第2章 リワーク(復職訓練)のはなし

#7.リワークってなあに?

 休職して2ヶ月が経過し、体調の良い日も増えてきました。

 もちろん波はあるけれど、あんなにあっぱらぱぁだった脳ミソも、本当に少しずつ動くようになってきます。


 この時期の通院は2週間に1回のペースで、ある時、先生からこんな提案を受けました。


「カバネさん、リワークはどうですか?」

「リワ?」

「そう、リワーク。うちの病院はリワークもやっているんだけど、参加してみるのはどうかなって」


 聞きなれない単語。

 先生の話を聞くに、リワーク――正式名称はReturn to Work――日本語で『復職訓練』と呼ぶらしいものは、仕事でダウンした人たちが、仕事復帰・社会復帰へ向けて取り組むリハビリ的なものなのだとか。


「はぁ……ちょっと、ピンと来ていないのですが」

「よかったらこの後、リワーク担当の心理療法士さんに聞いてみる? 細かく説明してくれるから」

「はい」


 とりあえず頷いてみるカバネ。

 それなりに体調が戻っては来たものの、当時の僕はまだ思考力・理解力などガタ落ちな状態で。会話のなかで相手の言葉を理解する、というのはまだ難易度が高かったと思います。


 先生の話の半分も理解できていないし、何だかよく分からないけれどとりあえず返事した、というのが正直なところでした。


 ◇


 別室へと呼ばれ、詳しい説明を受けることに。向かいに座る方は恐らく僕と歳が近い、けれどとても落ち着きのある女性でした。


「はじめまして、カバネさん。心理療法士の工藤と申します」


 少し茶色掛ったショートヘアに、おでこの前で揃えられた前髪。笑顔がとても優し気な、でも一つ一つに芯のある凛とした言葉の響き。


「当院ではリワーク施設を併設していて、復職に向けた訓練やリハビリを行っています」

「訓練、ですか」

「はい。内容としては簡単なカリキュラムが多いのですが、週に4回参加していただきます。月・火・木・金、それぞれ10時~15時まで参加して、終了後は必ず尾長先生の診察を受けていただきます」


 とのこと。

 それからも何枚かのA4資料をベースに説明は続きます。


「第一の目的は、生活リズムを整えることです。休職中はどうしても不規則になりがちですが、それは復帰した際に大きな負担になります」

「なるほど」


 確かにその通りだと思います。

 仕事に行っているときは朝6時には起きていたわけで、じゃあ休職してからどうかというと、起きれる時間に起きてる感じでしたし。


「そして、病状の再発防止に向けた訓練、振り返りをする場でもあります。次に復帰したとき再びダウンしてしまう方は、残念ながら少なくありません」

「そうなんですね……」

「えぇ、それを防ぐための時間でもあります。カバネさんもできたら、復職に向けて参加して欲しいと思っています」


 なんて沢山の情報を聞いたものの、どれだけ内容が頭に入ったかは微妙なところ。はぁそうですか、みたいな受け答えを繰り出していた気がします。上の説明も、後になって『そういえばそんな説明を受けていたな』と思い出したような内容です。


 それより何より、目の前に座る療法士さんを見て『あっすごく綺麗な人だな』が思考の9割だったかも知れません。いや本当に。めっちゃ美人なんですよ。


「あ、じゃあ参加してみます」


 綺麗な人だなぁなんて思いながら、気が付くとそんな言葉が口をついて出ていました。

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