第5駅 フルーツタウン到着 ~迫り来る危険~
それから何時間か経った。
何度かソーサラーフロッグが魔法でちょっかいを出してきたけど、確実に返り討ちにしていた。
まぁ、武装の操作は全部トムがやったけど。
そして目的地に着く間際、周囲の環境に変化があった。
「あれ? なんかフルーティーな匂いが……」
「はい。それがこの場所の特徴ですから。このまま領域に入ってしまいましょう」
そして目的地の聖樹の領域に入り、そのまま聖樹の近くまで列車を進めた。
聖樹の近くまで来たら、スマートグラスを操作して駅を建てる。
「――あれ? スキルのレベルが3になってる」
「魔力鉄道のスキルは、走行距離と倒した敵の数や強さで経験値が貯まります。それが一定値を越えるとレベルが上がる仕組みです。レベルが上がれば使える車両や駅種が増えますよ」
つまり、鉄道で移動すればするほど列車や駅が強化されていくんだ。
使える種類が増えれば何かと便利だし、興味もある。けっこうやる気が湧いてくるね。
ただ、レベル3だとまだ変化は無いらしい。
僕は列車の停車位置に合わせて駅を呼び出した。セントラル駅と全く同じだ。
「ところで、ここには何があるの? 食料があるって話だけど……」
「フルーツが色々なっています。聖樹の領域内はもちろん、領域外にも広がっていますよ」
ああ、だからここに近づくとフルーティーな匂いがしたわけだ。
「そっか。じゃあ、この駅は『フルーツタウン』に決まりだね」
実際は『タウン』どころか建物は駅以外に全くないんだけど、将来町が作られるかも知れないから、その期待も込めて命名した。
そしてセントラル駅と同じく、駅の命名を宣言すると駅の標識に『フルーツタウン』と書かれた。
「それじゃ、フルーツ採取に行きますか」
駅周辺を調査してみたけど、生えていた果物はバナナ、パイナップル、マンゴー、パパイア、グアバ、パッションフルーツ、アセロラ、ドリアン等々、熱帯地域に生息する、いわゆるトロピカルフルーツが自生していることがわかった。
「とりあえず、当面の食料は確保出来たかな」
幸い、僕は前の世界では調べることが好きで、果物類も調べたことがあった。
あの受験に取り憑かれてしまった両親も調べ物は邪魔してこなかった。調べ物を通じて知識が広がれば、面接の時にアピールポイントになると思ったかららしい。
とにかく、僕は果物の姿の他に切り方や食べ方も動画で見た覚えがあるから、それを思い出しながら手探りでやっていこう。
簡単な料理だったら、駅の給湯室で出来るはずだし。
それから数日後。
僕はかなりフルーツタウンでの生活に慣れていた。
服はさすがに何日も着回せないので、仮眠室のロッカーにある作業着を着たりしたけど。
あと、シャワー室に洗濯機が置いてあるので、それを使って服を洗ったりしている。
まあ、そんなこんなで生活の送り方が確立した。
だけど、生活が安定してくると改善したい部分も出てくるわけで……。
「果物生活、ちょっとキツくなってきたかな……」
フルーツタウンは果物があちこちになっているから食料には困らないんだけど、毎日食べていると飽きてくる。
それに、果物ばかり食べるという偏食を長い間続けると、栄養が偏って健康が心配になってくるんだよね。
「でしたら、別の作物を探しに行きましょう。穀物が自生している場所です」
「相変わらずいきなり出てくるね。でも、穀物か……」
具体的にどんな穀物かはわからないけど、行ってみる価値はあるかも。
食生活を充実させるためにも、どこにどんな物があるかは把握しておきたいし。
「それで、穀物が生えている場所ってどこ?」
「セントラル駅の北です。レイラインの通り方の関係で、ここからは一度セントラル駅を経由しなければいけません。フルーツタウンから概ね六時間程度でしょうか」
ちょっとした旅行みたいな移動時間だね。
念のために、フルーツをある程度持って行こう。
次の日の昼前、僕達は穀物を入手するため、一度セントラル駅へ戻るところだった。
フルーツタウン駅を出発してから一時間後。
「ごめん、トム」
「構いませんよ。お気を付けて」
僕はトムに列車を停車して貰い、車外に出た。
急にトイレに行きたくなったので、外で行う必要があったんだ。
今の客車にはトイレが無く、トイレに行きたくなったら駅まで我慢するかこうして外でするしかない。
早く客車にトイレが付いて欲しい。切実に。
「ふぅ……。よし、すぐに車両に戻ろう」
おしっこを出し終えて緊張感が一瞬抜けてしまったからだろうか。
僕は忍び寄る存在に気付かなかった。
「えっ……がっ……」
何かが僕の身体に絡みついた。しかもものすごい力で締め上げている。
(これは……ヘビ……?)
首も絞められてしまったため声が出せなかったが、確かに僕を襲っているのはヘビだった。
しかもタダのヘビじゃ無い。数十メートルはあろうかという大ヘビ。こんなヘビ、元の世界では絶対に存在しない。確か最大級のヘビで十メートル程度だった気がする。
たぶん魔物だろう。だとすると、なぜレイラインの上にいるのかという疑問が湧く。
フルーツタウン滞在中にトムから聞いた話なんだけど、『魔物』というのは体内に魔石を持つ生物の総称で、攻撃性が普通の生物と比べて異常に高く、戦闘能力も普通の生物とは一線を画す存在なんだって。
で、魔物は異常に魔力を必要とする体質らしく、レイラインの近くでなければ生きられない。でもレイラインの直上でも生きていけない。だからソーサラーフロッグはレイラインのギリギリ外側から魔法を飛ばして攻撃したわけだけど。
理由として、魔石とは魔力を貯めておく袋のようなもので、この袋のキャパシティを越えると逆に魔力に身体を蝕まれてしまうから、というのが人間の学者の間で有力な説として考えられているらしい。
で、今の状況なんだけど、僕は身の安全も考えてレイラインの上から出ないように用を足していた。
なのに、このヘビの魔物は普通にレイラインの上で活動している。明らかにおかしい。
(このままじゃ……死ぬ……)
せっかく毒親から逃げて異世界に来られたのに、一月もしないで死ぬなんて……。
(もう……だめ……)
首も肺も絞められており、上手く呼吸が出来ない中でいよいよ意識を手放してしまうかという、その瞬間だった。
「ガルルルルアアアアァァァァァ!!」
何かの雄叫びと共に、ヘビに衝撃が落ちた。
その衝撃はヘビの急所を的確に捉えていたらしく、ヘビの力が完全に抜けた。
(今だ!!)
その一瞬を突き、僕はヘビの拘束から逃げることが出来た。
そして改めて状況を把握しようとヘビの方を見た。
その時の光景は、僕にとって一生忘れられないほどの衝撃だった。
ヘビは喉を食い抜かれて命を落としていた。
で、ヘビを食い抜いた存在というのがインパクト絶大で、忘れられない存在だったんだ。
「に、人間……?」
身体が汚れているし、裸だし、髪が黄色と黒の縦縞という前の世界では見なかった髪色だったけど、問題はそこじゃない。
黄色と黒の縞模様――いわゆる『虎縞模様』の尻尾が尾てい骨から生えていて、頭にも同じ模様のネコ耳みたいなのが付いていたんだ。
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