【第1章完結】追放された魔王令嬢は反逆するために勇者学園へ通う ~次期魔王として英才教育を受けたワタクシに敵う人間なんておりませんわ~
五五五
プロローグ
追放なんて聞いていませんわ
「リーラリィネ……我が娘よ。貴様には失望した」
少女は自分に言い放たれた言葉の意味を上手く飲み込むことができず、しばらく呆然とした様子で立ち尽くしていた。
だが、そんな彼女の様子を無視するかのように、男は続ける。
「いま、この時をもって魔王候補としての権限を剥奪し、貴様を追放する!」
ここにきてようやく、少女・リーラリィネは自分がとんでもないピンチに立たされていることを自覚した。
「待ってくださいませ、お父様。いったい何がどうなってワタクシがそのような処分を受けなければいけませんの! まったく…納得がいきませんわ!」
「ほほう……納得がいかぬと申すか。では、私を説得してみせるがよい」
「もちろんですわ!まず、私はこれまでにお父様の望むままに勉学に励んでまいりました。我ら魔族の歴史はもとより、語学から算術、戦の手習いに至るまで、ありとあらゆるものを学んできましたわ」
「それは確かにそうだ。だが、そんなことは当たり前であろう。貴様は魔王候補……魔族を束ねる王になる予定だったのだからな」
「ほ、ほかにもございますわ! ワタクシは常日頃よりこの身を鍛えてまいりました。美しさを維持するという意味もありますが、それ以上に『戦い』に備えて! 戦働きは我ら魔族の誉れでございますもの。今のワタクシなら、お父様配下の将軍方にさえ引けを取ったりいたしませんわ」
「それも分かっておる。貴様にこれほどの武の才能があるとは我も思っていなかった。その点は素直に感心しよう。だが、それもまた魔王候補としては当然である。魔王が配下にまったく勝てんようでは話にならん」
「そ、そして何より! ワタクシには無限の如く湧き出る魔力がございますわ。恐れ多くも魔力に関してならば、お父様にさえ負けないと自負しております。必要とあれば、今ここで! 実演してみせてもかまいません!」
「それこそ重々承知しておる。貴様の魔力の強大さ…まさしく天地に並ぶものなどないだろう。我とて魔力比べだけであれば、敗北を喫してしまうかもしれん。だが、それもまた我が後継者にならんとする者からすれば、胸を張って誇るものでもなかろう」
「それでは、父上。魔王候補として当然のことを、ワタクシはしっかりと身につけているとお認めになられるということでよろしいでしょうか?」
「そうだな。貴様は魔王候補として求められる素養を多く身につけている」
「ならば!」
「それでも、だ」
魔王は玉座から勢いよく立ち上がり、自分の娘を見下すように言い放つ。
「いかに多くの素養を身につけようと、もっとも大事なものを持っておらぬ貴様に、魔王を継がせることは……いや、ほかの魔族の上に立たせることはできん! よって貴様は追放だ! 二度と我が前に顔を見せるでない!」
魔王の言葉に連動するように、衛兵が少女の両腕をがっちりと掴む。
そのまま引きずられるようにして部屋から追い出される少女。
「待ってくださいませ! お父様……お父様! ワタクシに足りないものっていったいなんですの! ちょっと、乱暴にしないで……離しなさ…離せっつってんだろーが! おい! クソオヤジ!! てめー、絶対に後悔させてやるからな! かくご……」
バタンっ!
「はぁぁぁぁぁ……。 な~んで、あんな風に育っちゃったんだろう?」
巨大な溜息と同時に、急に砕けた口調になる魔王。
玉座の陰からスッと現れた人物が憐れむようにこう告げる。
「魔王の職務は忙しいですからね……お母上を幼くして亡くされて以来、悪い友人たちとツルんでいたとか。彼らとは縁を切らせたのでしょうか」
「うん、魔王権限の結構強引な手を使ってね。それからは大人しくなって、いろいろ頑張ってくれていたから、更生してくれたのかなぁって思っていたのに」
「実際は……影でいろいろなさっていた、と」
「一応ね? あの子なりに理由があっての行動だったみたいだけど。ほかの皆にはそんなの関係ないからねぇ。おかげで、地方の族長やら酋長やら……結構な苦情が来ててさ。このままあの子を後釜に据えたら、間違いなく内乱が起こってたし」
「親心……ですか」
「いや。これはあの子の親であることより、魔王としての職務を優先しての決断だ。まあ、大丈夫。1人で生きていくくらいの力は身につけさせたし、なんとか生きていけるんじゃないかな?」
「1人で生きる……には、分不相応な気もしますが」
「そうかな? 世の中は危険だし、あのくらいはできないと困るんじゃない?」
「親心と言うより、親バカでしたか……」
「え? 何か言った?」
魔王の問いに答えることなく、脇の影はすうっと消えてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
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