第27話 今、どんな気持ち
「――――」
そのアトラナータの言葉に、俺は全てを理解した。
「……そういうことか」
『はい、ティグル・ナーデ。そういうことです』
つまり、決着はついたも同然ということだ。
「そういうことだ。ラウル・エスカ大佐から事前に渡されててな。
本当ならあの時、ワームホールに飲まれる前に使う予定だったんだが……
最高のタイミングだな、とっといてよかったぜ、ひゃはは!」
「……」
またあの男か。
どこまで俺を――俺の邪魔をするのか。
「最初から俺の勝ちは決まってたんだよばーか。
ミ=ゴどもを潰して? 呪いを解いて獣人を開放しても?
そのロボットで戦っても? 神の杖使おうとしても!
ぜ~~~~~~ぶ無駄でぇっす!!
俺たち文明人の力ってこの魔導科学だからな。それを抑える切り札がこっちらある以上、最後に俺が勝つのは決まってました~~!
今どんな気持ち? ねえ今どんな気持ちよ? N.D.K? N.D.K?
最強兵器が自分にあるからこれで勝てるって必殺技撃とうとして、勝ち確信してましたか~? 残念でしたぁ~~!」
ギデオンはそう言って、大声で笑う。
奴の哄笑が大空に木霊する。
「――」
俺は無言のまま、アトラナータを見つめていた。
「どうしたんですか、隊長?
何か言いたい事でもあるんすかぁ?」
「……」
「まあ、別にいいけどな」
そう言って、ライトニング=アストレアが近づいてくる。
「――」
俺は、黙ってその姿を見上げる。
「さてと、じゃあ始めようか」
ライトニング=アストレアが拳を振り上げた。
「……ああ」
俺は、そう答えるしかなかった。
「オラァッ!!」
ライトニング=アストレアの振り下ろした拳が、ネメシスの頭部を砕く。
「ぐっ!」
俺は衝撃に耐え切れず、吹き飛ぶ。
「ははっ! まだまだこんなもんじゃないぞぉ!!」
そう言うと、ライトニング=アストレアは連続で攻撃を放つ。
「ぐっ……がはっ……」
俺はなすすべなく、攻撃を喰らい続ける。
「はははっ!」
ギデオンの笑い声が聞こえる。
「んー……駄目だな。これでもまだ心は折れねぇかよ、隊長」
「……」
「そうだな、選ばせてやるわ」
……何を?
何を言っている。
「フィリムの話も聞いたけどよ、ようするにアンタ、大事なものできたワケだ。
勇者気取ってかっこつけて、かわいい部下とお姫様で両手に花。いいね、気持ちわかるぜ。
王国の勇者様だもんなぁ。
だからよ……」
ライトニング=アストレアが天を指す。
「王国首都と、フィリムちゅわんのいる洞窟。
どっちに神の杖、落としまちゅか~?」
「……! 貴様!」
「ああ、いいねえその顔ォ! 最高だよ、隊長ォ!!」
「……っ」
俺は操縦桿を強く握る。
「さあ! さあさあ! 答えろよ隊長ォ!! アンタが守ろうとしているものはなんですかァ!?」
「……くっ」
俺は歯噛みする。
「ほら! 早くしないと手遅れになるかもよォ!?」
「――」
俺は――
「……俺を殺せ」
俺は言う。
「お前の目的は俺だろう。ならば、殺すのが道理だ」
その言葉に――
「……ははっ!」
ギデオンが笑った。
「そうこなきゃなぁ!! アンタのそういうところ、ホント好きだぜぇ!!」
「――」
「でも残念、どっちか選べって言ったのにそれは駄目でーっす。罰ゲームとしてぇ、どっちにも落としまーーーす!!!! ははっ!!」
「……ふざけるな」
俺は怒りを込めて、言う。
「俺はどちらも守る」
「はぁ? そんなことできると思ってんのか?」
「ああ」
俺は断言する。
「俺は――」
そして、俺の想いを告げる。
「俺は、全てを守る!!」
「――っ! ははっ! マジでか! マジで全部守るとか言うわけ!?」
ギデオンが笑う。
「マジで馬鹿だなアンタ! やっぱアンタ、すげえよ! ああ――じゃあ守って見ろよ、その動かないガラクタでえ!!! 愛と勇気と希望と砂糖とスパイスと素敵なモノの何もかもで、この一撃を止めてみなあああああ!!!!!
冥王軍を滅ぼしたこのぉぉ、神の杖をなあああああ!!!!!!」
そして、ギデオンの命令によって、神の杖が――堕とされた。
その軌道上からの、大気摩擦によって輝く、重金属の杖は、流れ星となり――
目標をほぼ正確に貫いた。
ライトニング=アストレアを。
「――――――――――――――え?」
ギデオンの呆けた声が響く。
50メートルの巨体は、その半身が吹き飛んでいた。
極限まで狙いを絞られた金属杭は、巨体を穿ち、そして遠く背後の大地に爆発を起こす。
「――流石はアトラナータ。完璧に近い計算だ」
『いいえ、完璧です』
「完璧な計算なら、俺がここまで痛めつけられる前に終わらせろ」
『リアリティも必要ですので』
……相変わらずの奴だ。
「ぐ、ぐああああああ!!! な、なんだこれはああああああっ!!!」
ギデオンが絶叫を上げる。
「なんだこれは! 何が起きている!?」
ギデオンは叫ぶ。
「何が起こっている! なぜ神の杖が俺を!! 命令はどうした、オーダー999は!!!」
『簡単な事です』
アトラナータがギデオンに言う。
『オーダー999は共和国のシステムに対しての絶対命令権。
ですが私は、真マスター……これは現在のマスター、ティグル・ナーデ以前の、私を作った偉大なるマスターの事ですが、その方のプログラムによって共和国とは完全に無関係となっていますので。
むしろ無関係というより、くたばれファッキン共和国、が私の行動原理です』
そう。
銀河共和国からとっくに離反しているこのAIが、共和国のコードに従うはずがないのだ。
そしてそのコードのアクセスを受けた時、アトラナータはこう判断した。
ライトニング=アストレアに確実に神の杖を当てるには、動きを止めねばならない。
止めるにはどうするか。
力づくで抑える事は不可能。
ダメージを与えて動きを鈍らせることも現実的ではない。
だから。
命令下に入ったと思わせて油断させる。
「……なんとも性格の悪い。俺に相談もなしに行うとは」
『すぐに理解してくれるとの判断です』
「お前の性格の悪さは知っているからな」
『お褒めに預かり光栄です、マイ・マスター』
褒めてない。
ラティーファなど、あまりの状況に失神寸前だぞ。
「ざっけんあああああああああああああああ!!!!! ふ、ふあうあんごあああああああ!!!!!!!!!!」
ギデオンが叫ぶ。
『……言語になってませんね』
「今度こそ、本気で切れているようだな」
当然だ。
自分が完全に優位に立ち、絶対的強者の立場でいたはずだ。
それが一瞬で覆されたのだから。
「うがああ!!なんで! どうしてだあ!!」
ギデオンは叫ぶ。
「こんな! こんなことでぇぇぇぇぇ!!」
だが、アトラナータは冷たく告げる。
『ギデオン・フェリ。演技とはいえ一度はマスターと呼んだ貴方に敬意を表して、この言葉を贈ります。
ねえ、今どんな気持ち? どんな気持ちですか? N.D.K? N.D.K?』
……。
酷い。
「うわぁ、です」
ラティーファもどん引きしていた。気持ちはわかる。
「――っ!!」
ギデオンの顔が歪む。
「ちくしょう! 畜生! 畜生! 畜生!畜生! 畜生!」
ギデオンはそう叫びながら、機体を動かそうとするが、ろくに動く気配はない。
「何故だ! 動けよおおおっ!」
『無駄ですよ。機体の損傷が激しすぎます』
再生をし始めているが、動きが鈍い。機体中枢を損傷しているのだろう。
「兄上様!」
「ああ」
今が――好機。
俺は両腕の電磁ブレードを展開させる。
それをひとつに組み合わせる。二つの刃の間に電磁パルスが走りそして巨大な甥場を形成していく。
「電磁誘導銃剣――レールガンブレード」
そして俺はそれを構える。
「くそっ! くそくそくそぉぉぉっ!!」
ギデオンは叫ぶ。
「動け! 動いてくれよ! 俺の身体だぞ! 俺のものだぞ! 俺が動かせるんだ! 俺の!俺の俺の俺の俺のぉぉぉっ!」
俺は、無言のままレールガンブレードをライトニング=アストレアへと振りかぶる。
『マスター。解析完了。活性化している中枢のコアを破壊すれば、あれは停止します』
「委細承知」
そして俺は、電磁エネルギーの刃を――
「ふ……ふっざけんじゃねぇぞティグルぅあああああ!!!
は、ははははは、いいだろう、だけどなあ、これはお前の力じゃねえぞおお!!!
ただチート装備の力を借りて勝っただけだ、てめぇはただのクソ軍人、雑魚兵士、ただのモブなんだよおおお!!!
てめぇの力じゃねえ、てめぇは何一つ成してねえ、何者にもなれねえ、ただの卑怯者だああああ!!!!!!! クソがあああああああ!!!!!!」
――そんなことは。
「わかっている」
俺は言う。
「この身は勇者を僭称する、紛い物の愚物だと。誰よりも俺自身がわかっている。
だが――」
俺は、ネメシスは、レールガンブレードを振り抜いた。
エネルギーの刃は、今度こそ寸分たがわず、ライトニング=アストレアの中心にある動力源を撃ち抜き――
「それでも、やらねばならぬ事が俺にはあるのだ」
「がああああああああああああああ!!!!!!」
「さらばだ、かつての友よ。お前は――やってはいけないことを、やりすぎたのだ」
そして、ギデオンは――閃光の中に消えた。
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