第112話 元勇者と元魔王
「さて、詳しい説明をしようかな・・・っと、その前にっと。」
男の子がそう言って、虚空からテーブルと椅子を取り出した。
どうやら、アイテムボックス持ちのようだ。
「・・・え〜っと、アレはあのままで良いのぉ?」
「うむ。先程言ったとおり、妾が解除するまであれはあのままよ。安心せよ。」
リュリュがちらちらと氷像となった化け物を見ていると、女性の方がそう言った。
「あ、でしたら・・・」
リーリエが現在ここを遠方から監視しているエヴァンス達に、一度ディアに戻ってもらう事にすると言った。
その際、女性から、
「監視と打ち合わせも兼ねるから、ここに一週間ほど野営する。それと、妾達の話は、極力聞かれぬ方が良いだろうから、我々が戻るまでここには来ぬように伝えよ。」
という言を貰い、一番足の早いチユリにひとっ走りして貰い、エヴァンス達に説明して貰って、心配しない事と、時間的に猶予が出来た旨の言伝をディアまで頼む事にした。
チユリが戻るまで、みんなで氷像をしっかりと確認していたのだが、まったく動く気配が無い。
「・・・凄い魔力だったわね。」
「ええ、そうですね。あの瞬間に感じた魔力・・・無詠唱であれほどの魔法を行使するとは・・・恐ろしいですね。」
「そうなの。あんなの、レナでも出来ないの。勿論、ヴィーやルールーでも出来ないの。凄まじいの。」
リーリエ、ヴィヴィアン、そしてルールーも息を飲みながらそう言う。
そうか。
おふくろでも無理なのか・・・
本当に、凄まじい力だ。
そうこうしているうちに、すぐにチユリが戻ってきたので、既に席についてのんびりとしている二人に習って、座らせて貰う事にした。
「あはは。まずは自己紹介しようかな?僕は瀬尾瞬と言います。で、こっちは・・・」
「妾は・・・あ〜、あたしは桜咲美嘉よ。あなた達を鍛える為に来たわ。よろしくね。」
男の子と女性がそう言った。
「あ、俺は・・・」
「ああ、良いですよ?あなたたちの事はこの世界の管理者であるサマーニャ様から聞いていますので。あなたは確か、九十九忍さんでしたよね?」
「あ、ああ。」
「で、そちらがレイリーさんで、そちらがリュリュさん、そしてキョウカさん・・・」
男の子・・・瀬尾氏が次々と俺たちの名前を呼んでいく。
どうやら、しっかりとサマーニャ様が説明をしてくれていたようだ。
「それで、あなた方は何故それほどの力を?普通の人間であるとお見受けしましたが・・・」
リーリエがそろそろと手を上げてそう聞いた。
ああ、確かに気になっていた。
「あ、僕は昔、住んでいる世界から他の世界に召喚されて、勇者をやっていた事があって・・・」
長い話になると断ってから話始めた瀬尾氏から詳しい経緯を聞くと、俺たちは揃って驚愕した。
何故なら彼は元勇者で、そして・・・
「あたしは、瞬とその仲間に討伐された元魔王ね?」
そう、桜咲氏はなんと元魔王の転生体だと言うのだ。
なんでも、彼は勇者召喚される時に、その世界の神・・・すなわち管理者に魔王を討伐する対価として、魔王の魂の安寧を求めたらしい。
他の者を害したくない瀬尾氏は、一度は管理者の要請を拒否したらしいのだが、そのまま魔王を放置すればどの道その世界は滅ぶと言われ、そのような対価を求めたらしいのだ。
なんというか・・・底抜けにお人好しで優しいのだな。
そんな彼が魔王討伐という偉業を達成した際に、魔王、つまり前世の桜咲氏は嫌がらせで勇者送還の秘術を使って、別れの挨拶すらさせずに元の世界に送り返してしまったらしいのだ。
何故そんな事をしたのかというと、
「それまで散々苦しめていたあたしに止めを刺す時にでも、あたしを思いやってくれた優しさと、最強だったあたしを倒す強さを持った瞬に惚れちゃってね?瞬の仲間はみんな女の子だったんだけど、どの子も明らかに瞬を好きだったのが分かったからさ。魔王として生を受けて始めての嫉妬をして、嫌がらせしちゃったのよ。」
という事だ。
で、瀬尾氏は元の世界に戻り、普通の日常に戻ったのだが、彼は元の世界では天涯孤独で、例外を除いて親類にすら邪険にされていたそうで、現在ディアにも設置が計画されている学校という枠組みの中でも、権力者の息子に嫌がらせをされていて周囲からは無視され孤独を感じていたそうだ。
あまりの人恋しさに自宅で臥せっていた所に、転生した桜咲氏が現れ、猛アピールされたらしい。
その転生も、討伐された後に、桜咲氏が管理者から瀬尾氏の要望通り望みを聞かれた為、瀬尾氏のいる世界への転生を望んだからそうだ。
で、瀬尾氏の生活に彩りが出たのだが、それを機にあれよあれよと元の世界の仲間が瀬尾氏を追って異世界から現れたり、元々の世界の女性に慕われたりされ、そして、
「みんなに捕まっちゃったんだ。」
と、照れくさそうに瀬尾氏は言った。
瀬尾氏に歳を聞いたが、現在21歳との事だが・・・なんというか、とても歳上とは思えん。
まぁ、たしかに俺は前世で80余年を生きてはいるのだが・・・それにしても、だ。
そんな瀬尾氏と桜咲氏の話を、リーリエ達は目をキラキラさせながら聞いていた。
いつの間にか茶菓子と茶まで出されていて、なんというか・・・俺の視界にはまだ化け物の氷像が見えるのがなんとも言えん。
で、その後瀬尾氏の救った世界の管理者までもが、管理者を辞め彼の下に来て男女の関係になっているそうだ。
可愛らしい顔立ちだが、そちらは男らしいのだな。
うん。
「そりゃ男らしいよ?なんてったって瞬のアレはすっごいし回数も「わーっ!!わーっ!!な、何言ってるのさ!!」」
何故か彼のイチモツの事を語り始めた桜咲氏を顔を真っ赤にして止める瀬尾氏。
・・・というか、俺は今、声に出していたか?
「心くらい読めるよ?」
・・・なるほど。
流石は元魔王というところか。
それでも、そんな関係になるまで時間がかかったらしい。
なんでも、瀬尾氏は両親の事故死等がトラウマになっており、家族を作るという事に積極的になれなかったそうだ。
そんな時に現れたそうだ。
「瞬の世界の管理者・・・そう、あなたの祖先でもあるんだけどね。」
「な・・・に・・・?」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
驚愕のカミングアウトに俺たちは驚く。
それはそうだろう。
なにせ、俺が神の子孫だというのだ。
詳しく聞いて見ると、おふくろのご先祖がその神らしいのだ。
ご先祖は、元々普通の人間で、おふくろ達が巻き込まれた次元穴というもののせいで他の世界に転移させられ、そこの神・・・俺たちに対する邪神と同じなのだが、悪しき神を弑し神の力を手に入れた剛の者らしいのだ。
・・・とんでもないな。
これにはかなり驚いた。
どうも称号の【御神の血筋】というのが子孫である事の証左であるそうだが、本当は、【三上の血筋】というらしい。
で、その神も瀬尾氏と同じように何人もの相手が・・・
「いいえ、あの人には奥さんが25人いるよ?たまにお仕置きで全員から搾り取られるんだって。勿論、性的に。」
に、にじゅうごにん・・・嘘だろ?
搾り取られるってのはいったい・・・搾る?
・・・まさか、いや、だが性的にと・・・ご先祖は化け物か?
ま、まぁ良い。
深く考えるのはやめよう。
その中に、時空間魔法が使える妻がいるらしく、おふくろや俺はその子孫だという事だ。
その神の妻には、瀬尾氏と同じ様に元管理者もいるらしく、更には元は管理者の中でも相当高位だったそうで、サマーニャ様もタジタジになっていたそうだ。
ニヤニヤしながらそう話す桜咲氏。
・・・なるほど、元魔王、か。
思わずもう一度言ってしまった。
神の醜態すらも愉悦なのだな。
恐ろしい・・・
で、その神の助言で瀬尾氏はトラウマを乗り越え、桜咲氏や彼を慕う女性と将来を誓い合ったそうだ。
それ以降もその神とは親交があり、たまに一緒に遊んだりしているらしい。
・・・いや、神だろう?
何故一緒に遊べるのだ?
「あはは・・・あの人は、とても気さくでいい人(?)なんだよ。で、僕を気にかけてくれてるんだって。僕もそんなあの人をとても尊敬しているんだ。」
「なんでも、自分によく似ているんだってさ。見た目じゃなくて考え方が。まぁ、瞬から甘さを取ったら、あの人みたいになるんだろうね。で、あの人はすごく強いのよ。なんでも、呼び名は『管理者最強』だとか、『処刑人』なんだってさ。悪いことした管理者を消しまくってるから。この世界の元々の管理者も彼に消されたらしいよ?」
開いた口が塞がらなかった。
元人間、なんだよな?
俺以外のみんなも呆然としている。
そりゃ、そうなるよな。
「で、瞬はあの人みたいになりたいらしく、ずっと暇を見ては修行をしているのよ。今回のもその一環なの。ま、瞬があの人に頼まれて断る訳ないけどね。」
なるほど。
そういう事か。
「というわけで、今日からここで野営するから。今夜はしっかりとスケジュール決めるからね?」
俺たちはみな気合を入れる。
だが、そんな中、桜咲氏と瀬尾氏は二人で目配せした。
なんだろう?
「やれやれねぇ。」
「仕方がないよ。心配なんでしょ?」
「だとしても、よ。もうちょっと信用して欲しいものね。」
ん?どういう・・・
「そんなところで様子を伺ってないで出てきなさいな。」
そう言って桜咲氏は自分の後ろを見る。
何もいないが・・・
「・・・はぁ、ほんとにもう・・・なんで管理者でもないのにそんなに力があるのよ・・・結構隠れるのは得意なのにさあ、嫌になっちゃうわ。」
「「なっ!?」」
俺とリーリエから声があがる。
みんなも驚きと警戒の表情を見せる。
それもその筈、みんなは見た事が無いだろうからだ。
直接はな。
だが、模した像なら見たことがあるはずだ。
すぐに皆もそれに気がつき唖然とする。
俺とリーリエは違う。
見たこともあれば、話したこともある。
何故なら、
「サマーニャ様!?どうしてここに!?」
「「「「「「!?」」」」」」
そう、そこに居たのはこの世界を管理する女神のサマーニャ様だったからだ。
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