を渡した。

 隣国に行って、これを医療ギルドに見せれば仕事が貰える!!

 それなら、暫くは安心して暮らせるはずだ。


「ありがとうございます!!」


 私はダミアン様に御礼を言ってカノンと共に部屋を出た。


 部屋を出た私はカノンと共に荷造りをしていた。

 今頃、マグノリアは義妹とイチャついてる頃だろう。そう思うと何だが腹が立ってきた。

 だから、置き手紙の最後の一行に。


――妹のベルと末永くお幸せに。


 そう書いてやった。


「私の案内は此処までです」


 カノンに案内され、私は隣国に繋がる森の入り口にやってきた。


「このランタンは魔物避けの効果がありますから絶対に手放さないでくださいね。本当はついていきたいのですが・・・・・・」

「ううん。ここまでしてくれてありがとう! 後は一人で大丈夫。いざっていう時は薬を使って逃げるから」

「クコさん、貴方のこれからが幸運に恵まれますように」


 カノンは私の額にチュッと祝福のキスを送ると城へと戻っていった。

 さてと、魔物避けのランタンを掲げ、森に入る前に。


「なんか重いんだよね~」


 ずっしりと思い荷物を確認する。

 持ったときはそんなに重くなかったんだけどな~。


『ぶみゃあ~』


 荷物を開けると中庭で餌付けをしていた猫が!!


「え!?」

『にゃにゃにゃあ~』


 いつの間にどうやって!? と驚いていると猫は私についてこい! と言うように森の中へと入って行ってしまった。


「ちょっと危ないよ!!」


 私は荷物を閉めながら慌てて後を追いかける。


 猫の後を追いながら薬を使って魔物から逃げながら隣国に着いた。

 着いた頃には朝日が昇っていて、休まず歩いてきたせいか精神的にボロボロになっていた私は綺麗だな~と思いながら猫を抱きしめた。

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