第22話 朕!お前生きていたのか!

「う、うわーーー!ひ、ひぃー!ぎゃーーー!」


 どうもみなさんこんにちは!ハリナだよ!いやーくっさいわ〜。鼻もげそう。あ、マクダマさんが出したドロドロしたやつのことだよ?断じて私のキラキラではない!

 ちなみにこの悲鳴は騎士団長のアリストアお姉さん。わーぎゃー騒ぎながらも、激臭ドロドロから逃げるように走り続けている。

 私のキラキラで鎧とマントがキラキラになった途端、ずっとこんな感じなんだよね。でも、小脇に抱えた私はそのまんまだよ。プロ意識って凄いわ。

 すると、青い鎧の騎士さんたちが心配して駆け寄ってきた。


「どうしました隊長!なんか酸っぱい臭いする!」「大丈夫ですか隊長!なんか酸っぱい匂いする!」「…いつも冷静で高貴な振る舞いを忘れない隊長がどうして!なんか酸っ(以下略)」「敵は一体どれほど恐ろしいやつなんだ!な(以下略)」「(以下略)」


 酸っぱい酸っぱいうるさいな!こっち見ながら鼻を押さえるな!そんなのより死臭の方が酷いでしょ!すると、1人の聖騎士の小脇に抱えられた見知った存在に気がついた。


「カ、カリオくん!無事だったのか!」


 胴上げショタのカリオくんじゃないか!どさくさに紛れてフェードアウトキメたかと思ってた。いつの間に助けられたんだ。


「え、えへへ。こちらの青の副団長さんのおかげでなんとか無事に」

「副団長?」


 ちらりと視線を移せば目に入ったのはクールそうな短髪のお姉さん。あ、どうも。


「どうも」


 淡白ぅ!ま、いいや。ん?どうしたのかなカリオくん。何か言いたそうな顔して。


「は、ハリナ様あの…うっ」

 

 さっ、と何かに気づき、鼻を押さえようと逡巡するカリオくん。…君も私を傷つけるのかな?しかし、なんとか堪えたようで実に酸っぱそうな顔をしている。流石カリオくんだ。どんな顔でも可愛いね。


「ハリナ様。は、鼻」

「鼻?」


 私は小首をかしげる。

 すると、至極言いづらそうにカリオくんは目を逸らしながら口を開いた。


「は、鼻から麺が出てます…!」

「………え!?まじ!」


 指を鼻の下の方に持っていくと確かに両方の鼻の穴からぷらぷらぶら下がる何かが。

 いやはやお恥ずかしい。


 ずぞぞぞぞーーーーっ!!!


 私は思い切り鼻を啜るとするするするーっと鼻からこんにちわしていた私のお腹の中の住人が無事に帰宅して行った。カリオくんがドン引きしたような顔をしている。副団長さんが目を背けた。周りの聖騎士さんたちが見て見ぬふりをした。


「お、おえーー」


 私の必殺・麺帰宅ヌードルバックホームを見て、ついに膝をつき嗚咽をあげる騎士団長のアリストアさん。慣性で膝スライディングみたいになってる!痛そう!…ってうわっと!危ない危ない。もうちょいで私も石畳に擦られるとこだった。

 お姉さんの腕を抜け出して振り向く。すると、お姉さんは地に伏せたまま、実に辛そうに心境を吐露し始めた。


「き、キツすぎます…。こんなお下劣ダーティー地味少女が聖女だなんて…。もしかして……夢!?」


 はっ!と気づいたように顔を上げる騎士団長。残念!夢じゃありませぇ〜ん!……言ってて悲しくなるわ。そんなことより今は逃げないとだよ!


「遊んでる暇はないよアリストアさん!ほら立って立って!」

「うぅ、もう嫌です…。臭いし汚いですぅ…」

「泣くんじゃなーい!泣きたいのは私の方じゃい!」


 半ベソかいているアリストアさんに喝を入れる私。

 こっちだって、もうちょいまともなヒロインムーブしたいんじゃ!なんだ飯食らってボケてツッコんでキラキラ吐いただけだぞ!


 まったくもう!


 そんなふうにぷんすこしてると、背後から悲鳴が聞こえて来た。

 振り向くと、マクダマさんの剣から湧き出たドロドロはたくさんの黒ローブや聖騎士たちを呑み込みながらその範囲を徐々に徐々に広げていっているではないか!


「う…あ、あれに呑まれた人ってどうなっちゃうの!」

「うえぇ…」


泣くなぽんこつぅ!


 未だに嗚咽混じりの泣き声を上げるアリストアお姉さん。そんな彼女を介抱するのはカリオくんを助けてくれた副団長さんだ。副団長さんはアリストアお姉さんのキラキラを拭き取りながら、淡々と説明してくれる。


「『黒の聖騎士』団長マクダマの信奉術式、『憩神饌』は死の具現化です。触れれば待つのは安らかな眠りだけです」


ごくり…やばすぎでしょ…


 私が生唾ごくり決めていると、周囲の騎士たちにも懸命にキラキラを掃除してもらったアリストアさんがようやく持ち直したようだ。

 再び私を抱えたかと思うとさっと走り出す。律儀だね。いい子いい子。「氷漬けにしますよ」ごめんさい。

 私は抱えられながらも、悲鳴の方が気になり、ちらりと後ろを向いてみる。すると…

 

「くぅ…たくさんの朕たちがやられていく…!」


「クソマゾの朕!生きていたか!」「『救済』のマクダマ、やはり危険人物ね!ここで始末するべきだわ!」「一斉にかかるぞ!」「行くだわさ!」


「え?嘘ぉ!待ちたまえよ朕たち!」


 クソマゾの朕!お前生きていたのか!いや、そんな思い入れあるやつでもないけど!

 掛け声をあげた他の黒ローブたちは朕の制止も聞かず、数十人単位でマクダマさんに襲い掛かる。


「「「うおおお……っゴポポポポポ!!……ぐぅz z z z」」」


 そして、一人残らず泥に呑まれた。

 …在庫処理かな?


「呆れるほどの馬鹿たちだな!全部朕だけど!」


 どうも彼らもジリ貧のようで少しずつその数を減らしていっている。私は堪らず声を上げた。


「ね、ねえ!アリストアさん!」

「…何ですかお下劣少女」


 ついに聖女すら剥奪されてしまった!

 いや、でも今はそんなことどうでもいい!私はどうしてもやりたいことがあるんだ!

 意を決してアリストアさんの方を見て言う。


「みんなを助けたいんだけど…!マクダマさん、止められないかなぁ?」

「は?馬鹿ですか?」


 うん。まあそう言う反応になるよね!

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