第35話 チョコチョコあるバレバレ的なバレンタイン(リンカ視点)
「ケセラさんはバレンタインにチョコをあげたりします?」
「ななっ、いきなりの発言やな!?」
校内でのお昼休み、ミクルちゃんによる当然の質問に気が動転してるケセラちゃん。
そう、このご時世、同じ女の子同士でも恋の対象になるのもありありですわ。
「今年は手作りにしようかと悩んでいるのですが、貰ってくれるでしょうか?」
「あわわ、ちょい待ちミクル、ウチにも心の準備とやらが……」
ケセラちゃんが明後日の方向を見て、『お手洗いに行ってくる』と言いながら、リンカを廊下に連れ出したのはいいものの、彼女の顔は茹でたタコのように真っ赤でしたわ。
人は見かけによらないというけれど、耳にピアスを開ける度胸はあっても、これほどにまで恋愛にはウブな娘もいるものですわね。
「おい、リンカ……ちょっといいか?」
「何ですの、人を強引に誘ってこんな場所に呼びつけて?」
「ねえ、今日の服、変じゃないかな?」
「どう見てもいつもの制服ですわよ?」
ケセラの制服だけ特別製もなく、ましてや私服登校でもない。
変と言ったらケセラの慌てんぼうぶりを直視するべきかも知れないが……。
「どうしよ、ウチなんかでええんかな……」
「ケセラちゃん、何も心配はいりませんわ。恋に障害は付き物ですし。むしろ障害があるからこそ燃えるもの」
「ケセラちゃんはリンカから見ても可愛らしい女の子ですし、もっと自分に自信を持つべきですわよ」
リンカの言葉に安心したのか、ケセラが雨上がりの花のように朗らかに笑ってみせて、リンカにVサインをする。
そう、それでこそいつものケセラちゃんらしい。
あなたに悩んだ顔は似合わないですし、いつも笑っていて欲しいですわ。
「じゃあ、そこで見ててな、リンカ。ウチは覚悟を決めたから」
「ええ。スマホでの撮影もバッチリオッケーですわ」
「あんなあ、一発オケじゃなくて、何でもかんでも撮るの止めよーや?」
「この一生に二度とない晴れ舞台を映像に遺さない方がどうかしてますわ」
「二度とないって、ウチ、そんなに魅力ない?」
「あっ、失礼しましたわ。一度きりでしたわね」
「何かお葬式みたいなノリやな。まあ、ええわ」
ケセラが再び、ミクルの元に駆けつける。
少しの間、二人の空間に沈黙が流れるが、その沈黙を破ったのは荒い呼吸を整えたケセラの方だった。
「ごめん、思った以上に流れんで」
「ケセラさん、女の子なしからぬ発言ですね」
「へっ? ウチは女の子なんやけど?」
トイレに流す紙が多過ぎてトイレが詰まってしまう経験は誰にもある。
こんな時、スッポンという棒状のアイテムが役に立つが、最近の家庭では少なくなってきた物でもある。
ちなみに本場の亀と違い、噛んでも離してくれるので大丈夫。
「とりあえず材料を買って来ましたので、一緒に試食をお願いしてもいいですか? 人それぞれの好みがあると思いますので」
「オケオケ。何でもこいやー!!」
どんなチョコの種類でもそこから恋の始まりになる。
チョコを通じて、ミクルちゃんの愛がひしひしと伝わってきますわ。
「それではケセラさんにはこれを」
ミクルが手提げバッグをひっくり返すと、中から色とりどりのチョコの箱が飛び出してきて、山積みになるが……。
「これ、全部お酒入りやん」
「いやー、
「あんな、ウチも未成年なんやけど?」
お酒は二十歳になってから。
成長期に毒でもあるアルコールは口にしては駄目ですわよ。
「当たって砕けろって言いますもんね」
「いや、言葉が砕けるまで食わす気かよ‼」
冷や汗をかいたケセラちゃんが震える手でテーブルに乱雑に置かれた数個のチョコを積み木のように並べ、しばらくして『ごめん、ちょっと急用を思い出した』とミクルに告げてその場を早々に立ち去る。
そして早足でリンカに近づいたと思いきや、強引に首根っこを掴まれ、またもや廊下に連れ出されたわ。
何ですの?
この時期の渡り廊下は窓の隙間から流れる冷気で寒いので手短にお願いしますわ。
「リンカ、ホンマにどうしよ? 恋する相手はウチを酔っぱらいにさせて、その気にさせようとする作戦に出たで」
「別にそれでもいいのでは?」
「いや、酒の力を借りて告白とか、ウチがやるような芸当やないで」
「ケセラちゃん、遊んでいるように見えて実は根は真面目だったのですね」
「何よ、ウチはいつも真面目やん!」
誠に残念だが、自分で真面目と口に出して言う人ほど実は二癖もある相手だったという説はよくある。
逆にヤンチャだった子供が大人になると真っ当な生き方をすると言うらしいが、それは言い伝えの伝説で、人にもよるものである。
多種多様な人間がいるし、悪いことを繰り返して真の悪に染まる大人になるタイプもいる。
チョコを渡す相手にしても人それぞれですわ。
「ケセラさん、リンカさん? こんな廊下で何のヒソヒソ話をしているのですか?」
「なっ、ミクル、どうしてここに!?」
「はい。ジーラさんが教えてくれましたので」
教室へ目を通すと、目が合ったジーラが廊下側の窓際でグッと熱き拳を握りしめていた。
今日は相方来ないなと思っていましたら、こんな高度な絡み方も覚えたのですわね。
「さあ、ケセラさん、逃げてないで真剣に考えて下さい」
「いや、ミクルちん? そんなの言われても困るわ」
「いいえ、タツノ君への義理チョコを真剣に考えて下さい」
そこで冷やしたチョコのように固まってしまうケセラちゃん。
「へっ、タツノってあの変な口調ないとこ(第14話より)のこと?」
「そうですけど何を想像してましたか?」
「あー、変な期待させてからに。こうなったらヤケや。チョコの包装紙に付いたヘルマークだけを切り取って地獄のようにガッカリさせてやんよ」
「ならウィスキーボンボンの試食もお願いします。ケセラさんの分もありますので」
「だからお酒入りを勧めるな!」
ミクルちゃんは、ここでは出番が少ないいとこの男の子に義理チョコをプレゼントするみたいだけど、この膨大な量とハートの型抜きからして、本命がいてもおかしくないですわね。
──それにしても明日がバレンタインデー当日なのにこんなボケを半永久的にしてもいいのかしら。
もしかしてミクルちゃんは、そのボケも生チョコのように生地の中に詰め込むつもりかしら?
ケセラちゃん同様、ミクルちゃんのバレンタイン事情にも悩みたくもなりますわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます