敵意
敵意1
朝食後ぶらりと街中へ出かけていたシウは、正午になって独りペンションへ帰宅した。裏玄関から入り、厨房の前を通りかかると、食器棚の辺りでセトとレイが舌を絡めている最中だった。
「あの男、兄を見るなりタチかネコか訊いてきたんだぜ」
知らぬ間に、サイリが傍らに立っていた。彼も宿泊客でありながら通用口を利用したのだろう。端正な顔に意地の悪い表情を滲ませ、奥の二人を眺めている。
「……で、どっちだって?」
「兄がネコだと答えたら、そりゃ都合がいいってさ」
「僕は、あの男が双子のどちらかって意味だったんだけど」
「どっちだって変わらないだろ、双子なんだから」
サイリは言い放ち、シウの腕を乱暴に掴んで宿泊客のいないダイニングへ連れ込んだ。近くの椅子を引いてシウを座らせ、サイリも並んで腰を下ろす。
「すみません、ライムティー二つ。あと、何でもいいから軽食と」
呼びかけに、ダイニングと厨房とを繋ぐスイングドアからセトが姿を現した。
「悪いが、昼間はやってないんだ」
「固いこと言うなよ。宿泊代は払ってるんだ。それに、夜中に兄を借りといて、タダってことはないだろ」
「ノアは? 君はお兄さんと帰ってこなかったのか」
「俺に怪我をさせたやつを探すってさ」
「そうか。誰かに喰わせてるわけじゃないんだな」
セトは納得して引き返した。サイリは腕と脚を同時に組み、シウと向かい合う。幾分、行儀の悪い恰好だ。じっと見つめられるうちに、シウは何もやましいことをしていないのに額に汗が噴きでていた。
窓を開け、カーテンで日差しを遮っていても、日中のダイニングは快適とは言えない。それでも直射日光を浴びない分、外よりは格段に涼しいのだ。だが、一向に逸れようとしないサイリの視線は、太陽光よりも著しく体温を上昇させた。
「……朝の続き、してみようか」
サイリが椅子を引き寄せる。姿勢を屈めたさい、首に掛けている黒曜石が妖しく光を放った。両手がイージーパンツのウエストを掴む。シウは戸惑い、サイリを見下ろした。
「尻を上げるか、立つかしろよ。じゃないと、いつまで経ってもできないだろ」
「君は、……僕の名前も知らないのに」
「お前だって、今朝まともに顔を合わせたばかりの俺に、嫉妬心丸出しだったじゃないか」
吐き捨てるように言い、サイリはそっぽを向く。それなのに、すぐに振り返って唇を重ねてきた。サイリが兄としていた行為を、シウはやむなく受け入れる。待っているときに限って、料理はなかなか出てこない。セトとレイも、注文を放棄して裏で再開しているのだろうか。
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