第32話 ウィンド陛下からの頼み

 水浴びから帰り、清楚な服装に着替えてカイエン陛下の元へと向かった。

 陛下がいるのは王室なので、入る前は緊張してしまう。


 王宮生活をしていても、やはり陛下相手には未だに緊張しているのだ。

 ドアの前に護衛が二人立っていた。


「リリアです。カイエン陛下に呼ばれているので来ました」

「承知しております。どうぞ中へ」


 ドアを開けてもらい、私は王室へと入った。


「突然呼び出してすまない。まぁ座りたまえ」

「はい……。失礼いたします」


 ソファーのようなフカフカした椅子に腰掛けた。

 陛下も私の正面にある同じ椅子に腰掛ける。


「飲み物は何が良いでしょうか? コーヒー、お茶、紅茶、大体揃っています」

「では、紅茶でお願いいたします」

「承知致しました。陛下はお茶でよろしかったですか?」

「うむ、頼む」


 陛下の専属メイドがお辞儀をしてから準備をはじめる。


「リリア殿のおかげで、こうやって飲み物を自由に飲めるようになった。感謝だな」

「良かったです。辺境地も概ね水の加護は発動できているので、国が平和になるのも時間の問題かと思います」

「何度も聞いてすまないが、爵位も求めず報酬も今のままで良いのか?」

「むしろ多すぎると思いますが……」


 表彰式に金貨を二百枚も貰った上、聖女の加護と国務の報酬として毎週金貨を十枚ずつ支給してくださる。

 しかも、温浴施設の売り上げの一部まで毎月受け取っている。

 その上で王宮に住まわせていただいているので至り尽せりだ。


「リリア殿はもっと自分の成し遂げた功績を評価しても良いと思うがな。ここまで過小評価する必要もなかろう」

「はは……エウレス皇国でそう育ってしまったので難しいですね」

「そうか……ともあれ報酬は今のまま渡す。他に何か問題があれば遠慮なく言ってくれたまえ」

「ありがとうございます。ところで今日私を呼んだ件は?」

「おお、そうだった」


 陛下は一度咳払いをした。


「カサラス王国が豊かな国となったおかげで、ようやく他国と対等に接することができるようになりつつある。そこでだ! 今まで水や食料の支給を安価で取引させてくれていたデインゲル王国と改めて同盟を組もうと考えている」

「同盟ですか……」

「そうだ。リリア殿の前で言うのもどうかと思うが、エウレス皇国とはとてもじゃないが交友を持てぬ。それはデインゲル王国の陛下も同じことを考えているであろう。それほどエウレスの評判は悪い」


 カイエン陛下がそのように思うことは無理もない。

 ただでさえ問題があった国なのに、近々ラファエルが皇帝にでもなった暁には国が終了してしまうだろう。


「リリア殿もこの考えは賛同しているような顔をしておるな」

「ま……まぁそうですね。エウレス皇国の王宮にずっといた身ですので」

「デインゲル王国と同盟を結びたいことは既に前回の物資の購入時に手紙で伝えてある。あとは向こうがどう出るかなのだが……。結論を先に言う。リリア殿にはカルムと共にデインゲル王国へ行き、向こうの王子と話をしてきて欲しい」

「私がですか?」


 これには驚いた。

 陛下ではなくカルム様が同盟交渉に向かうというのもよくわからなかった。

 それに私がこんな大事な案件で行って良いのだろうか。


「向こうの陛下もそうなのだが、そろそろ王位継承を考えておる。年老いた私たちが同盟を決めるよりも、次世代が活躍してもらった方がいいだろう」


 カイエン陛下はまだまだ若く見えるし、年齢も引退するような歳でもないはずだが。


「ん? 驚いているのか? カルムが結婚をする頃には私は引退すると決めているのだよ」

「結婚!? お相手がいたのですか!?」


 相手がいるような気配は全く感じられない。

 驚いてしまい、つい勢いで聞いてしまった。

 恥ずかしながら、恋愛が絡むと少々心配性になってしまう。


「何を言っておるのだ……。目の前にいるではないか……」


 私はすぐに後ろを振り返ったり部屋中を見渡した。

 男性の護衛たちしかいないではないか……。


「ともかく、本題に戻そうか。カルムと一緒にデインゲル王国へ行き今後のことを話してきてほしいのだ」


 しまった、今は陛下と対談中だ。

 カルム様の相手は今は考えないことにして、しっかりと陛下の話を聞く。


「承知致しました。しかし、私などが話をしてきても良いのですか?」

「リリア殿ほどの有力候補はそうはいまい……。それにいざとなったらルビー殿の力でカルムを助けられるだろう」


 それは間違いない。

 以前にファイヤーバードをルビーと討伐したことが、王都中で噂になっている。

 戦闘能力に優れているイデアですら驚いていたくらい、あのモンスターは強いらしい。


 余程のことがなければルビーと一緒なら安心だろう。


 そう考えれば理解ができる。

 カルム様の護衛を兼ねて頼んでいるというわけか。

 私はそう思い、勝手に納得していた。


「引き受けます」

「うむ、助かる。無論、この件での報酬は別にしっかりと渡そう」


 このままでは金貨だらけになってしまうかもしれない。

 世界共通硬貨だし、せっかくなのでデインゲル王国へ行ったついでに時間があれば何か買い物でもしようかな。

 カルム様との遠乗りということで、楽しみが増えた。

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