少年
少年1
翌朝、ダイニングには宿泊客の面々が揃っていた。座る位置が予め定まっているかのように、皆昨日と同じ場所へ着席している。
昨夜唯一姿がなかった四号室のカップルは、シウたち親子の隣のテーブルで紅茶を飲んでいた。シウはレモンティーを口にしながら、特にやることもなく、男のくどい声に耳を傾けた。
「……いいかい、他の男に馴れ馴れしくするなとは言ったさ。だからって、女に手を出すことはないだろう」
「手を出すなんて、そんな。可愛らしかったから、ちょっと部屋に引き留めてお話しただけよ」
セピア色のウェーブヘアに、同色のパフスリーブドレスを纏った女は、表情ひとつ変えずにティーカップを口へ運ぶ。
「まったく、昨日君を怒らせた報復か? あの後君がいなくなったせいで、彼処の老婆に殺されかかったじゃないか。ボクを昔の恋人か何かだと勘違いして、砂に埋められたんだぞ」
隅のソファで珈琲を啜っていた老女が、スカしたスーツ姿の男を睨みつける。
「命があるだけ感謝しな」
老女は白いシャツを腕捲くりし、男の頭を指先で撃った。丁度そのとき、何処かで硝子の割れる音がした。すかさず、厨房にいたレイが飛びだしてくる。
「何があったんでしょう?」
メイヤの母親の一人が、不安げな様子でレイに訊ねた。
「判りません。でも、ご安心を。ワタクシが今確認してまいりますので」
レイはリビングを出てゆく。新聞を広げていたジンも、なぜか意気揚々として立ち上がり、彼の跡を追った。結果的に、シウも父親へ続かざるを得なくなった。警察官という自負が、時折ジンを暴走させるのだから厄介だ。
二人は玄関横のリビングにいた。縦型ピアノやビリヤード台が置かれた場所だ。コーナーソファが窓に沿って配置されている。その直角の辺りに座る人物を、彼等は取り囲んでいた。
「頭の後ろの硝子が砕けているじゃないか。
「よく見てください。凶器の小石も硝子片も、貴方たちの足許に転がっている。俺等じゃない」
「言い訳するな。ダイニングにいなかったじゃないか。ほれ、セトだかレイだか知らんが、何か追及したらどうだ」
ジンには双子の区別がつかないらしい。見分け方は簡単だ。下唇の端にほくろがあるのがレイだ。ちなみに、股の内側にも小さなほくろがある。昨夜たまたまレイに誘われたときに発見した。月明かりの下で、シウは彼と気の済むまで寝たのでよく覚えているのだ。
レイは特に何も言わなかったが、その人物はついに腰を上げて二人と対峙した。シウが顔を窺うと、夕餉の後、セトと厨房にいた男であると判った。確か、ノアと呼ばれていた青年だ。
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