第28話 うっす…ハリナっす…
うっす…。ハリナっす…。おはざす…。
私ってば、あの騒動の後、気絶してたみたいで…目を覚ましたら大聖堂のお部屋でした…。丸一日、寝てたみたい…。朝の眩しい太陽と共に、ガイアクバードの猫被った可愛らしい鳴き声が耳に優しい…。でも、今の私はそんなことには興味が持てないでいた。だって…
「朕…」
やばい…。また、勝手に涙が出てきちゃう…。私が枕に顔を埋めてしくしくしていると、不意に部屋のドアが開いた。
「ほーうほうほうほう!元気かな?聖女のお嬢ちゃん!差し入れを持ってきたぞ!」
「…同志じいちゃん」
ガチャリとドアを開けて入ってきたのはたくさんのお菓子を抱えた恰幅のいい白髭じいちゃん。彼は頭に包帯を巻き、松葉杖をつきながらも朗らかな笑顔を絶やさない。
…あ、そうそう。あのラーメン屋であったじいちゃん。この人がマクダマさんが言ってたバリューって人で、実は司教さんだったんだって。びっくりだよね。
どうやら私たちが朕と戦ってた時、もう一方…小さな女の子の方と戦ってたみたい。こんなに大怪我までしてカタラナさんを助けてくれたみたいで…。
「いい人だね同士じいちゃん…」
…申し訳ないよ。私みたいな何も出来ない子どものために。はぁ…。
「むぅ。どうやらかなり抱え込んでるようじゃのう。ほれ!王都中のありとあらゆるお菓子をかき集めて来たんじゃ!これで元気を出すといいカネ!」
どさりと山の様なお菓子が目の前に置かれた。いつもの私だったら大喜びで踊り出すくらいするんだろうけど、今は…。
「…ありがとう。でも、私今は食欲が…」
「聖女様。ご加減の方はいかがで…うおっ。…バリュー司教…」
同士じいちゃんの後からドアを開けて入ってきたのは、胡散くさ神父ことライデス神父だ。
彼は山の様に積み上げられたお菓子にギョッとした表情を浮かべた後、目の前のご立派おじいちゃん司教をジト目で上から下まで眺め始めた。
どうしたんだろう?主に包帯を巻かれた頭や足をジロジロと見ていたかと思うと、じいちゃんに対してにこやかに微笑んだ。
「演技派ですねバリュー司教」
「…ほっほっほ。なんのことやら。お主もではないカネ?ライデス」
「ふふふ、何のことやら」
「ほっほっほ」
「ふふふ」
微笑み合う2人。仲良いのかな。…はぁ。私がぼんやりと2人のやりとりを眺めてると、バタバタと足音が部屋の外から聞こえてきた。
ガチャ!
「バリュー司教様!ライデス神父様!きょ、教皇様がお呼びのようです!」
あ…カリオくんだ。カリオくんも今は大聖堂の中にとどまってるみたいで、みんなのお手伝いをしているらしい。仕事熱心でえらいなぁ。
「むぅ?仕方あるまい…。お嬢ちゃん!また後で商だ…お話をするカネ!」
「…一体、何の御用でしょうか。聖女様、失礼致します。また後ほど…」
部屋を後にする2人を見送るが、カリオくんだけがドアの前で私の方を見つめていた。…どうしたの?
カリオくんは胸の前で握り拳を作ると、大きな声で私を励ましてくれる。
「………は、ハリナ様!げ、元気、出してくださいね!ハリナ様の魔法のおかげで怪我人もゼロだったんです!これってすごい事なんですから!」
「カリオくん…。うん、ありがとうね…」
私は力なくも笑みで返事をした。困り眉のカリオくんは、何度も私を心配した様子で振り返りながらも、おじいちゃんと神父の案内に戻って行った。
魔法のおかげか…。でも、あの時魔法が使えたら朕は…。
ガララ…
「?」
「よいしょ…うっわぁ!辛気臭いなぁここは!」
誰だろう?中庭の方の窓が開いたかと思うと、私と同じくらいの年であろう女の子が入って来た。
「わ!ドーナッツあるじゃんドーナッツ!もらっていい?いいやもらうね!」
「え、あ、うん」
何この子?女の子は、ズカズカと無遠慮にこっちに歩みを進めると、おじいちゃん司教が持って来たお菓子の山に目を輝かせてビリビリと袋を破り始めた。
「うおー、いいね!こんなにたくさん食べ切れるかな!いただきま!もっしゃもっしゃ!ぐぁつぐぁつ!がっふぁがっふぁ!」
すんごい勢いでドーナツを食べ始めた女の子。全部食べ尽くす気なの…?一応、私のために持って来てくれた物なんだけど…。
なんなんだ一体…。…私は呆気に取られた様に彼女を眺める。彼女の言動ばかりに目を奪われていたが、それだけでなく見た目の方も珍しい事に気がついた。
宝石みたいな紅い瞳に、見たこともないような真っ白な髪の毛…。今は床に胡座かいてるから分かりにくいけど、立ってても地面について余りある程に長い。そんな真っ白な髪の女の子は、私の視線に気づくと、ドーナツを貪りながら私に声をかけて来た。
「ねぇ!もっしゃ!君の名前!むっしゃむっしゃ!は?ぺっしぺっし!なんてーの?げっしょげっしょ!」
咀嚼音と言っていいかもわからない謎の音を出しながら、元気いっぱいに話しかけて来る女の子。食べながらだから食べカスがめっちゃ飛んでくる。
「ちょ、カケラが飛んできて」
「え?むがっさむがっさ!なんて?聞こえなかっぷっちょぷっちょ!」
「あぁ!もう!汚いな!私はハリナ!そっちこそ誰なのさ!」
「ぽんちょぽんちょ!…僕?」
すると、食べる手を止め、砂糖まみれの指をペロリと舐めながら女の子はにこりと笑った。
ずずいとこちらに身を寄せて、彼女は太陽の様に朗らかに見惚れる様な笑顔で、
「僕の事はキューって呼んでくれたらいいよん!」
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