第26話 進路を決めるのに悪ふざけなポーズは入らない(ジーラ視点)
「「「進路希望調査表ぉぉぉー!?」」」
自分の質問に大声で反応する友達……だよね。
「……声が大きすぎ」
「だってさ、この時期になっても進路希望を提出してない人がおるとは」
「身近に恐怖は潜んでいますね」
「この場合、真っ先に怖いのはジーラのご両親の反応ですわね」
「せやな、部屋にひきこもってニートになったらと考えると震えが止まらんで……」
三人揃って自分の精神をボコボコに殴ってくるので、学生の今から格ゲーの技を習得し、ハロー拳を覚醒して第二の学生に転職したい。
(※人はそれを留年と呼ぶ)
「……お三人さんはもう足場は決めた?」
とりあえず心の補強をするため、将来安定組な三人の意見を訊いてみることにした。
「私は東大かな。特に意味はないけど教職になるときに有利と言われて」
「……えっ、今時そんな女子が‼」
「ねっ。ウチも止めたんよ。先生より看護師とかを選んだ方がいいのにさ。給料とかの待遇もいいし」
「徹夜は嫌ですから」
「そんなに夜勤は嫌いかねー」
「はい、人は夜中は寝る生き物です」
「生き物のお手本みたいな口振りやな」
ケセラが苦笑いをしながらミクルを茶化すが本人はえらく真面目な顔付きだ。
「この前の模試テストも赤点ギリギリだったんやで」
「……それはヤバい」
「やろ? ウチが何回教えてもあの点数じゃね」
「テストというのは0点さえ取らなければいいのでは?」
「そりゃ、ミクルのお花畑な頭ん中だけや」
自分たちの高校にはマークシートの箇所もあるので、逆に0点を取る方が難しいとミクルに言ってみたいが、お花畑な鬼ヶ島行きだけは嫌だ。
鬼さんが地面に突き立てた釘バットを前にして、地面にあるこの豆腐を跨ぎながら崩れないように反復横飛びしろ! とか何の罰ゲームだろう……。
(※豆腐はスタッフが美味しくいただきました)
「そういうケセラさんは関西大学じゃないですか」
「まあ、ウチならやれるかと」
「私と結婚するとか言っておいて、この裏切り者ー‼」
「わー、じゃれるなって。いつの頃の話だよ‼」
二人が笑いながら仲良く会話をする中、リンカは物言わぬ顔でこちらを見てる。
「リンカ、どうしたん?」
「お二人とも進学希望ですのー!?」
「まっ、まさかリンカ!?」
「しゅ、しゅう……もごもご!?」
「あー、シュー、シュークリームが食べたい気分やなー‼」
ケセラが焦りながらミクルの口を手で塞ぎ、次の言葉を探そうとする。
あのなあ、リンカは親の都合で……。
「──ええ、地元の大学に進学ですわ」
ズルッと音を立てながら、ケセラがその場に豪快に倒れ込む。
「ケセラさん、貧血気味ですか?」
「誰のせいやと思ってんのや‼」
「レバーとかが良いらしいですよ?」
「ふざけんな、この食欲魔女!」
「……まあまあ、怒らない、起こさない」
「むぐっ……!?」
とりあえず戦乱を起こさないよう、ケセラの口にフランスパンを放り込んだからいいだろう。
腹が減っては判断鈍るだし……。
「それでは道はバラバラになるのですけど三人とも進学の道に進むのですね」
「まあ、不景気な世の中ですし、大学は行っておいて損はないですからね」
「そのタイマン上等なミクルちんが一番危ないんやけどな」
「ケセラさあぁーん!」
「ふぬっ!!」
ミクルの空手チョップを自然体で受け止めるケセラ。
豚肉のケチャップ料理じゃあるまいし、素人の真似事のチョップが通用するもんか。
「それでジーラさんはどうするのですか?」
「食欲魔女はともかく、ミクルみたいになんちゃって進学するん?」
「ケセラさわぁーぬ!」
「すでに日本語やないし、何の怪しげな呪文かいな!?」
ミクルのパンチの連打を片手で受け流すケセラ。
もんじゃ焼きじゃあるまいし、素人によるトリの手さばき(手羽先)が通用するもんか。
「ジーラ、リンカには分かっていましてよ」
「……あの時の約束でしょう?」
何もかも把握済みなのか、リンカが優しい微笑みで自分を見てる。
言うなら今しかないことに……。
「……自分、将来パンの経営をするためにパンの専門学校に行く」
「「えっ!?」」
ミクルとケセラが驚愕してる。
福笑いにしたくらいの今日一番のおかしな表情だ。
「ええ、ジーラが言うには製パン学校ということになりますわ」
「それであのパンのアニメが好きなんやな」
「……ノンノン」
リンカのフォローにツッコミを入れるケセラの言い分に大きく指をちらつかせ、興味の対象を変える。
「……毎日食べていてパンが好きになってから、ネットで調べていて、偶然あのアニメにハマった」
「「なるほど」」
二人の呼吸と言葉がピッタリと一致する。
もう勢いでアメリコ横断クイズに参加したらどう?
「それで何で今まで提出せんやったん? いくら専門学校でも、早めに受験対策せんと受からんで?」
「最近のケセラさんは家に帰ってから毎日真面目に勉強ですもんね。私が個人的に遊びに誘ってもノッて来ませんし」
「いや、ミクルの行いがおかしいだけで受験生なら当然の行為やからな」
「むむっ……」
その途端、口をつむったミクルのほっぺが大きく膨らむ。
「……あはははっ‼」
「なっ、ジーラ?」
「……ミクルの顔が焼き上がるパンのようでw」
「ジーラさん」
傍に来たミクルが自分の両手をガッシリと握ってくる。
「やるからには全力投球ですよ」
「そうやで。みんなで揃って新天地へ進学や」
「ジーラ、頑張りますわよ」
「……うん」
自分は胸に誓った。
こうなったら意地でも頑張ってパン職人になるんだと。
「それでジーラさん、パン屋さんを開業したら、仲間のよしみでパンを値引きしてくれてですね……」
「ミクル、
「ケセラさん、これはもう食うか食われるかの世界です」
「食レポみたいなこと言うな!」
これで自分の意思はセメントのように固まった。
みんなに相談して良かった。
これからもジャム作りを頑張るぞー‼
(パン屋では?)
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