015 竜と騎士
しばらくすると少女も落ち着き、自分の足で立って自然に会話ができるようになった。
そして、判明した。少女と言っても実はラスタより1、2歳年上で、まっすぐ立つとラスタよりも背が高いお姉さんだということに。
ウェーブのかかった明るい茶髪やスラッと伸びた脚……さっきまでのクールさはどこへやら、ラスタはのぼせ上がってしまう。
「あ、あの、俺はラスタ・シルバーナと言って……。立場はちょっと複雑だけど、君の味方であることだけは絶対に確かだよ……!」
「本当に本当に助けていただいてありがとうございます! ラスタ・シルバーナ侯爵様……!」
「あ、聞こえてたんだ……」
耳栓はされていなかったため、少女に会話は筒抜けだった。とはいえ、正体がバレてマズいわけではない。ただ彼女に気を遣わせないようにしたかっただけだ。
「今回は
「あの……助けていただいたのに、こんなことを尋ねるのは大変失礼なのですが……ラスタ様が呪いの子というのは本当ですか? お姿が聞いていた話とはずいぶん違っていて……」
突然の質問にラスタの動きが止まる。少しの気まずい沈黙の後、ラスタは両手の甲を見せて答えた。
「うん、そうだよ。今はアザの形が変わっていて、呪いの性質も変化しているんだ。俺はこの新しい鋼の呪いのおかげで君を助けることができたし、次期領主にもなれたんだ」
「そう……なんですね」
ラスタは少女から
一度少女から距離を取り、ラスタは戦いの前に置いてきたリュックの中身を確認する。銀凛草の入った瓶は割れていないし、シルバナバイコーンの角も変わらずたくさんある。
「キャアアアァァァーーーーーーーーーッ!!」
さっきも聞いた悲鳴がより近くで、より鮮明に聞こえた。まさか人攫いの残党でも残っていたのか……! ラスタはリュックを手放し少女の元へ駆け寄る。
少女はアジトの方を向いて腰を抜かしている。アジトと彼女の間に割って入るように立ちはだかったラスタは、信じられないものを目撃する。
「ド、ドラゴン……!?」
貧民街に流れてきたボロボロの絵本。その中に描かれていた伝説の魔獣。アジトの中から現れたのは、そのドラゴンの……小さい版だった。
サイズは馬と変わらず、よく見ると後ろ足だけが発達し二足歩行になったトカゲにも見える。そもそも、こんなところに伝説の魔獣がいるわけない……ラスタはそう考えた。
十中八九、人攫いたちが飼いならしたアジトを守る魔獣だろう。さっきまでは寝ていたか何かで気配を感じさせなかったが、姿を現したからには戦うのみ……!
「ちょっと待ったぁ~!」
背後から新手か……。目の前の魔獣を警戒しつつ、背後に視線を向けたラスタが見たのは、領都警備隊の詰所で寝ていたふくよかな青年だった。
「攻撃はダメダメなんだな!」
「だ、ダメダメ……?」
今の彼はパッチリ目を覚まし、ガッチリとした大きな馬に乗っている。
「それはリトルラプトルなんよ。魔獣の中でも数少ない人間と共存できる種だから、むやみやたらに攻撃しちゃいかんよぉ~」
クセっ毛の金髪を揺らしながらダメダメ~と首を振る。表現の仕方はともあれ、嘘ではなさそうだ。ラスタは彼の言葉を信用し、構えていた鋼の拳を下ろした。
「次期領主様は話のわかる人だなぁ~」
よっこいせと乗っている馬から降りた青年は、ラスタの前に立ちぺこりと頭を下げる。
「申し遅れまして。僕は騎士モス・アラモスっていうんよ。お父さんは防衛大臣のドムド・アラモス子爵。僕のお父さんとラスタ様のお父様は……まあ特に語ることもない普通の関係だったらしいよ」
「そ、そうなんだ」
「ちなみにこっちのおっきな馬はウチで代々飼ってる
「ああ、よろしく。俺のことを心配して追って来てくれたんだね」
「う~ん、実を言うと僕はハナビに言われたから来ただけなんよ。その分、ハナビとクロエちゃんはとっても心配してたけどね~」
「そ、そうなんだ……。でも、ありがとう。おかげで間違った戦いを起こさなくて済んだよ」
「どういたしまして~」
ラスタがモスから感じるもの……それは圧倒的存在感。小柄なラスタに対して彼は約180cmの長身。さらに横幅も広い。贅肉だらけというわけではなく、肉の下に確かな筋肉があることもわかる。
さらにその奥の奥……根源に抱えている強い魔力に、ラスタが背負う呪いが反応している。ザワザワと逆撫でされるような感覚があるのだ。
しかし、モス本人は至ってのほほんとしている。
「うわぁ! このラプトルもう僕に懐いとるん!? 人と共存可能な種とはいえ、この子はあまりにも懐きやす過ぎなんよ~! きっとそこを利用されて攫われたんだなぁ」
ラプトルとじゃれ合う姿は純粋そのもの。モスからは負の感情をまるで感じない。それでいて、正の感情もあまり感じないとラスタは思った。
「とりあえず、領都に帰る準備をしようか」
日は傾きつつある。クロエやハナビを心配させないため、受けた依頼を完遂するため、そして攫われた少女を両親の元に送り届けるため、無事に領都へ帰らなけらばならない。
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