真夜中の街
外に出る頃には真夜中になっていた。青白い月が高い所からこちらを見下ろしている。街は静けさ、ではなく、狂った夜のメロディーに包まれていた。
もうこんな時間……お母さんきっとカンカンだろうな……
夜の街は大人しか出歩いちゃいけない決まりになっている。だけど近道だからちょっとくらい平気だよね?
この島では大人っていうのは二十三歳から。お酒は二十歳になってから。
昼間の街は優しいおばさんやおじさんが、商店や駄菓子屋で働いている。八百屋さんやお肉屋さんもある。本屋さんが私のお気に入り。もちろん狂ったメロディー付き。それでもとっても治安はいいし、みんな優しくて明るい素敵な街よ?
だけど夜の街は昼間と全然様子が違っていた。
水銀燈の下にはトレンチコートを着込んだ大人が集まってプカプカとタバコを吹かしている。青やピンクの怪しいネオンサインも光ってる。なんだか大人達がこちらを見ているような気がして美空は急いで自分の家に向かった。
トレンチコート達はゆっくりと滑るように移動した。こっちについてくる。チラチラ後ろを確認しながら早足で歩く。やっぱりゆっくり付いてくる。
美空は思わず駆け出した。それなのにトレンチコートはやっぱりゆっくり付いてくる。
息があがって立ち止まると、トレンチコート達は水銀灯の下でやっぱりタバコを吹かし始めた。
その隙に路地を曲がって咄嗟にゴミ箱の裏に隠れた。
タバコをプカプカ吹かしながらトレンチコート達が角を曲がってやって来た。私を見失ったみたい。舌打ちの音と話す声が聞こえてきた。しわがれた低い声だった。
「怪しい子どもを見失った……」
「シンナーがやられたらしい……」
「誰かがオルゴールを狙ってる……」
「何のために……?」
「大本営は今はまだ様子を見るそうだ……」
ゴミ箱の影から覗き見るとトレンチコート達は身長が三メートル近くあるように見えた。トレンチコート達は話し終えると、ゆらゆらと揺れて煙のように消えてしまった。
いったい今のは何だったの!?
やっと住宅地に差し掛かるといつもの狂ったメロディーが聞こえてきた。美空は頭がクラクラしながらもホッと胸を撫で下ろした。
よかった。ここまで来たらもう安心だよね?
家に帰るとお母さんが顔を真っ赤にして待っていた。真っ青じゃなくて良かったと美空は思った。
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