第53話 聖女視点4 ヒロインなのに、疲労困憊になるまで討伐の治療係をさせられて悪役令嬢に対する恨みが増えました

嘘ーーー!


私は魔物の大軍を見て蒼白になった。何なのだこの群れは。本当に大群となってこちらに向かってくるのだ。


エイベルも蒼白になっている。


2日間荷馬車に乗せられて馬車酔いに吐きながら何とかここまで着たのだが、その前には魔物の大軍が現れたのだ。




「者共、戦闘準備!」

総指揮官のエイベルが役に立たないのを見ると騎士団長が叫んだ。


全員抜刀した。


「魔術師たちでまず攻撃しろ」

騎士団長の言葉でまず、魔術師達が攻撃を始めた。魔物の前で巨大な爆発が起こる。多くの魔物が死んだ。しかし、魔物たちは後ろからどんどん湧いてくる。そして、魔物たちは攻撃を物ともせずに怯まずにこちらに向かってくるのだ。


何故だ? 普通は怯むだろう?


しかし、魔物たちは後ろの何かに怯えるように皆必死にこちらに向かって走ってくるのだ。


後ろになにかいるのか?


しかし、そんな事を考えている余裕はなかった。


魔術師達の攻撃を逃れた魔物たちがこちらに向かってきたのだ。


「騎士団。越えてきた魔物たちを1匹たりとも逃すな。必ず殲滅せよ」

騎士団長が叫ぶ。


「ウォーーー」

騎士達が大声を上げて魔物たちに突入していった。


凄まじい戦いが始まった。


多くの魔物は騎士達に斬り裂かれるが、騎士達がやられる場合もある。


血潮を飛ばして倒れる騎士達が続出した。


私とエイベルは唖然とそれを見ていた。


「聖女様。すぐに治療を」

私の前に次から次にやられた騎士達が運ばれてくる。


「こ、こんなの無理よ」

私は腕が千切れた騎士を見せられて思わずドン引きした。


「何を言っているのですか。すぐに治療を」

私の横にはいつの間にか騎士団長が立っていた。


「無理、無理よ」

私はその騎士をまともに見ることも出来なかった。サボって遊んでいた私はこんなにひどいけが人を見るのは初めてだったのだ。

私は騎士団長の前から逃げ出そうとした。


バシーーーン

「甘えるな」

私は思いっきり騎士団長に頬を張られていた。


「な、何をするのよ」

私は生まれて初めて頬を張られたのだ。この熊、何してくれるのよ! 私のきれいな頬を張るなんて、許さない。


私はきっとして騎士団長を見ようとしたが、そこには鬼のように怒った騎士団長が聳え立っていたのだ。


いや、これは駄目だ。下手したら殺される。


横のエイベルを見ると、彼は呆然としていて何も助けてくれなかった。本当にこんな時に役に立たない。


「つべこべ言わずにさっさとしろ」

私を殺しそうな勢いで騎士団長が私に命令していた。

私は恐怖のあまり、頭が真っ白になった。このままでは殺される。そうだ、こんな狂人には逆らってはいけないのだ。


私は、慌ててその騎士にヒールをかけたのだ。


もう私は生きるために必死だった。殺されないために眼の前のけが人にヒールをかけた。と言うかかけにかけまくった。


私の前に次々に血まみれで運ばてくる騎士達にヒールをかけにかけまくったのだ。


これだけ働いたのは前世も含めて初めてだった。私は生き残るために必死だったのだ。


その日は気付いたらその場に気を失うようにして寝ていたのだ。




そして、これから1週間、そんな生活が続いたのだった。

私はヒロインなのに。王宮でエイベルの横に座って優雅にお茶を飲んでいるはずが、戦場で血まみれになってご飯を食べる暇もなく、下女のように働かされるってどういうことよ! 絶対に変だ。


それもこれも絶対にあの悪役令嬢が何かやってくれたからに違いない。


私は絶対にあの悪役令嬢を殺すことに決めたのだ。それもなぶり殺しにしてやる。絶対に許さない。


そう思ってその日もヒールをかけていた時だ。



ズカっ


私はいきなり脳天に直撃を受けたようなショックに見舞われて、頭を抱えて倒れ込んだ。

これは私が命じてダンジョンに突き刺した黒の十字架が壊されたのだ。絶対に。


「おい、魔物が消えていくぞ」

「本当だ、ついにやったぞ」

天幕の外で大声で叫び合う、騎士達の喜びの声が聞こえた。

そんな中、私は頭が締め付けられるような痛みに、気を失っていた。













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