十一 盗品
別の鱗を口に含んだ。
新たな映像。
少女――エリカが『ふふっ』と肩を揺らした。
『誕生日でもないのに?』
彼女はそう皮肉を口にしながら高価な口紅を手の中に慎重に閉じこめた。
『ずっと仲良くしてねって意味』
エリカと対峙する少年が妙に上擦った声で答えた。
『ふーん、でもアキホシよく口紅なんてオトナなもの買えたね』
エリカは揶揄い口調の端々から喜色を弾けさせた。
盗んだんだ、とは遂に言えず少年はその笑顔を目に焼きつけた。
――そして、移り変わった映像が流れ……。
「嫌だっ!」
アキホシは鱗を途中で吐き出した。
それはおそらくエリカの”大切なもの”を失う未来予想図だった。
最初の映像は、アキホシ自身も経験したつい二日前の出来事だった。
アキホシのその時の感情がありありと蘇って、エリカの視点と混ざり合って、堪え切れない眩暈が襲った。
”大切なもの”は失った後でしか分からない。
彼女が大切に想うものが何なのかアキホシは知りたくなかった。知るのが怖かった。
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