第2話 私の罪への証言者たち

「まず、わたくしマリア・ライナスとサルトルは婚約を破棄し、サルトルはリーリエ・カント男爵令嬢と婚約をする。それで間違いないのですね?」


「あ、ああ!その通りだ!」


 サルトルは自分を鼓舞するように声を上げますが、わたくしはお父様に頷くだけです。

 お父様はお父様で人を呼んで手配をしてくださったんでしょう。だって婚約を破棄したのなら、やる事が多いですものね。


「そしてわたくしがそちらの……リーリエさんでしたっけ?を虐めたと?証拠はおありなんですよね?」


「もちろんだとも!ジルティン」


 ジルティン・リースリーム公爵令息がスッと現れます。そしてジルティン様も陛下に礼をし、陛下の了承があってから言葉を発します。


「言葉を慎めといつも言っているのに、まあ今は良い。私は証言する。そこのリーリエ・カント男爵令嬢は」


 リーリエさんは勝ち誇ったような顔でわたくしをみています。はぁ、なんだか面倒になってきましたわ。

 あ、ジルティン様のセリフが続きます。


「マリア嬢に濡れ衣を着せるために自分で本を噴水に投げ入れ、自分も飛び込みびしょ濡れのまま、学園内を彷徨き周り周囲に迷惑をかけて、勝手に風邪をひいておりました」


「な?!」


「なんですって?!」


 サルトルと、リーリエさんは叫びます。


「じ、ジルティン!貴様、きちんと証言すると言ったではないか!」


 ジルティン公爵令息はギロリとサルトルを見下ろし


「きちんと真実を証言したではないか。それに気安く名前を呼ばないで貰おうか?サルトル。貴様と私では格が違うのだよ」


 ふん、と鼻で笑いジルティン様はわたくしの前まで来ました。


「マリア嬢、これで良かったのです。やはり格と、覚悟がないものに貴族は務まらないのですよ」


「そうかも……いえ、そうですね。ジルティン様にもご迷惑をおかけしましたわ」


「そう思うなら、私と……いえ、それは後でお話致しましょう」


 柔らかく笑うジルティン様はとても素敵な紳士です。サルトルとは違いますね。


「ええい!リンツ!リンツいるんだろ!証言しろ!」


 1人の同級生が前に出ます。リンツ・イルマルド侯爵令息です。もちろんリンツ様も陛下にお許しを貰ってからの発言です。陛下がいらっしゃるのに、お許しをいただかずにあのような大声で。我が家の教育でしっかりしたはずなのに、リーリエさんがいらっしゃって気が大きくなって忘れているのかしら?


「騒ぐなサルトル、本当にお前は見苦しい。あと私を呼び捨てにするな。しれ者が!」


「リンツのくせに、公爵家に逆らうのか!良いから証言しろ!」


 冷たい目でサルトルを睨んでからリンツ様は口を開きました。


「つい先日、そこのカント男爵令嬢が階段から落ちた事件の事です。カント男爵令嬢は誰かに押された、それはマリア嬢に違いないと皆に触れ回ったそうです」


「怖かったですわ……」


 ふるり、と涙を浮かべた目でサルトルの服を握るリーリエさん。演技がかった行動に背筋が寒くなり、わたくしもブルっと来ましたわ。

 満足そうな笑みを浮かべるサルトル。でも話を聞く皆は気付いてましてよ?リンツ侯爵令息の目には怒りが浮かんでいる事に。


「その時、マリア嬢は特別教育時間で、学園にはいない。これは教授もご承知の上だし、教師陣にも確認済みである。重ねて言うなら、カント男爵令嬢はわざとらしい声をあげて自ら落ちた、と周りの証言を集めてある」


「な?!」


「そ、そんな事ありませんわ!」


 勿論驚きの声をあげたのはサルトルとリーリエさんで、周りは


「ああ、私の息子もそのような事を言っておりましたな」とか

「あの方は頭がアレで妄想癖が酷くていらっしゃるから……」など、サワサワと噂が流れる。


「そして!カント男爵令嬢!あなたが階段から落ちた。そんな事はどうでも良い!その落ちた先で、私の妹をクッション代わりにしただろう!妹のセラは足の骨を折って部屋から出られぬのだぞ!慰謝料を請求する!いつもいつも逃げ回りおって!許さん!」


 なんてこと!セラ様がそんな目に遭わされていたなんて。リンツ様とセラ様は仲の良いご兄妹。

 それはそれは烈火の如く怒っておいでです。


「ですから!原因はマリア……」


「マリア嬢は居ないと証言が取れている!お前の自作自演だろう!」


「ううっ……」


 小さくなってサルトルの後ろに隠れますが、隠れきれませんね。


 はあ、サルトルは証言を集めたようですが、わたくしに有利にしかなりませんでしたわね。


「リンツ様、セラ様は大丈夫なのですか?」


 わたくしはそちらの方が気になってしまいました。


「ええ、マリア嬢。痛みも引いたようですが、やはり足なので自由には歩けません。妹も濡れ衣を声高に着せられたマリア嬢の事を心配していました。よろしければ、なのですが時間がある時にでも見舞ってやってはくださらないでしょうか?」


 控えめですが、美しい笑顔でリンツ様は言って下さいました。


「あら、伺ってよろしいのでしょうか」


「ええ、マリア嬢なら妹も喜びます」


「ありがとうございます。日取りは追って連絡いたしますね」


 はい、お待ちしております。とにこやかです。リンツ様はこの笑顔で女子に人気の高い方なんですよね。

 そんな方を怒らせるなんて。リーリエさんは困った方なんですね。

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