第90話 新たな同行者

「かあさま、とうさま、安らかにお眠り下さい・・・」

「ヴィー・・・それにレン、ルールーはまだそちらにいけないの。先に行って、レナやバカ鬼にシノブと仲良くしてるって伝えておいて欲しいの。そのうち、いっぱいお土産話を持っていくの・・・」


 あの後、ヴィクトリアさんの亡骸を洞窟の奥にあるレンベルトさんのお墓の隣に埋葬した。

 お墓にはヴィクトリアさんが好んでくれた米の酒をお供えしている。


 ヴィヴィアンさんはまだ悲しいだろうに、それでも涙の後が残る赤い目で気丈に耐えており、旅立ちの準備も進めた。


 ヴィクトリアさんはどうもこの結末を予想していたようで、ヴィクトリアさんの部屋に行くとヴィヴィアンさんと俺とルールーあての書き置きと共に、様々な本や薬品がまとめられていた。


俺は自分あての書き置きに目を通す。


『これを読んでいるという事は、首尾よく妾を倒せたという事だろう。

 まずは妾を世界の敵とぜずに眠らせてくれた事に感謝する。

 

 そして、これより書くのはお主への願いだ。


 シノブ。

 

 妾の最愛の娘、ヴィヴィアンを頼む。


 あの子は、友人も知らず、知人もおらず、ましてや恋人などとは無縁だった。


 それはひとえに妾がこのような穴蔵に引っ込んでおったからであろう。


 だが、お主らが来てくれた。


 あの子に世界の広さを教えてくれる、信じられる仲間になれるであろうお主らが。


 正直なところ、レナとガンダンの忘れ形見であるお主が来た事は、妾は運命ではないかと思っている。


 妾にレナ達、レンベルトが来てくれたように。


 どうか、あの子を頼む。

 

 なんなら、伴侶としてくれて構わん。

 いや、むしろそうしてくれた方が安心だ。


 あの子は、妾に似て絶世の美女になるであろうしな。

 もしあの子が煮えきらん態度であれば、ベロベロに酔わせて男を教えてやってくれても構わぬぞ。

 お主であれば、一回すればあの子も素直になって受け入れそうな気もするしな!


 まぁ、それはお主らの決める事か。


 さて、最後となるが、ここにある物は全て持ち出すようにヴィヴィアンの書き置きには記してある。

 

 お主のアイテムボックスであれば持っていけるであろうからな。


 魔法の書や、政治の書、武芸の書、雑学、ポーションの類、また、毒薬や劇薬などもある。

 存分に活用するが良い。


 それだけあれば、チユリの母親も必ず救えようぞ。


 魔道具の類も他数あるので、好きにせよ。


 妾からの結納代わりだ。


 ああ、夜が凄くなる秘薬もあるので、自由に使え。

 お主の周りには女子おなごがいっぱい居るしなぁ。

 せいぜい喜ばしてやる事だ。


 風呂場で見たお主のイチモツは中々のものであったからなぁ!


 いかんな。

 どうにも長くなってしまう。


 最後に、娘をくれぐれもよろしく頼む。

 どうか、お主の人生に数多き幸があらんことを。』




 ・・・あの人は、本当に優しい人だ。

 からかうような口調とは裏腹に、俺たちの事を考えていてくれる。


 ・・・だが、最後まで表情に困るような冗談はやめてほしかった。

 というか、実の娘を酔わせて襲わせるのはどうなのか・・・

 

 まぁ、それは良い。

 俺はあの人の願いであるヴィヴィアンさんを守るのに尽力するだけだ。


 横目でルールーとヴィヴィアンさんの様子を見る。


 二人共、涙を流しながら書き置きを読んでいた。


「・・・ヴィー、必ず守るの。」

「かあさま・・・がんばりますわ。見守って下さいまし・・・」


 なにかを決意するルールーとヴィヴィアンさん。

 

 何が書かれているのかわからないが、それでも二人にそうさせる何かが記されているのだろう。


 俺も頑張ろう。


 ヴィクトリアさんに託された事を守れるように。









「では、よろしくお願いしますわ。」

「ああ、よろしく頼むよ。ヴィヴィアンさん。」


 準備を終え、出発のため洞窟の前にいる。


 洞窟は、荒らされないように、土魔法で入り口を塞いでおいた。


 改まって挨拶をするヴィヴィアンさんにそう告げると、ヴィヴィアンさんはにっこりと微笑んだ。


「・・・シノブ殿。これからはお仲間でしょう?わたくしの事はヴィヴィアン、とお呼びくださいな。」

「むっ・・・そうかわかった。ヴィヴィアン、よろしく頼むよ。」

「はいっ!」


 俺がそう言うと、輝いたような笑顔で返事をしてくれるヴィヴィアン。

 しかし、それを聞き焦るように叫ぶ者がいた。


「あっ!?ず、ずるいですヴィヴィアンさん!シノブさん!ボクもチユリって

呼んで下さい!!」

「そ、そうか。じゃ、じゃあチユリ?改めてよろしく頼むよ。」

「はいっ!ボクも頑張ります!!シノブさんの為に!!」


 ・・・なんだろう?

 すごくいい笑顔ではあるのだが・・・何やら熱っぽい表情をしているような・・・


 イテッ!?


 俺は背中に痛みを感じ、振り向くと、そこには涙目で俺を抓るリーリエが居た。


「ど、どうしたリーリエ?」

「ううう〜・・・忍さん、私も現界したのですよ?もうちょっとかまってくれても・・・」

「か、かまう?ど、どういう・・・」

「あ!?色々ありすぎてリーリエの事聞くの忘れてた!ちょっとあんた教えなさいよ!!」

「そうだよぅ!リーちゃん教えてぇ!!」

「そうさね。ちゃんとしなきゃねぇ?リーリエ?これからが本番だろう?」

「まったくそのとおりなの!きりきりと吐くの!!」


 狼狽している俺をよそに、レイリーとリュリュ、そしてキョウカとルールーがそう言った。


 これからが本番?

 何がだ?


「・・・はぁ。まったくお邪魔虫ですね。仕方がありません。でも、忍さんにも聞いて欲しいので教えてあげましょう。ではお話します。まず、私は向こうで命を落とした後・・・」


 その後は、リーリエの話しを聞きながら獣人の集落に歩き始める俺たち。

 

 今回の遠征で悲しい出来事もあったが、新たにチユリとヴィヴィアンが加わり、そして百合さん・・・リーリエも現界?して加わった。

 獣人も新たにディアの仲間になってくれるらしいし、もっと賑やかな村になるだろう。


 ヴィクトリアさん、レンベルトさん。

 ヴィヴィアンにはもうこれ以上悲しい思いをさせません。

 

 どうか見守っていて下さい。


 ・・・まぁ、ヴィヴィアンの召喚で二人も協力してくれる事もあるだろうし、もし俺が不甲斐ないと思ったら、気合を入れて貰うとするか。


 その時は覚悟しよう。

 かなり強かったからな。

 

 そうならないように、頑張るとするか!


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