第58話 忍んできた男は問答無用で私に剣を突き刺してきました

結局、終わった後も、ハロルドは黒い十字架の残骸をどうするか教えてくれなかった。そもそも、黒い十字架の残骸なんて残っていたっけ?


私の怒りの鉄拳障壁の前に木端微塵に吹っ飛んだはずだったんだけど。


淫乱聖女達は色々聞きたそうにしていたけれど、

「明日、ベルファストの王都に送って分析する」

とハロルドは言うし、

「それまでは何があるかわかりませんから、聖女キャサリン様のもとで大切に保管してもらいます」

エイブさんまでそんな事言うから、そうかなと思うんだけど。


でも、そんな、ヤバそうなものを私の傍に置かないでほしい。


と抗議したら、私のテントの横に別のテントを作ってくれて、なんか黒い十字架みたいなものを入れたんだけど。


私は胡散臭そうにそれを一瞥した。そんな形なんて絶対に残っているはずはないのだ。何しろ粉々に打ち砕いたのだから。

でも、そんな破片持って来たりして何に使うんだろう?


色々聞いても誰も何も答えてくれないし、それやこれやのドサクサに紛れて普通にハロルドらと話すようになってしまった。うーん、エロ・ハロロルドを許してしまったというか、有耶無耶にされた。


エロ龍もいつの間にか普通に私の胸の中にいるし、ムカつくから

「あの淫乱聖女にやろうかしら」

「いや、それだけは何卒お止め下さい」

「龍様が篭絡されたら目も当てられません」

エイブさんと伯爵が必死に言うんだけど、私に逆らってきたらもう一度張り倒すだけだ。

そう私が言うと、必死に龍はうるうるした目で私を見てくるんだけど。うーん、怪しい。

そう思いつつ、龍を抱っこしている私は甘すぎるんだろうけど。



結局、その日も疲れていたのか、龍を抱っこしてあっさりと私は寝てしまったのだ。


でも、その日の夜中にハロルドに叩き起こされたのだ。


寝袋を叩かれて私はムッとして目を覚ました。


そこにはハロルドがいたのだ。


何こいつ、夜這いに来たの?


私が悲鳴を上げそうになった時だ。


「しっ」

慌ててハロルドが私の口に指を当ててきた。

思いっきり噛みついてやったら

悶絶しているんだけど。


「お静かに」

その後ろにエイブさんまで武装しているのを見て私はなにか始まるのだと気がついた。


でも、こんな夜中に何なのだ。


ひょっとして、ロンド王国軍に夜襲をかけるとか?


「ロンド王国軍に動きがあります」

エイブさんが言ってくれた。


「動きって?」

「まだわかりませんが、極秘になにか動いています」

私の問にエイブさんが応えてくれた。


「こちらが偽の黒い十字架を用意したのだ。敵の狙いはそれだろう」

ハロルドが説明してくれた。


「じゃあ、あの偽物はロンド軍を罠にかけるため?」

「そうだ。おそらく、キャサリンの言うように、あの黒い十字架を仕掛けたのはあの聖女だ」

「そうよ。あの淫乱聖女よ」

私がハロルドの言葉に頷くと、


「調べられたら困るのだろう。奪還しに来ると思うから、キャサリンはここで寝ていてくれ」

「えっ、寝たふりするの?」

ハロルドが頼んできたんだけど、寝たふりするのは苦手だ。今まで家族を騙せたこともないんだけど・・・・


「そうだ」

「いつまで?」

「敵が入ってくる前かな」

「いきなり斬り付けられたらどうするのよ」

私は心配になって聞いた。


「そうならないように外には見張りをつけておく。斬り付けられてもキャサリンの障壁ならば問題ないだろう」

「まあ、それはそうだけど」

いざとなったら龍もいるし、問題はないと思うのだけど、それを婚約者に求めるのはどうなんだろう? 普通は婚約者を守るために一緒の部屋にいるとか言うのに! 私がジト目で見ると、

「これも、聖女を罠にはめるためだ。いつまでも狙い続けられたくないだろう。あの聖女はしつこそうだ」

ハロルドがそう言ってきた。


確かに淫乱聖女はいつまでも私を狙って来そうだ。何回も襲撃してきたし。このあたりで一網打尽にする必要があるだろう。


私は仕方なしに、寝たふりをすることにしたのだ。




でも、暇だ。どうすれば良いのだ?


龍の毛をもふもふしてやり過ごすが、龍は気持ちよさそうに寝ている。


うーん、私一人が暇なんだけど。


それやこれやで、2時間位がだったのだろうか。


いきなり、テントの扉がゆっくりと開けられた。


男が入ってきたみたいだ。


薄目で見ると、その男は私を見るといきなり剣を抜くや、目にも留まらぬ速さで思いっきり突き刺してきたのだ。


嘘ーーーー。そんなの聞いていない!

私は悲鳴を上げる間もなかった。


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