プロネーズ

崇期

第1番

 ぁたくしの心にはいつも美しいメオドゥイが流れています。

 ドゥは中学・高校と一緒だった親友で、旦那さんが囲繞地いにょうちでソロライブしているからか、寂しいみたいでよく電話をかけてきます。


 その日はオンライン会話システリアスでゆっくり話さない? ということになり、互いに夕飯や入浴を済ませて、夜九時ごろ開始いたしました。

「今なにしてんの?」と、早速ぁたくしから話しかけました。

「うん、今ねぇ、ミルク・シロフォンを食べながら白ワイン飲んでたんのさ」

 ぁたくしの電子端末にほんのり朱に染まったドゥ美の顔が映しだされています。

「ぁなたらしいわね」ダイニングテーブルに端末を鏡のように立てかけ、覗き込みながら、ぁたくしはフフフと笑います。

「あ、ぁんた、後ろの電子ソナタ新しくなったんのね?」

「わかる? 買い替えたのよ。壊れそうな振る舞いだったからさ」


 わいわい愉快さを保っていたのは最初の五分くらいで、あとはドゥ美の愚痴がプレスティッシモに幅を利かせてきたわけです。

「……彼の頭からぁ、そんなふうに約束がすっぽ抜けるんはさ、私のことなんてどーでもいいってことだのさ。浮気も辞さない構えって感じなんよね、きっと」

「ファミゆきさんに限ってそんなこと、あり得ないわよ」とぁたくしは言いました。友だちを慰める常套句のように思われるかもですが、それだけではないことはわかっていただけるのではないでしょうか。「ぁんた大切にされてんだから。そういうの、本人は忘れ草だけど」

「いや、やっぱ離れちゃうと不調法ぶちょうほうだのさ。スケール的ガラパゴス感が半端ねぇよ」

「そんなことないって」


 ぁたくしの心にはとめどなく美しいメオドゥイが流れていなくてはならないのです。夢は夢で美しくも、それを見させているベース音として日常があるのだと。

 ぁたくしはドゥ美にそちら方面へ至らしめたかった。常に、人生の岐路には、若草物語がありました。


「……でさ、あの日、どうやってもあずきバーの調整がうまくいかなくて、部長もちょっとハイスコアだったじゃん? でも、ファミ行さんがすぐに駆けつけてきてくれてさ」

「うん、うん……」ドゥ美は涙声になり、拳を鼻に当て、うつむいたまま何度もうなずいていました。

「かっこよかったなぁ、あのときのファミ行さん。ぁたし、ちょっと、ドゥ美が羨ましかったもん」

「ソラだってドシろうさんといい感じのデュオだったじゃないさ?」


 ぁたくしたちの沈黙を埋めるように、オゥメザフワ・トミーオのバラードが流れはじめます。

「懐かしい曲、流れてんだよ。この曲好きやった」ドゥ美がティッシュで鼻をかみながら言います。

「うん。ぁたしの心拍数がメテオしたら流れることになってるんだ。guluguluグーグーシステリアスのサービスなのよ」

「やばっ、もう、足かせもなく泣いちゃった」

「たまにはいいじゃない。ダム満たしていこ」



 その後、思い出話へともつれ込んだのは言うまでもありません。






 

 


 

 

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