第22話【無双転生者による性的被害】

 夜は明け朝になっている。

「なんで大家が着いてきてるんだよ? パーティーじゃないだろ」フリーが大家ミルッキに悪態をついている。天狗騨・リンゼ・フリーの3人のパーティー構成メンバーに加えなぜかミルッキも連れだって街中を歩いているからだ。


 天狗騨は昨日の夕食とまったく同じ手抜き気味の朝食を採り終えるや「今から出かける」と言ったきりで、それを聞いた他3人が全員が全員〝では自分も〟と着いてきたのである。

 大家ミルッキはフリーの悪態をまったく気にする様子も無く、

「わたしはシキョクインだから」と公言した。

「はあ? なんだよそれ」とフリー。

「わたしに黙ってなにかするのは困ります。相談くらいしてください」とリンゼの方は天狗騨に異議を唱える。

「まあまあリンゼちゃん、シキョクインというのはテングダさんの興味のお手伝いだから。別に魔物とは関係無いんだよ」と大家ミルッキ。

「じゃあこれは新たなパーティーなんですか? テングダさん」リンゼは少しだけ詰問調に天狗騨に訊いた。


「まあ興味のお手伝いという表現はナンだが、早い話し気になったことをいろいろ調べるから、それは当たっていると言えば当たっている」

「そうじゃなくて、シキョクインってなんです? わたしはパーティーなのにシキョクインになれないんですか?」と再びリンゼ。

「そうっスよ、テングダさん。大家がなれて俺たちがなれないってどういうことです?」とフリーもリンゼに続いた。

「いや、取り立てて興味があると思えなかったから告げなかっただけで、大家さんは興味を持ってくれたようだったからになっただけだが」

「じゃあわたしもシキョクインにしてくれるんですか?」とリンゼ。

「構わないが」

「え? じゃあ俺もお願いしますよシキョクイン」とフリーも入って来た。

「じゃあそうしよう」

「じゃ、全員じゃん」と大家ミルッキ。

「それで今からどこへ?」とリンゼが天狗騨に訊いた。

「もう着いてる」と言って天狗騨は目の前の建物を見上げた。行き先はギルドだった。

「手ぶらでギルドっスか?」とフリー。彼としては当然の疑問と言えた。

「取材だからな」と天狗騨。

 しかしここにいる他3人は『シュザイ』と言われても何のことかさっぱり解らない。


 4人でギルドの石段を昇り中へと入ると他に目もくれずカウンターへと直行する天狗騨。まだ朝のためギルド内に併設されている酒場は無人であった。

「おはようございます。ネルリッタさんに面会したいのですが、」と唐突に受付嬢に切り込む天狗騨。いきなり組織の最高責任者にアポ無しで会おうとするのが天狗騨らしい。


 しかしそこは無双転生者の特権か、しばらく待っただけでもうネルリッタが出てきてくれた。

「もう次を退治した、わけでもなさそうですね」とネルリッタの方から切り出してきた。

「ええ、まったく別の要件で」と応じる天狗騨。続けざま「——ここには当然、いつ誰に何枚ギルド金貨が支払われたかという記録があるはずですが、その記録を見せてもらうわけにはいきませんかね?」と訊いた。

「部外秘です」とあっさり断られた。それどころか逆に天狗騨の方が質問を受ける。

「なぜそんなことに興味が?」

「実は無双転生者について知りたいことがありまして、」

「ご自身の能力の話しではなさそうですね」

「だいぶ人格的に評判が悪いようですね、無双転生者というのは」

「まあ無双の力というのは限りなく全知全能に近いですからね、とは言えそこはしょせん人間、ついつい欲望に負けるのでしょう」

「魔物には勝てても欲望には負けますか」

「あら、テングダさん、面白いことを言いますわね」と今日初めてネルリッタの笑顔を見る天狗騨。

「ギルドに集う方々は別のようですが、実は私、街を歩いていると人から避けられるんですよ、ステータスオープンしていないにも関わらず」

「わざわざオープンしなくてもテングダさんの場合、そのナリで異世界人だとすぐ見て解りますから。それがお嫌でしたら、こちらの風俗に合わせたお召し物を新調すればいいだけですよ」

「いえいえ、それはそれとしてですね、以前の無双転生者の方々が何をやらかしてきたのか、同じ無双転生者としてそうした評判がどうにも気になりまして」


「——そうですか、前の前の方でしたか、私胸を触られましたね、いえ、触られたというのは表現が甘いですね、おっぱいを揉まれました。ふたつとも」

「はい?……」と言い瞬間絶句状態に陥った天狗騨だったが不自然な間を空けず次を繰り出した。「当然怒りましたよね?」

「怒りましたけど、相手は無双ですからね、怖くて本気では怒れないんです。だから益々つけあがるというか——」

 天狗騨は無言で相づちを打つ。

「あら、私ったらテングダさんにこんなお話をしてしまって」

「いえいえ、どんな話しでも。なにせ私はこの土地の事情にはまだまだ不案内ですから」

「そうそう、あなたの後ろのお二人は同居していましたからね、おっぱいを揉まれる程度では済んでいないかも」

(ネルリッタさんはウチの大家さんを知っているということか。まあ無双転生者ばかりに部屋を貸していたらそれも当然か)などと考えている途中で既に大慌てな金切り声がふたり分。

「なっ、何を言う⁉ わたしは風呂を覗かれただけだ!」と大家ミルッキ。

「わたしもまだ〝処女〟なんですから!」と今度はリンゼ。

「さあて、どうだか」と言って含み笑いをするネルリッタ。

(もしそうなら以前の無双転生者にも最低限の良心、と言っていいのかどうか微妙だが、それはあったことになる……、ま、この世界にがあるのかどうかなんて訊くに訊けないが)今度はそんな微妙なことを天狗騨が考えているとネルリッタが顔を近づけてきた。

「でもテングダさんが頼むなら、私のおっぱい、いつでも揉めますよ」

「なにーっ⁉」と言ったのは天狗騨ではなくリンゼと大家ミルッキ、合唱状態になっていた。フリーはただ固まっているのみ。

「…では、この世界で偉くなった時に、お願いしてみますか」天狗騨が言うとネルリッタはさらに顔を近づけてくる。そして耳元でささやいた。

「『好奇心は猫をも殺す』って言いますよテングダさん。気をつけてくださいね」

 それを言われるや天狗騨は頬にキスされてしまった。

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