閑話 魔導人形

「まず、第一に魔導人形は生き物であって生き物で無い。構成物質の大半は生体物質なんだけど、その上で、決定的に足りないのが『本人を形成する遺伝情報』と『魂』なんだ。」


 ご先祖様はそう言って語り始めたわ。


 要は、魔導人形というものを作る為には、


・ 人体構造の正確な知識

・ 魂の構成情報とそれを動かす為のアストラルボディの作成、運用方法

・ 対象の遺伝子情報

・ 神力


が必要という事らしい。


 やっぱり必要だったわね。

 予想通りだわ。

 

 ・・・だからこそ、あんな真似をしたのだから。


「でも、魂の研究は創造神様に禁止されていたわよね?」


 すると、ポツリとサマーニャ様が小首をかしげながらそう仰った。


「はい。だから魂の研究したわけでは無いんですよ。僕がするのは、あくまでも魂そのものを回収して魔導人形に宿らせているだけ。」

「でも、それだと魂がどういう動きで身体に作用するかわからないじゃない。というより、正確にはアストラルボディをどう作るかにかかってくるんだけど。性格や記憶、能力をまったく考慮しないならそれほど難しくないと思うんだけど、本人そのままって考えると・・・難しい、じゃすまないわ。どうやったの?」

「いや、それは発想の転換をしたんです。身体の構成情報を知る事は禁止されていませんから・・・」

「っ!!そっか!逆に足りないものを考えれば良いのね!?」

「そうです。それも、アストラルボディ側で考えて、ですね。後は自分の身体を本当の意味で100%把握できればそこも補充できますから。これがその資料です。」


 ご先祖様が虚空にモニターのようなものを現した。

 そこには人体図と同じように、【アストラルボディ】との記載がある。


「本当の意味って・・・うっそぉ・・・いや、確かに管理者にはそんな事必要ないからしようなんて思わないけど・・・そんなの誰が出来るの?管理者でもできないわ。・・・はぁ、二番目の方が負けるわけだわ・・・」

「ふむ。この資料を見る限り、我の身体を作った時とは別のアプローチなのだな。」

「うん、そう。だってあれは強靭なジードの魂と魔力がありきだったでしょ?誰でもってのは難しいじゃないか。」

「まぁ、確かにな。」


 サマーニャ様とご先祖様、そしてジード様の会話を聞く。


 う〜ん・・・高度過ぎてよくわからないけど、自分の筋肉を100%動かせる程度じゃとても届かない高みって事かしら?

 まぁ、もっとも私も筋肉だけでも100%なんてとても使えないんだけど。


「っと、ちょっと話が難しくなっちゃったね。まぁ、とにかく、あの二人の遺伝子情報が必要なんだけど・・・」

「あ、それは大丈夫・・・だと思います。これを・・・」

「・・・骨?それと・・・灰、かな?」

「そうです。二人のお墓を暴いて、レンベルトは肋骨・・・一応心臓に一番近い骨を、ヴィクトリアは吸血鬼だったので既に灰になっていたので、その灰を持って来ました。」

「・・・そう。よく、頑張ったね。」


 そう、私は二人の墓を暴いた。

 泣きながら暴いた。

 そんな事ができる私は人でなしでしょうね。


 誰が大事な大事な仲間のお墓を暴きたいものか。

 それでも、それでも私がやらなければいけなかった。


 人任せにするわけには・・・そんな無責任な事はできなかった。


 だから、私を気遣って変わろうとしたガンダンの申し出を断った。


 だって、この方法を思いついて提案したのは他ならぬ私なのだから。


 ヴィヴィアンちゃんにはとても辛い思いをさせたと思う。

 でも、発端の私がそんな表情を見せてはいけないの。

 だから、私は無表情を保つ。


 そんな風にしていたら、ご先祖様が立ち上がって私に近づき・・・頭を撫でた。


「苦しいよね。でも、僕は許すよ。君がしたことを。だから、そんなに悲しそうに、辛そうにしなくて良いんだよ?」


 その言葉を聞いた瞬間だった。

 ポトリ、ポトリと頬から落ちる感触があった。


「・・・で・・・も・・・」

「良いんだ。世界中の人が君を責めても、僕は君を肯定するよ。君のその優しさを。だから、良いんだ。」

「う・・・ああああああぁぁぁぁぁ」


 思わず、ご先祖様にしがみつく。


 私は泣いた。

 わんわんと泣いた。


 背中が温かい。

 

 この匂いと感触・・・


「私も許します。あなたの行いを。だって、あなたは辛くても、悲しくても、それでもより良い未来の為に、みんなの為に、あなたの大事な仲間の為に頑張ったのだもの。」

「レーナ・・・様・・・」

 

 あたたかい。

 ずっとあの行いを責められてる気がしていた。


 今、ようやく心が落ち着いて来た気がする。















 少しして落ち着くと、ご先祖様は二人の遺骨と遺灰を持って立ち上がった。


「安心するといいよ。必ず成功させる。時間も引き伸ばすから、決戦に間に合うように頑張るね。それまでは・・・レーナ、後を頼むね?」

「ええ、勿論。だって、私の子孫だし、私の弟子でもあるもの。」

「うん。じゃ、僕はちょっと席を外すね?」

「頑張って。」


 そんなご先祖様が正妻の方に声をかける。


「勿論。桜花はどうするの?」

「私は・・・セレスと一緒にちょっとサマーニャさんと話があるの。そうよね?」

「・・・ええ。お願いするわ。」

「あ、そうなの?じゃ、僕はちょっと工房に行くね?」


 ご先祖様が席を外された。

 サマーニャ様達には先程のような緊迫感が見て取れるわね。


「さあ、少しあちらで温かいものでも飲んで落ち着きましょうね?その後は久しぶりに修行をつけてあげます。」

「・・・はい、お願いします師匠。私もまた、強くなる必要がありますから。家族を、仲間を失わない為に。」


 私とレーナ様も席を立つ。


 ・・・何故か妙に緊迫感のあるサマーニャ様達を残して。

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