桓謙2  投者二萬

桓玄かんげんが敗北したあと、桓振かんしんがさらなる抵抗を目論む。桓謙かんけんは桓振の保護及び推戴に大いに功を挙げた。とは言えその性格は慎重、あけすけに言ってしまえば臆病であり、その後桓振をうまくサポートすることはできなかった。


これより前、桓振に軍を率いて迎撃に出させ、自らが江陵こうりょうを守るべき、と桓振に提案していたのだが、この頃すでに桓謙の差配は軽んじられており、結局桓振はその提案を却下した。


桓振が敗れると、桓謙は姚興ようこうのもとに亡命した。


この頃すでに益州で反旗を翻していた譙縱しょうじゅうは姚興に臣従を誓い、かつ盧循ろじゅんのもとには同盟の使者を飛ばし、裏で通じ合っていた。このため姚興に上表し、桓謙とともに東方に攻め下りたい、と請うてきた。姚興が桓謙に意向を問うと、桓謙は答える。


「臣の家門は荊州に多大な恩徳を施しております。從弟の桓玄が最終的に簒奪をなしたとは言え、これらはむしろ東晋よりの圧迫を受けてのものであること、人神が明らかとなさっておいで。今、臣が譙縱とともに長江を下れば、誰もが自ずとどよめきましょう」


姚興が言う。

「狭き沼に大船は浮かばぬもの。もし譙縱の才が此度の策謀を成し遂げるに足るのであれば、あなたもまたその実力をいかんなく発揮できようがな。せめてあなたの進む道に、幸あらんことを願おう」

こうして桓謙の出立を許可した。


桓謙はしょくにいたると、人々に謙虚に接し、同志を募ろうとした。しかしこのふるまいによって、譙縱に自立を疑われてしまう。そこで桓謙の身柄を龍格りゅうかくに追いやり、監視までつけた。桓謙は弟たちに向けて泣きながら、言う。

「姚様のお言葉は神がかっておられた!」


後に譙縱は桓謙を甥の譙道福しょうどうふくに引き合わせ、ともに長江を下らせた。桓謙はその道中でも同志を募った。人々は桓沖かんちゅうによってもたらされた恩恵を忘れていなかったため、二万もの人間が合流した。


劉道規りゅうどうきに破られ、斬られた。




及桓振作亂,謙保護乘輿,頗有功焉。然而暗懦,尤不可以造事。初,勸振率軍下戰,己守江陵。振既輕謙用事,故不從。及振敗,謙奔于姚興。先是,譙縱稱籓于姚興,縱與盧循通使,潛相影響,乃表興請謙共順流東下。興問謙,謙曰:「臣門著恩荊楚,從弟玄末雖篡位,皆是逼迫,人神所明。今臣與縱東下,百姓自應駭動。」興曰:「小水不容大舟,若縱才力足以濟事,亦不假君為鱗翼。宜自求多福。」遂遣之。謙至蜀,欲虛懷引士,縱疑之,乃置謙于龍格,使人守之。謙向諸弟泣曰:「姚主言神矣!」後與縱引譙道福俱下,謙於道占募,百姓感沖遺惠,投者二萬人。劉道規破謙,斬之。


(晋書74-10)




誰だここの箇所書いたやつ。苻丕ふひ王永おうえい並みに無情だぞ! もしくは楊定ようていか!


「おれたちのたたかいはこれからだ」を盛大にぶち決めた直後の滅亡からしか取れない栄養素がある……。

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