第43話 王宮の奥の物寂しいトイレで襲われてしまいました

その後、陛下の開会の挨拶があって舞踏会は盛大に始まった。


そして、最初に陛下と王妃殿下が踊りだされる。


ファーストダンスだ。流石に慣れていらっしゃっておふたりともお上手だった。


そして、続いて次は王族の番だ。


ハロルドと私。それに、第二王子と宰相の娘だ。この二人は従兄妹に当たるのだろう。金と銀のキラキラ衣装に身を包んでいて、とても目立つんだけど。それに比べると私達の衣装は地味に見えた。でも、踊りは衣装じゃない。


私は踊りは得意だ。と言うか散々練習だけさせられたのだ。最も最近はエイベルとはほとんど踊ったことは無かったが・・・・。


龍ちゃんをカーラに渡す。龍ちゃんは喜んでカーラの胸に顔を埋めている。こいつは現金すぎだ。もう、一緒に寝るのも止めてやろうと思わず思ったのだ。

まあ、いきなり巨大化したら大変だから私の傍に置いておくしかないが・・・・



私はハロルドに手を取られて中央に出ていった。


音楽が鳴り出した。


二人で踊る。ハロルドは流石に王子様だけあってうまい。でも私も負けない。


私は周りなんてもう見ていなかった。ハロルドだけ見て踊る。


ハロルドは珍しく、優しい視線で私を見てくるが、私もうっとりした視線をハロルドに返しておく。


「想像していた以上にうまいんだな」

ハロルドが声をかけてきた。


「あなたもね」

「じゃあこれはどうだ」

いきなりハロルドがステップを変えてきた。


「な」

私は慌てたが、ついていく。


「じゃあこれは」

「まだまだよ」

ハロルドのステップについていく。


周りは私らの踊りに騒然としていた。そらあそうだろう。こんな踊り方する奴らなんてなかなかいない。衣装で目立っていた第二王子以下は色あせて見えた。


主役は完全に私達だった。



私達が踊り終えると盛大な拍手が皆から寄せられた。


そして、踊り終えた私達はたちまち老若男女の群れに囲まれたのだ。

ハロルドには女性陣が、私には男性陣が。

あっという間に私達二人は引き離されていた。


ハロルドが女性陣に囲まれるのを見て、わたしはむっとした。でも、ハロルドが連れ出されたのは年配の女性だった。いい気味だと思っていると私も年配の男性だった。


ちょっと気になって龍ちゃんをみたら、女性陣に囲まれていて鼻を伸ばして喜んでいるのが見えたので、それにも少しムッとする。




「私とも踊っていただけますか?」

何回か踊った後でそろそろ休もうとしたら、第二王子に捕まってしまった。


嫌だったが、捕まってしまったのなら仕方がない。


「何故、第一王子なんかについてきたのだ?」

踊りながら第二王子が聞いてきた。


「殿下には王宮で助けて頂いたのです」

ムッとして言い返すと


「ふんっ、相手にされない者同士のなれ合いか」

なんかムカつくことを第二王子は言うんだけど。


「私はそうかも知れませんが、第一王子殿下は此度のことで脚光を浴びていらっしゃいますわ。誰かさんと違って」

私は嫌味を言ってやった。


「な、何だと、この女、俺が下手に出てやれば」

第二王子はギッと手を強く握り返してきた。汚らしいから止めて。


丁度音楽が終わったから、さっさと振り切って私はトイレに行くことにした。汚らしいものに触れられたから汚れた手を洗わないと・・・・。



しかし、近くのトイレは長蛇の列だった。


「満員なんだ」

私はがっかりした。


「キャサリン様。よろしければあちらに穴場のお手洗いがございますわ」

声をかけてきたのは最初に第二王子と踊っていた金ピカの娘だった。


「あ、あなたは?」

「申し遅れました。アビントン侯爵家の娘ベリンダとお申します」

「ありがとうございます。よろしければ案内していただけますか」

これだけ待つのは大変そうだ。空いている所があればその方が良いだろう。


ベリンダの案内してくれた奥にあった女性トイレは空いていた。


ホッとした時だ。私は首にプスリと違和感を感じた。


「えっ」

なんか頭がふわふわする。そして、私は倒れてしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る