桓石民2 淝水後の動勢

苻堅ふけんが滅亡こそしたものの、代わって慕容垂ぼようすいの勢力がにわかに大きくなってくる。桓石民かんせきみんは將軍の晏謙あんけん弘農こうのうを攻撃させ、慕容夔ぼようきを降伏させた。そしてその近くであるきょうの二箇所に砦を築いた。また關中かんちゅうの祭具、妓女などを獲得。太樂たいがくの拡充に充てた。


この頃苻堅の子である苻丕ふひ河北かほくで皇帝を僭称、洛陽らくようを襲撃せんと企んでいた。桓石民は將軍の馮該ふうがいに討伐させ、本陣を襲撃。苻丕の他、その配下であった王孚おうふ苟操こうそうらの首級を挙げ、建康けんこうに送り届けた。


胡族勢力の襲撃は留まるところを知らない。今度は丁零ていれい翟遼てきりょう山陵さんりょうに迫り来る。桓石民は馮遵ふうじゅんを派遣して討伐した。


さらに乞活きっかつ、淮水以北あたりにて徒党を組む流民集団の黃淮こうわい并州刺史へいしゅうししを自称。翟遼とともに長社ちょうしゃを攻撃してくる。その兵力は数千人。桓石民は郭銓かくせん王遐之おうかしを派遣して黄淮を攻撃、斬った。翟遼は河北かほくに逃れた。


これらの功績から左將軍さしょうぐんに進むも、間もなくして死亡した。子はなかった。




尋而苻堅敗於淮肥,石民遣南陽太守高茂衞山陵。時堅雖破敗,而慕容垂等復盛。石民遣將軍晏謙伐弘農,賊東中郎將慕容夔降之。始置湖陝二戍。獲關中擔幢伎,以充太樂。時苻堅子丕僭號於河北,謀襲洛陽。石民遣將軍馮該討之,臨陣斬丕,及其左僕射王孚、吏部尚書苟操等,傳首京都。而丁零翟遼復侵逼山陵,石民使河南太守馮遵討之。時乞活黃淮自稱并州刺史,與遼共攻長社,眾數千人。石民復遣南平太守郭銓、松滋太守王遐之擊淮,斬之,遼走河北。以前後功,進左將軍。卒,無子。


(晋書74-3)




■斠注

世説新語の忿狷7

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054888642544

に出演する王忱に絡むエピソードとして、劉注が『靈鬼志』謠徵から引用しています。

桓石民が荊州刺史けいしゅうししとして上明じょうめいに出鎮したとき、地元で黃曇曲おうどんきょくなる歌が流行ったそうなのです。いわく、「黃曇英揚州,大佛來上明。」

黃曇が揚州にてきらめけば、大佛が上明にやってくる、と言う歌。それから間もなくして桓石民が死に、太原たいげん王氏の王忱おうしん、あざなが荊州に赴任しました。

うん、で黃曇ってなに?



にしても、この頃の洛陽ってどんな感じだったんでしょうねえ。保有国が桓温かんおんの奪還→前燕ぜんえんによる陥落の後もめまぐるしく変わってる印象。そのあとどう考えても前秦ぜんしんの手に落ちてるわけですが、淝水ひすい東晋とうしんめっちゃ勢力押し返してない? 洛陽確保とかめっちゃヤバいのに、この辺の動きってこれまではっきり確認できた気がしない。孝武帝紀に載ってたりする?


二月辛巳,使持節、都督荊江梁寧益交廣七州諸軍事、車騎將軍、荊州刺史桓沖卒。慕容垂自洛陽 與翟遼攻苻堅子丕於鄴。

三月,以衞將軍謝安為太保。苻堅北地長史慕容泓、平陽太守慕容沖並起兵背堅。

夏四月己卯,增置太學生百人。封張天錫為西平公。使竟陵太守趙統伐襄陽,克之。苻堅將姚萇背堅,起兵於北地,自立為王,國號秦。

六月癸丑朔,崇德皇太后褚氏崩。慕容泓為其叔父沖所殺,沖自稱皇太弟。

秋七月戊戌,遣兼司空、高密王純之修謁 洛陽五陵。


四月に襄陽落とした余勢を駆って洛陽まで行けてるってことですかね? いや違うのか。郗恢ちかいのとこでも突然夏侯宗之かこうそうしに洛陽守らせてて、どうやって奪還したか、がない 。後のほうで朱序しゅじょが洛陽守ってるけど、これもいきなり守っててどう落としたか、がない。なんだこれ。

あ、謝安しゃあん伝の所に「命龍驤將軍朱序進據洛陽」がありますね。けど、これも「どうやって確保したか」がない。

うーん、これは元々洛陽を守っていた前秦将の苻暉ふきが洛陽を放棄して以降、こんなまともに守りも固められねえ場所なんか確保してられるかってことで放棄されてたのかもしれないですね。で、そこを朱序が拾った。まぁ確かにこんなクソ戦乱の真っ只中に洛陽なんて東晋以外欲しがらないだろうなあ。にしたってもうちょっとその辺わかりやすく孝武帝紀にまとまっててくれてもいいんじゃない?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る