第7話 快適な暮らしの為に

 さて、決戦を明日に控え、今日は剣鉈や腰鉈の手入れや、弓や矢の手入れ、それと投擲用の小刀の手入れをする。

 いよいよ明日が作戦決行だ。

 泣いても笑っても、明日、全てが決まる。

 

 もし、明日失敗したら、たとえ逃げ切れたとしても、おそらく怒り狂った魔熊が近辺を動き回り、ここを発見するだろう。

 そうなったら、仮にこの中に引っ込んでいれば安全だとしても、自由の無いつまらない状態になる。


 そんなのは真っ平ごめんだ。


 俺は今回、リーリエには言っていないが、万が一窒息作戦が失敗した場合、直接戦闘で決着をつけるつもりでいる。

 リーリエは怒るかもしれないが、これは俺の挑戦なのだ。


 この世界で快適な暮らしを得る為には、困難から逃げていては達成出来ない。

 そもそも、俺は前世の頃から負けん気だけは強かった。

 ほとんど人と関わって来なかったので、あまり人相手に発揮した事は無かったが、正直負けん気だけで生きてきて、様々な技能を得たり、熊すら狩れるようになったのだ。


 それは若返った今の方がより強く感じる。


 俺は魔熊を倒し、更に成長し、この世界で快適に暮らしてやるんだ。

 ・・・出来れば仲間が欲しいところではあるのだが。


『忍様、お食事をされてはいかがでしょう?あまり根を詰めすぎるのも良くありません。』


 おっと、ちょっと入れ込みすぎていたかもしれない。

 リーリエの声で我に返る。


「そうだな。すまんなリーリエ。面倒をかける。」

『・・・いえ、あなた様のサポートが私の役目なので。』


 心なしか嬉しそうなリーリエ。


 そうだな。

 リーリエには自我がある。

 俺が死ぬという事は、リーリエも死ぬのと同義だ。

 この心優しいすてーたすさんを道連れにしてしまうのは心苦しい。

 

 絶対に死ねない。


 それにしても改めて思うが、リーリエの声、話し方・・・どこかで聞いた事があるような気が・・・


『忍様?いかがされましたか?』

「いや、すまん。なんでもない。」


 まぁ、良い。

 今は熊を倒す事に集中しよう。


 全ては、それからだ。


 俺は食事を作り、食べ、その後はまた魔熊討伐の準備をする。

 必ず生きて帰ってくる為に。


 呆気なく死んでしまっては、色々と便宜を図ってくれた女神様にも申し訳が立たないからな。

 

 よし!

 今日は風呂に入ろう!


 思えば、ここに来てから水を浴びたり身体を拭いたりした程度で、きちんと入浴はしていなかった。

 万全に望む為にも、きちんと入浴して心を落ち着かせる必要があるかもしれない。

 全ての準備が終わった俺は、予め入手して、あいてむぼっくすに入れてあった平べったい大きめの岩を、井戸の側に取り出した。


 岩の中央を削り、くぼみを作る。

 深さは、俺の身体が入り、足を伸ばせる位。


 作業は、夕方までかかった。


 俺は、風呂代わりの岩の側に、簡単に石を組んで作った竈門で火を起こし、そこで石を熱っして、井戸水を張った岩の中にいくつか放り込む。


 ジュワァ!!


 水が一気に加熱される、何度か繰り返すと、井戸水は湯に変わる。


 腕を突っ込むと、少しぬるいが、まぁこんなものだろう。


 さて・・・衝立も屋根も無いが、どうせ俺しかいない。

 素っ裸でいいだろうな。

 川での水浴びのときは、流石に無防備になるのでズボンは履いたままだったが、ここは結界の範囲内だ。

 無防備でも大丈夫だろう。


 俺は家で服を脱ぎ、丸出しで風呂に向かう。

 

『・・・あう・・・』

「ん?どうしたリーリエ?」


 何故か唸るようなリーリエの声が聞こえたので、不思議に思って問いかける。


『い、いえ、なんでもありません忍様。』


 明らかに狼狽しているリーリエ。

 なんでだ?

 まぁ、良いか。


 かけ湯をしてから湯船に浸かると、


「あ”あ”〜・・・」


 思わず声が出た。

 沁みるように感じる心地よさに思わずと言った感じだ。


 やはり風呂は良い。

 魔熊の事が終わったら、簡易的なものではなく、しっかりとした風呂を作ろう。

 

 また一つ楽しみを見つける事ができた俺は、魔熊討伐への英気を養う。

 

「絶対に討伐してやる。」

『はい、頑張って下さい忍様・・・どうかご無事で。』


 思わず出た独り言に答えてくれたリーリエ。

 それがとても嬉しく感じた。


 孤独だった前世。

 それに比べて、たとえ姿が無くても、会話ができるというのは嬉しい。

 特にリーリエとの何気ない会話は、何故か心が安らぐからな。


 これからもリーリエと一緒に過ごす為に、絶対に勝つ!

 俺は決意を新たにするのだった。

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