第16話 港の開港
「あら、エリーゼさん。今日は何の御用でしょうか」
「港を作りたいので土地を買いたいんだけど、商業ギルドで買えたりしますか?」
南の大陸で商売するにあたって七歳では支障があるので、大人の年齢で出したデジタルツインにエリーゼを名乗らせて商業ギルドに登録して取引をするようになってから二ヶ月ほど経った頃、南の大陸に船着場を用意しようと思い立ち、商業ギルドを訪れていた。
「エリーゼさんの方で港を建設するならいくらでもご用意できますが、すでにある港をご利用なさった方が安上がりですよ?」
「ちょっと私が所有する船だと深さが足りないみたいなので別に作ろうかと。郊外とか多少離れていてもいいので、倉庫とかも作れるほどの広さがあると嬉しいです」
私の言葉にアーニャさんは、奥から台帳を持ってきて取引されている物件を確認した後、該当物件をすすめてくれた。
「それでしたら、こちらが良いかと。ただ、金貨三千枚ほどかかりますが…ってエリーゼさんなら問題ないですよね」
ギルドにきたとき、最初に、金のインゴット十個ほど換金してギルドの口座を開いたので、最初から二千枚入っている上に、訪れるたびに納入しているから今では万単位のお金が口座にある。
「じゃあそちらで契約させてください、お金は口座から引き落としてお願いします」
「わかりました、こちらの土地は商業ギルド預かりでしたので、今日からエリーゼさんの土地になります。こちらが契約書と権利書になりますのでサインをお願いします」
よし! とりあえず魔法で水深二十メートルほどの深さを確保して、適当に
その後、デジタルツインの数のゴリ押しで、一ヶ月もしないうちに出現した街にあるより数倍立派な特殊コンクリートを使った港と、信じられないほど平らに舗装された碁盤目状の道路に、巨大な倉庫や二階建てのコンクリート建築が立ち並ぶ倉庫街の出現に、港町ボードルの住民は度肝を抜かれることになるのだった。
◇
土地の購入で口座の残高が減ってしまった分を補填しようと、金のインゴットを作って商業ギルドを訪れたところ、私を見かけたアーニャさんがものすごい勢いで詰め寄ってきた。
「エリーゼさん! あの港はどうしたんですか!」
「普通に建築したんだけど、何か問題でもありましたか?」
「全くないですが、あまりの出来栄えに既存の港を利用する住民から移り住めないか問い合わせが殺到しています!」
要不要はさておき、港はこんな感じだったような気がするというイメージで建てたから、用途がない建物はあるといえばある。
「当分は使うあてもないし、私が仕入れしている商会なら、こちらも街まで買いに行く手間が省けるから何棟か貸し出しても構わないですよ。倉庫も船で運ぶ荷を保管しておくために建てたんですし。ただ、取引とか手続きとか面倒なので積極的には…」
「本当ですか! 調整は商業ギルドに任せてください! 絶対に損はさせません!」
商業ギルドで調整してくれるなら、問題ないわね。貿易拠点は発展していた方が物も集まるでしょうし好都合だわ。
「わかった。じゃあ、お願いするわ。水とか火、冷蔵庫、トイレやお風呂は魔石で使えるようにしてあるけど、その他は自分で用意する必要があるわよ」
「ええ! そんな至れり
至れり尽せり? ベッドや机とかクローゼットとか明かりとか無いものがたくさんあると思うけど、アーニャさんの反応からすると問題なさそうだし、別にいいわね。
そう考えた私は、金のインゴットを納めてから、賃貸契約などの条件を詰めて書類にサインを終えると、商業ギルドを後にした。
◇
南の大陸の港町ボードルで新しい倉庫街が賑わいを見せ、中継島の造成と、それに付随する港や建物の建築が終わる頃、私はお父様に港の相談を持ちかけていた。
「お父様、南の大陸と貿易したいので港街をつくらせてください」
「南の大陸? そんなものなかったと思うのだが」
私は何ヶ月もかかって造成してきた人工島の位置を記載した南の大陸までの地図をお父様に広げて見せた。
「ここから王都までの距離ごとに、九つほどの人工島を土魔法で造成して、五千キロほど先にある南の大陸までの航路を確立しました」
島に浅瀬はないので人工島への接舷は簡単だけど、カストリア領にはまともな港がなかったことに今更気がついてしまった。
「しかし、五百キロを渡れる船などないぞ?」
そこで、森の開拓で得た大量の木を使って、私が少しずつ造船技術を磨いて作り、島と島で試験航海して耐久性と航路の安全も確認済みであることを説明した。
「船なしで私自身がフライの魔法で長距離飛行して、すでに貿易自体はしています。チョコレートやコーヒーは、その食材を使った産物なんですよ」
「ああ、見たことないものだと思っていたら、そんなところまで行っていたのか。一度、その船や一番近い島を見せてくれないか」
「わかりました。明日にでも沖合まで船を移動させます」
こうして、お父様に人工島と船を公開することになった。
◇
翌日、カストリア領の沖合につけたキャラック船までお父様を運ぶと、帆を張って船底の両脇に設置した魔石の水流による推進装置の口を開けると、時速五十キロメートル程度の速度で船が前に進み出した。
「これは…随分と早い速度で進むようだね」
「魔石を利用して推進力を得ています。島と島の間は、大体、十時間程度で到着します」
早朝に出港すれば日が暮れる前に港に到着できるけど、お父様もお忙しいでしょうし、ここは魔法で加速させることにしよう。
「通常だと十時間かかってしまうので魔法で加速しますから手摺りに捕まってください」
お父様の準備ができたことを確認すると、帆を畳んで風の結界を貼りながらタイダルウェーブの魔法を連射して加速させた。
「おおぉ! エリス、船は壊れないのかい!?」
「大丈夫です、耐久試験で何度も試しています。これで三時間ほどで到着します」
「ははは、ゆっくりで頼むよ」
やがて島が見えてくると、魔法を撃つのをやめて通常巡航に戻した。近づくにつれ、開拓村の四倍程度の規模の島の全容が明らかになっていく。
「エリス、これはまた随分と大きな島を作ったもんだ」
「嵐で何日か泊まる船乗りも出てくるかと思って、自給自足できる大きさにしました」
もともと海底の地盤だったせいで錬金術を使っても塩を抜くのが大変だったけど、一応、畑で野菜が育つようになったことを説明した。
「しかしこれと同じ規模の島を九つとは、ずいぶんとエリスは頑張ったもんだ」
「はい。スパイスやチョコレート、より上質な砂糖のために頑張りました!」
しばらくして船を港に着けて
「特殊コンクリートで固めた港の水深は二十メートルほどで、大型の船でも接舷できる深さを確保しています」
「なるほど。確かにこのような港は我が領には存在しないな。いいだろう、港町リシュトンの港を改修するか、隣接した場所に新たに建設するといい」
「ありがとうございます、お父様!」
ひしと抱きつくと、お父様は私の頭を撫でてくれた。統合した人格のせいかもしれないけど、ひどく安心する。
「そういえば、グレイさんに言われたのですが、こう言った船を建造する職人を育てた方が良いと言われました。私しか作れないと発展しませんし」
「それはそうだが、作れるのかい?」
私は少し考え、デジタルツインの数の暴力で培ってきた技能をもとに、職人が育つまでにかかる時間を見積もって答えた。
「魔石を利用した推進装置は難しいと思いますが、それ以外は十年もすれば熟練の職人に育つと思います。船体は木造なので木が豊富な開拓村で作って、マジックバックで海まで運ぶようにすれば、何度も試行できて木材の搬送などの手間も省けるかと思います」
「では、テンサイの栽培と共に開拓村の産業の柱としよう。カールやブルーノに職人候補を募らせて移民させるから、親方職人が育つまで指導を頼むよ、エリス」
「わかりました、お父様!」
こうして、港町リシュトンの港の改修・増築と、造船職人の育成をすることが決定された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます