発達障害からの休職復職転職日記

#37.ミッション・あいさつまわり

　実に１年と１カ月ぶり。７時５７分発の電車に乗って、僕は会社へと向かいました。

　会話なんてしたこともないけれど、車内には見覚えのある人達がちらほらと。僕がいない間も世界は回っていて、この電車に乗る人たちも変わらず通勤していたんだろうか。そんなことが頭に浮かびました。

　正直、職場に行くのは不安で不安で仕方がない。と同時に、久々に会う人たちもいて、楽しみな部分も少しだけ。不安が９９％、楽しみが１％といったところでしょうか。

　ここからが本当のリハビリ。二度とダウンしないための長い道のり、その一歩目。１年前と変わらず電車を降り、目の眩むような人混みを進み、いよいよ会社へと到着しました。

　んで、復帰初日。

　僕はとある計画を立てました。名付けて、『あいさつ回り作戦』です。

　逆の立場を考えたとき、つまり僕の同僚・後輩・先輩が１年以上もの休職から復帰したとき、どう思うだろうかと。想像した答えは『何を話しかけたらいいか分からないな』でした。

　なので、こっちから先手を打って話しかけることにしてみたの。ご無沙汰してますカバネです、今日から戻りました、ぼちぼちやって行きますってな感じで。

　事業部長に相談していたお陰で、しばらくは特に仕事もありません。なので時間はたっぷり。

　僕が勤めていたオフィスは、同じビル内に４つのフロアを借りていました。なので４フロアを順々にコンプリートしていくのです。行く先々で声を掛け、少しの笑顔でイイ感じに挨拶をして回る復帰初日。

　みなさん一様に喜んでくれたと言いますか、元気に戻ってきてくれてよかった、無理はするなよと言葉を返してくれました。またご飯でも行きましょうなんて軽い約束をしながら、沢山の人と言葉を交わしました。

　これ、とっても効果的で、思っていた以上に気持ちが楽になりました。

　復帰後における最悪のケースを考えてみるに、コミュニケーションがブッツリ無くなってしまうのが一番不安だなと思っていたのです。

　周囲から見たときに『何を話しかけたらいいか分からないな』と思われ、遠めに見られて声を掛けられないような感じ。もう少し踏み込んで言うと、はれ物に触るような扱われ方になってしまうと、非常に辛かったと思います。

　やがてひと通りの挨拶を終えて、僕は与えられた席に戻り、久方ぶりに社用ＰＣを触りました。フロアの隅っこの方でしたが、近くにいる後輩たちと軽いおしゃべりなんかして。

　本当に久々に起動したＰＣなものだから、思いのほか、やることは沢山ありました。まずはＯＳのアップデート。他にもソフトのパッチ適用などであっという間に過ぎていく時間。

　社内で使用するＷｅｂサイトや、ソフトウェアのパスワードはことごとく期限切れ。ログインするために社内システム部門の同期に連絡を取りつつ、幾つものパスワードを更新していって。

　たまっていたメールも膨大なもので、会社の社内通知や案内なども凄まじい量。これは１日じゃ終わらないなと感じ、数日かけてゆっくりやることにしました。

　そうこうしている内に時間は１６時。

　この会社は１７時半が定時（退社する人はほぼ皆無）だけれども、復帰後１カ月間は１６時退社と決まっていました。そしてここでも注意していたのが、退社するときの心持ち。

　みんながバリバリ仕事しているのに、何もせず早く帰るなんて申し訳ないな。そんなことを考えていたら病んじゃうに決まっていまるので、もう『じゃぁお先！』ってな感じで帰ろうと。

　冷静に考えれば、周囲の人たちも僕が１６時で帰ることについて『オイオイ俺たちはこんなに忙しいのにイイご身分だなぁ』なんて思う余裕はないし、逆の立場でも思わないでしょう。そんなことを考えるほど、この会社に余裕や悪意のある人はいない様に思えます。忙しいし。

　そうして予定通りに終えた復帰初日。

　想定以上だったのは、家に着いたときの疲労感。筆舌に尽くし難いほどクッソ疲れ果てた。疲労するだろうとは思っていたけれど、家に帰るともうグッタリ。これまで１０時～１５時くらいのペースで参加していたリワークなど比較にならないほどグッタリ。

　考えてみるに、会社という場所は本当に、情報量がメチャクチャ多い気がします。

　近くでも遠くでも電話が鳴り、そこかしこで打合せがあり、プリンタはガシャガシャと動き、ＰＣのキーボードを叩く音、飲み物を買う自販機の音……。

　視界には何十人もの人たちがいて、頭を掻きむしりながらモニタとにらめっこするひと、笑顔でユーザと電話をしているひと、死んだ魚のように口を開けて虚空を見つめる人など、凄まじいまでの視覚と聴覚の刺激がありました。

　発達障害の自覚を持つと、この情報量は確かに、僕の心身を疲弊させるに十分なものと理解できる。慣れてくる部分もあるとは思うけれど、まぁ職場にいるだけでも疲弊しますよね、という自覚は持っておいた方がやっぱり良さそう。

『しばらく仕事を振らないで欲しい』

　先生の指示で事業部長にしたお願い、これが本当に助かった。もう仕事をするどころじゃない。ただ９時～１６時の間、会社にいるだけでも疲労がヤバい。

　家に着いたらもう疲労困憊。とにかく翌日に備え、早く眠る復帰初日でした。