第88話 最後の激突

「・・・皆さん、正念場です!今から私は奥の手を出すので動けなくなります!どうかそれまで耐えて下さい!」


 奥の手、か。

 

「ほう?させると思うのかぇ?」


 目を瞑って力を高めるリーリエに、飛びかかろうとするヴィクトリアさんだが、


「させないのっ!!」

「くっ!?既に全開で戦えないのによくやるっ!!」


 もう、元の姿に戻っているルールーと、


『ヴィクトリア!やらせんぞっ!!』

「レンベルト!ちぃっ!!」


 先程まで戦っていた時の速さや力強さが既に無いレンベルトさんが迎撃する。


「・・・ヴィヴィアンさん。俺も行く。君は力を高めておいてくれ。おそらく最後は君の一撃になるだろう。」

「シノブ殿・・・はいっ!」


 目を閉じ、力を高めるヴィヴィアンさん。


「きゃっ!?」

『ぐっ・・・』

「くははっ!もはや限界かのぅ?まぁ、妾も似たようなものではあるが・・・む・・・お主が最後に立ちはだかるか。」


 倒れ伏すルールーとレンベルトさんを前にそう言った後、俺をにそう告げる。


「ああ、立ちはだかるさ。相棒はやらせない。」

「・・・くっくっく。よう似ておるわ。あの馬鹿ガンダンにのぅ。」


 くつくつと笑うヴィクトリアさん。


「・・・行きます!」

「来いっ!・・・むぉっ!?な、なんじゃそ力は!?」


 俺は、リーリエを召喚して以降、戦いの様子を伺いつつも、力の把握に努めていた。

 その力は2つ。


 一つは、リーリエの鎖を斬った時のに発現した称号【御神の血族】


 ここに来て、隙を伺いながら見たステータスの記述はこうだ。

 

【御神の血族の者が、正道の下に己の道をいかんとする意思を強く持ち、最後まで諦めない時、神にまで至った先祖とその伴侶のもっとも色濃い力が与えられる。】


 そして、新しく入手したスキルは【時空間魔法】と【模倣 神力】だった。


【時空間魔法】はおふくろ使っていたというそれだろう。


 そして、【模倣 神力】。


 どうもこれは、さっきリーリエと戦った時にリーリエが使ったよくわからない力のようなものを振るえるようだ。

 

 そして、もう一つ入手に気がついていなかったものがある。

 それは、称号【魔の女王の祝福】だ。


 ステータス記述によると、闇魔法もしくはそれに類する攻撃に対する耐性増加、闇属性の攻撃強化だそうだ。


 先程、俺がヴィクトリアさんの攻撃を耐えられたのは、これのおかげだろう。


 いつの間にあったか知らないが・・・祝福という言葉で、思い浮かぶ事が一つあった。


 それは、あの接吻だ。


 あの時、何かを・・・いや、あの鉄臭い感じはおそらくヴィクトリアさんの血を飲まされたんだろう。

 それが身体に馴染み、このように発露したのだと思う。


 おそらく、彼女には、現在の状況が見えていたのではないだろうか。


「くくっ・・・妾の血は馴染んだようだなぁ?これほど早いとは流石はレナとガンダンの子よ!!それにしても、その力・・・この妾を魔王たらしめている力に似ているような・・・いずれにせよ、まだ使いこなせていないようだな?まぁよい!!妾を止めてみせよっ!シノブッ!!!」


 それを裏付けるように叫びながら、攻撃を繰り広げて来るヴィクトリアさん。


「ああっ!止めるとも!!だが、それは俺だけじゃないっ!!」


 彼女の突きを、魔法を、スキルを、辛うじて迎撃し、なんとか食らいつく。

 

______忍さん!一瞬で良いので、彼女に隙を作って下さい!!______


 そこへ、リーリエの声が頭に響く。

 どうやら、準備は整ったようだ。


 ならば!


「おおおおおっっ!!!」


 俺はこのよくわからない力を拳に集中させ、ヴィクトリアさんに突きを放つ。


「ごっ・・・焦りよったな!!気の練り込みが甘いわぁ!!」


 腹部に直撃。

 しかし、苦悶の表情は一瞬のみで、すぐさま反撃の為に伸ばした爪を振り下ろそうとしている。


 俺はを込めた事もあってか、足が動かない。

 このままなら直撃だ。

 なら。


 手の平のみをヴィクトリアさんに向ける。


「お主程度の魔法など効かぬわ!」


 構わず俺に爪を振り下ろし、


「【時空間魔法】フェイクスド」

「なっ!?時空間!?うご・・・けぬ・・・!?」


 この魔法を思い浮かべた時に、何故か浮かんだたった一つの魔法。

 その効果は・・・空間固定。

 

 たった一瞬の固定。

 だが、それで充分だ。


「忍さん!行きます!神武結界『御霊封じ』」


 リーリエからあのよくわからない力が吹き荒れ、ヴィクトリアさんに光の槍が何本も刺さる。


「っっっっっっ!!!!」


 苦悶の表情のまま声にならない声で叫ぶも、そのまま固まるヴィクトリアさん。


「今だ!」

「ヴィヴィアンさんっ!」


 俺とリーリエは叫ぶ。


「かあさま!かあさま!!どうか安らかに!!極光魔法『エンジェルストライク』!!」


 ヴィヴィアンさんの前に光の束が渦巻き圧縮されていく。

 

「・・・ふっ。」


 ヴィクトリアさんが目を閉じ、笑った。


 ゴォォォォォォォッ!!!!!!

 

 光の玉は唸りを上げヴィクトリアさんに直撃!

 その身体を飲み込みながら弾き飛ばし、


 ドォーーー・・・ンッ!!!!!


 爆発!!


 土煙が立ち上る。

 そして、収まった後そこにあったのは、


「・・・よう・・・やっ・・・た・・・ぞ・・・?・・・ヴィヴィ・・・アン・・・」


 今にも倒れそうになりながらも、仁王立ちするヴィヴィアンさんがいた。


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