第30話 ルビーの進化

 王宮の生活にも随分なれた。

 朝起きて窓を開けると心地よい風が入ってきて気持ちいい。

 最初の頃は風すら吹かず、気温だけが高くて息苦しい環境だった。


 ルビーの水の加護の影響で、王都は生き物の住みやすい土地へと変わったのだ。

 いや、すでにカサラス王国内全域がそうなってきているのかもしれない。


 外からの日差しを浴びながら、いつもどおりエドナ山脈へ水浴びしに行く準備をしていたら、部屋のドアがコンコンと鳴った。


「……おはようございますお嬢様。陛下がお呼びです。本日の水浴びから帰宅されたら、陛下の元へ行くようお願いいたします」

「陛下が? 分かったわ。緊急ならすぐに向かうけれど」

「……いえ、陛下もお嬢様の日常スケジュールは把握していますよ。水浴びから帰られてから、都合の良い時間でかまわないと仰っていました」


 久しぶりにイデアが仕事モードで部屋に入ってきた。

 彼女とは仲良くなって、お互いに言葉も崩す仲だが、イデアがメイドの仕事として入ってくる時だけは敬語を使っている。


 それにしても、カイエン国王陛下が私を呼び出すことなど滅多にない。

 これで二度目となる。


「今日は仕事モード? イデアも一緒に水浴びに行く?」

「……行く。今日はリリアに伝言しに来ただけで、私はいつもどおり、リリアの身の回りの世話。帰ったら部屋は綺麗にしておく」

「いつもありがとう」


 イデアの仕事は万能で、私の住んでいる部屋は毎日快適にしてくれている。

 最近では野菜も収穫できるようになって、王都では水だけでなく食べ物も満たされるようになってきた。

 そのため、美味しいご飯まで毎日三食イデアが運んでくれている。


「じゃあこのまま行きましょう!」


 私とイデアを乗せられる程度までルビーが大きくなって、そのまま部屋の窓から飛んでいく。

 外に出たらルビーが本来の大きさに戻って、一気にエドナ山脈へ飛び立つ。

 イデアを乗せていくのは久しぶりなので楽しみだった。


「……ルビーちゃんの飛行スピードが前よりも速い気がする、いや、明らかに速い!」

「あまり気にしていなかったけど、そうなのかな。疲れない程度の速さで飛んでもらっているんだけど」

「毎日繰り返しているから気がついていないだけ。ルビーちゃんの発している障壁がなければ、髪が全部抜ける」


 イデアが周りをキョロキョロ見ながら驚いていた。

 この歳で髪の毛がなくなるのだけは勘弁してほしい。

 その心配も無用だが。


 ルビーの周りに障壁を発動してくれているおかげで、空気抵抗は全くないので乗っていて快適なのだ。

 どんなに速く飛んでいても、スカートは捲れないし会話だって普通にできる。

 だからこそルビーのスピードが上がっていることに気がつかなかったのかもしれない。


「ほら、喋っているうちにもうエドナ山脈見えているし」

「そう言われてみれば速くなったかも。これだったら他国へも簡単に移動できるわね。遠くまでは移動できないけれど」

「……確か、ルビーちゃんがあまりにも遠くへ行っちゃうと加護が消えちゃうんだっけ?」

「そうなの。もう一度聖なる力を解放し直さなければいけないからね」


 永久に加護が反映されるなら、エウレス皇国だって加護が反映されたままだった。

 こればかりはどうしようもできないことだ。


 とは言っても、私の聖なる力もそうだが、ルビーの力も前と比べて格段に強くなっている。

 今のルビーの力ならばデインゲル王国は多分ギリギリで許容範囲。

 だが距離が離れているエウレス皇国にはまだいけないだろう。


 話しているうちにあっという間にエドナ山脈へたどり着く。

 いつもどおりに洞窟を開けて泉へと向かった。

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