第14話:本意

 ■


 それからも君とレダの話は続く。


 きな臭い話ばかりではなく、ちょっとした雑談も。


「そうなのですか、訓練用の亡霊? 何度滅ぼしても蘇る……? 便利ですがなんとも冒涜的ですね」


「なんと……命をかけて得た財宝を鑑定のために店に持ち込めば、売値と同等の代金をとられる!? あまりに阿漕ではありませんか……?」


「ああ、ラーナラーナですか? あの子はまだ幼いですが、その才は図抜けておりますよ。ん? なぜヒュレイアに? ああ、彼女が一番マトモだからです。ヒュレイアの他の大主教は幼児性愛者と屑、他国のスパイ、裏切り者、最後の一人はこれもまたまともではあるのですが、スパルタに過ぎるのですよね……」


 ほうっ、と手を頬にて悩ましい表情を浮かべるレダはなかなかに色気がある。


 レダの話をきいた君は、ライカード魔導部隊の面々を思い出す。


 裸で戦う男


 敵とはいえ家族同士で争わせる女


 敵を眠らせてから毒に侵し、死ぬまでずっと眺めるのが趣味の男


 元魔物


 元魔物


 鍋(いつも薄笑いを浮かべている鍋)


 etc……


 ……


 どうあれ、どいつもこいつもろくでもないな、と君は嘆いた。


 ただ、ろくでもある者では神の影だの魔界の貴族だの邪悪な魔導師だのとは争えないのだ。


 まあ鍋は人格者だったが。


 魔導部隊の面々は猛者でこそあるが無敵などではなく、やはり激しい戦いの末の蘇生に次ぐ蘇生……ついには消失(ロスト)にいたってしまったものもいる。


 ■


 君とレダはそれからも多くの言葉を交わし、君はちょっとした神聖魔法の教示も受ける。


 そして、また逢いましょうね、という言葉を背に、君は法皇の部屋を辞した。


 部屋の前には大主教ヒュレイアが待っており、こちらをちらちら見ながら執務室まで案内をしてくれた。


『ヒュレイアに思う所はないし、あの聖騎士サンドロスとやらにしたって軽くなでてやっただけだ』


『彼が剣を抜いていたら殺していたとおもうが、そんな事はなかったではないか考え込むな、元気をだせ』


 と君はヒュレイアに話かけるものの、彼女はピィだのウウだの言葉にならない言葉を返すばかりである。


 レダの話ではヒュレイアはこの国で有数の権力者だし、相対的にみてまともとの事だから、君としてはそんな彼女と余り敵対したくはなかった。


 だが当のヒュレイアは一刻も早く君に去って欲しいとおもっている。


 彼女は陰謀好きで権力好きで自分一番だーい好きな三十路のメスガキではあるが、躊躇なく暴力を振るえる相手への免疫が全くないため、君のような者は大の苦手なのだ。


 ■


 執務室で君はルクレツィアらにおおむね目的は達したので翌朝アヴァロンへ帰還し、準備を整えたら大迷宮へ挑むことを伝える。


 君はレダからいくつかの魔法の道具を受け取っていた。


 いずれも精神の保護を目的とした高級な道具だ。


 モーブとルクレツィアは深く頷き、出立の準備をします、と部屋を出ていった。


 レダとの話が長引いたからだろうか、ラーナラーナもいなければサンドロスもいない。


 ヒュレイアが所在なさげに立っていたので、座るように促す。


 良い機会だとばかりに、君はヒュレイアの存念についてきいてみることにした。


 大悪とやらについてどう考えているのか? 


 危機感はもっているのか? 


 政争の道具にしか考えていない、というようであれば警告くらいはしておこうとおもったからだ。


「確かに、仰る通りです。私は神託機関が発した大悪の兆しについて、そこまで深刻には捉えておりませんでした。いえ、今でさえもそうです。というより、大悪は確かに法典に出てくるモノであり、カナンの終生の怨敵であるとされていますが、それがどのように邪悪なのか、数多くの人の血が流れるといっても、具体的にどのような被害が発生しうるのか、実際にそれが発生した地では何がおこったのか……そういった材料が何もないのです」


「これでは危機感など抱きようも御座いません。 確かによろしからざるものが巣食っているのかもしれませんが、聖女に聖騎士を派遣すればどうとでもなると思っておりました。しかし……4人の聖騎士が、そして聖女ルクレツィアが敗北を、それもただならぬ敗北を喫したのならば、それなり以上に危険なのかもしれない、と考えを改めております。従って政争の道具ではなく、もう少し差し迫った危機という扱いでございます。……少なくも私の中では」


 ヒュレイアの話を聞いた君は「なるほどマトモである」と彼女を内心で賞賛する。


 過去どうおもっていたか、現在どう考えているか、それに対しどう対応しようとしているのかを自分の中で明確に出来ているのなら、仮に今後更に危機的な状況になっても現実的に打開案を練ってくれるに違いない。


 口先だけで必ずどうにかします、などと大言壮語を吐くのではなく、堅実に対応をしようというヒュレイアは確かにマトモであった。


 彼女はそれなりに以上に聡明なようだ。


 だがならばなぜレダを軽視しているのだろうか? 


 アレが尋常のものではないことくらいは分かるだろうに。


 君が疑問をぶつけると……


「当然わかっております」


 とヒュレイアは答えた。


 そこで、ああ、と君も察する。


「なるほど、他の大主教に潰されずにレダの影響力を国の上層部に残しておきたいがゆえの見せ掛けの反感か」と君がヒュレイアに問う。


 ヒュレイアはそれに答えず、ただ笑みを浮かべるのみであった。


 ・

 ・

 ・


 君は部屋を辞し、案内の従者に寝室まで案内をされた。

 上等なベッドに横になり、目を瞑る。


 夜が更けていく。


 §§§


『鍋について』


 ライカードのとある迷宮に居た鍋。

 通称『笑う鍋』。

 金色の鍋に顔がある。

 手足はない。


 膨大な知識を有している。

 彼は「所詮鍋の分際で」と自分を笑う人間を「その鍋より愚かな者は誰だい?」とあざ笑うのだ。


 だが、そこまでねじくれてしまうのも無理はない。


 彼の祖国はパルキアと呼ばれる国で、彼は元はそこで人々から尊敬され、慕われていた存在であった。

 鍋は愛すべき人々をもっと助けたいと勉強し、知恵をつけ、様々な叡智を語るようになったものの、人々は賢くなりすぎた鍋を疎ましく思い、やがては嘲り、侮辱するようになっていった。


 鍋はそんな侮蔑の日々に耐え切れず、世界を流れながれてライカードの迷宮の奥深くへ引きこもってしまった。


 そんな彼をひっぱりだしてきたのがライカード魔導部隊の面々である。


 彼らは実力のみを評価するゆえ、種族が鍋だろうがなんだろうが関係はないのだ。


 連日連夜延々と説得され、時には破壊され、また蘇生され、延々と三顧の礼をされた結果、鍋は根負けして地上へと出てきた。


 攻撃方法

 ・毒・麻痺・石化・即死が付与された斬撃を周囲4、5mに発生させる

 ・致死性の毒の霧を発生させる。

 ・凄い素早い。同じサイズのゴキブリよりも早い。

 ・凄い硬い。『核炎』が直撃しても無傷。

 ・魔導部隊の面々に鍛えられ、更に強い鍋になっている

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