第12話:The most powerful saint in Canaan
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「お逢いできて光栄です。遠い異邦のお方」
腰まで伸びる濡れ鴉の如き髪の麗しさよ。
指は細く白く、まるで白魚の如し。
唇はまるで紅を差したように赤く艶やかだ。
だが君の目はその美しさには惑わされない。
なぜなら君が看破した法皇レダの階梯は──……
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カナン神聖国において、法皇は信仰の旗頭でこそあるが、実質的にはお飾りとされている。
それは間違いない。
法皇は一切の政務にかかわることはなく、国を動かすのは6人の大主教である。
しかし、それは政治的にはお飾りである、という意味なのだ。
信仰の旗頭、魔に抗する人類の守護者という意味では全く意味が変わってくる。
カナン神聖国の法皇とは、カナン神聖国最強の
このカナンでは魔に対する尖兵としてもっとも優れた者が、もっとも強いものが法皇に選ばれるのだ。
かつてとある戦場を弔う際、魔道に堕ちた5000のアンデッドを息1つ切らさず一斉浄化せしめた当代法皇レダは、紛れもなく現在のカナンにおいて最強の存在である。
政務に関わらないのも、軽んじられているからではない。
強大な魔に備え、それに抗すべく日夜法力を練り上げ練磨し、研鑽しなければならないからだ。
仮にも大主教であるヒュレイアをただの道具扱いするような目でみる君が、戦場国家ライカードにおいて最上級とされる礼をとったのはなぜか。
当代法皇レダの研鑽に研鑽を重ね磨きぬかれた金剛石の如き強さに敬意を払ったためであった。
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「少なくともこのカナンでは、わたくしが最強なのです」
法皇レダはそう嘯く。
同時に空間ごとぶちぬく様な貫き手が君の脇腹めがけて飛んでくる。
幾重にも身体強化魔法を重ねられた必殺の貫き手は、三重に重ねた板金をも容易に貫く威力だ。
君はその威力を認め、肘でレダの貫き手を打ち落とす。
体勢を崩したレダだが、肘打ちの衝撃を利用し姿勢を低くし……あいた手で床を擦りすくいあげるように君の足を捉えようとする。
君は脚を高く掲げ、低い姿勢のレダの頭部にむけて踵落としを放った。
すくなくとも先の聖騎士サンドロスなどが受ければ、頭部を潰してなお飽き足らず、股間部まで鎧ごと一気に引き裂くほどの力を込めている。
レダは君の足へ伸ばしてた手を咄嗟に頭上に掲げ、踵落としを腕で受止める。
鈍く、危険な音が響き渡りレダの足元の床に
だが君の剛脚を受止めた当のレダは、花のようなかんばせに甘い笑みを浮かべていた。
君もまた笑みを返す。
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「素晴らしいお手前で御座いますね」
レダはふうと息を1つつき、部屋の中心においてある大きなソファへ腰掛けた。
あなたもどうぞ、と促され、君もソファへ深く身を沈める。
「事情はきいております。大悪は確かに存在し、それに抗すべく手札を増やしたい……まとめるとこんなところでございましょう?」
君は頷いた。
呪いといった類への対策についてもレダに相談をする。
「そもそもそれが呪いであるのか何なのか、話をきいただけでは検討もつきません。ただ、私がおもうに……呪いといった無形の力ではなく、なにがしかの侵入……そうですねぇ……寄生体などが体内に侵入したのではないでしょうか。貴方のとった治療法? のようなもので彼女が正気に戻ったのならば、すくなくともそれは物理的に排除できるものかと愚考いたしますわ」
それにしても、とレダは続けた。
「いきなり手合わせなど受けてくださって感謝いたします……。大悪からルクレツィアを救ったときいて、どれほどの腕前か気になってしまいまして……。大呪大悪はカナンの終生の敵。滅ぼすのはカナンの使命。半端な部外者がそれに横槍を入れてくるのならば、仮にルクレツィアの恩人といえど亡き者になってもらうつもりだったのですが……凄まじい業の冴えでございました」
君はかぶりをふった。
君の評価としては、少なくとも肉弾戦のみで彼女を倒すことは難しいだろう、というものだ。
互いに切っていない手札が何枚もある。
まあちょっとした交流の範疇だろう……
君がそういうと、レダは頬を淡く染め「わたくしは神に仕えているのだから、誘惑をしても無駄ですよ」と言った。
君は肩をすくめ、茶をすする。
体をつかっての対話は終わった。
これからは言葉での対話だ。
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