第14話 お出かけしましょ!そーしましょ!
ちゅんちゅん。ちゅんちゅちゅん。
窓辺に止まる小鳥の囀りを聞いて私は目を覚ました。
既に窓の外は明るく、暖かな日差しが私のおでこにキラキラと降り注ぐ。
「眠たい〜」
あと5分…。まだ誰も起こしに来てないし良いよね?モゾモゾと掛け布団を頭にかぶり、ベッドの中へ戻って行く。私が悪いんじゃない…。ふわふわベッドが悪いんだ…。…ぐぅ。
ちゅんちゅん!ちゅボボボボボッ!!ヴゴロロロロロロロロロ!!!!!!
「うるせえええええええええ!!!!」
とんでもない鳴き声に私はベッドから飛び起き、窓を勢いよく開け放つ。
この鳴き声はガイアクバードだな…?ソンダケ村にも稀によくいる黄色い小鳥で、その体格に見合わぬクソでかい鳴き声を撒き散らす害鳥だ。見た目が可愛いだけに鬱陶しさ倍増だね。
すると、窓の向こう、中庭かな?たくさんのお花が植えられた庭園では爽やか笑顔のハーフエルフお兄さんことオリオット先生が水やりの手を止め、きょとんとした顔でこっちを見ていた。あ、ごめんさい。続けて続けて。
「やぁ。おはようございます。ふふふ、朝から元気いっぱいですね。とても良いことです」
朝っぱらから褒め殺しにかかってくるとは先生もなかなかやるな。私は少々照れ気味に挨拶を返した。
「お、おはようございまふ。…ってあれ?先生の肩に止まってるのって…」
そう。先生の肩や頭には何羽ものガイアクバードがちゅんちゅんと囀りながら止まっている。
「せ、先生!そいつら危険ですよ!ほら、ぷちってして!」
「ふふ。聖女様は心配性ですね。でも、安心してください。この子たちは大人しいですから」
そう言って指で優しくガイアクバードどもを撫でる先生。うそん!うちのお父さんなんかうっかり近づいて両耳からブシャブシャ出血してたのに。先生に撫でられるガイアクバードは実に嬉しそうに彼の指に身を寄せている。
うっわあ。すんごい絵になる人だなほんと。イケメンムーブがすごすぎて目が潰れそうだよ。すると、先生は優しげな口調で語り出す。
「この子たちが大きな声で鳴くのはストレスを感じた時なんです。だから、先程は見慣れない聖女様を見かけて驚いたんでしょうね」
ほえー。ソンダケ村では毎日のようにシャウトしてたんだけどなぁ。めちゃストレス感じてたってこと?でも、大声で鳴き散らす方が悪いと思うの。
私がう〜む、と頭を悩ませていると先生はふふ、と微笑み朝食にしようと声をかけてくれた。わーいご飯ご飯!え?切り替えが早い?人生の秘訣だよ!覚えとけ!
私はよっ、とベッドから華麗なジャンプを決め、部屋を出ようとする。
「ん?」
私が飛び跳ねた衝撃で小さなお人形がポテンと床に落ちる。
そうか。昨日、石像なりきりパフォーマーことワイドにもらったんだ。この人形を見るまで昨日のアレは悪夢か何かだと思ってたわ。私はそそくさと人形をポケットに詰め込み、寝室を後にする。
すると、軽装のカタラナさんがそこには立っていた。
「あ!おはよカタラナさん!」
「ああ、おはよう。ちょうど今、迎えに来たんだ。ふっ…ハリナは朝から元気だな」
そうかなぁ?普通だと思うけど。私たちは他愛もない話をしながら食堂へと向かう。一体どんなご飯が出るのかな〜?楽しみだな〜。
昨日はお昼を食べてすぐ寝ちゃったからお腹ぺこぺこだぁ。
そして、昨日と同じ部屋に入るとそこには既に席についたオリオット先生と目の下にクマを作った胡散くさ神父。死に体のタタラガがいた。タタラガは机に突っ伏して白目を剥いている。
「おはようございます聖女様」
「お、おはようございます」
昨日の人相最悪ブチ切れフェイスを披露したとは思えない、いつもの胡散くさスマイルを浮かべ挨拶する神父。目の下のクマがすごいけど。
昨日のことが気になるけど、何も聞くなという無言の圧がすごいから聞かないことにした。そんなことよりタタラガだ。彼はぐったりした様子で震える声で弱々しく声を上げた。
「う〜、ぎぼぢわりぃ」
「はは。タタラガくんもまだまだですね」
一体どうしたんだろ?私は心配してタタラガをつっつく。乱暴だけど良いやつだからな。少しくらいは心配もするよ。
ん?酒臭っ!!こいつ飲んでやがったな!?思わず鼻を摘んだ私を横目に、カタラナさんが呆れ顔でため息をついた。
「…昨日、聖女様が寝入った後、先生とお酒を囲むことになってな。私はやめとけと言ったんだがこの馬鹿が意地になってバカスカ飲んだんだ。完全な自業自得だ。気にするな」
「へぇ。なんかタタラガらしいね」
はー。心配して損したわ。というか先生ってお酒飲むんだね。そう思い、先生をチラリと見ると、
「嗜む程度ですよ」
と笑って答えた。すると、カタラナさんが私にこっそり耳打ちする。
「…53本だ」
「え?何が?」
「先生が昨日開けたワインの本数だ」
ええ?ウワバミとかそういうレベルじゃないじゃん。正直ちょっと引いた。いや嘘。かなり引いた。なんで、あんな平気な顔で座ってるの?朝から水やりしてたし。
私は先生の底知れぬ実力にごくりと喉を鳴らした。
死んでるタタラガを放置しながら、私たちも席に着く。すると、そう時間が立たない内にあれよあれよとご飯が出てきた。柔らかいパンとサラダ、野菜のスープに目玉焼きにベーコン、それとミルク!こういうので良いんだよ。感謝の祈りを捧げて、私はもぐもぐと勢いよくご飯を頬張る。
その様子を見たカタラナさんが眉を下げ、先生も困ったような顔で笑った。
「食事マナーも学んでいかないとな」
「ふふ。たくさん食べるのは良いことですが、もう少し落ち着いて食べましょうか」
もごもご。なんだか前途多難かも。しかし、私の手と口は止まることを知らなかった。美味しいんだもん。しょうがないよねぇ?
タタラガはなお死んでいた。
*******************♪
食事を終え、私はお出かけの支度をしていた。顔を洗い、今はカタラナさんに髪を解いて貰っているところだ。カタラナさんの格好も帯刀はしているもののお出掛けということで青い鎧は着ておらず、革鎧を着た簡素な冒険者風コーデと言った感じ。
そしてもう一人、シスター姿の恰幅のいいおばちゃんが私のお着替えを手伝ってくれている。
「あらあら!お嬢ちゃんはぼんやりと可愛いね!たっぷりおめかししないとねぇ!」
なんだこいつ。失礼なおばちゃんだな。というかぼんやり可愛いってなんだ?地味ってことか?
このおばちゃんの名前はシスター・プックランというらしい。世話を焼くのが好きで、聖堂を訪れたお客さんをもてなすのが趣味みたいだ。おばちゃんは豪快にガハガハ笑いながらも、私の体を採寸していく。
「シスター・プックラン。ハリナの髪はこれで良いんだろうか?」
「あらあら!カタラナ様もまだまだだね!女の子なら髪の編み込みくらい出来ないとダメだよぉ!せっかくふんわりとした茶髪なんだ!うんと可愛くしてやんないとねぇ!
ちょいと貸してみなよぉ!こうしてこうしてこうさぁ!」
「おお!まさに神業だな!」
しゅばばばば!鏡に映るプックランさんの手が見えぬ速度で動き、瞬く間に私の髪がまとめ上げられる。むっ!すっげー!超かわいいじゃん!聞くと、どうもハーフアップという髪型らしい。
「ほー。なかなかやるねおばちゃん!」
「こんなもん朝飯前さあ!がっはっはっはっは!」
ほっぺをぷるぷる揺らしながら笑うおばちゃん。気持ちのいいおばちゃんだな。結構好きかも。
でも、このおばちゃんシスターには私が聖女だということを知られてないみたい。どうやら私はオリオット先生の遠い親戚という設定らしい。まあ、妙に畏まられるよりはこの方がいいかな。
そんなことを考えてる内にあれよあれよという間に私のお着替えが終わった。
「おお!真っ当に可愛いな!」
「す、すごい…ってなんだ真っ当って!」
「あたしの腕もまだまだ捨てたもんじゃないねぇ!」
今の私はふんわりとした清潔感のある白のワンピースにまとめ上げたハーフアップの髪型。そして、ほんのちょっぴりのお化粧で自分でも驚くほどの可愛さに大変身していた。おばちゃん曰く素材の味が良いとのことだ。
えへーん!
ドヤ顔でくるりと回ってみたりする。気分の良さで私のお出掛け欲は更に上昇だ。
「で!お出かけはどこに行くのさ!」
「ん?ああ、プランはタタラガが考えたもので行くつもりだ。ただ、肝心のあいつがな…」
そう言って気まずそうに頬を掻くカタラナさん。そうだ。タタラガの奴ノックダウンしてたんだ。じゃあ、
「カタラナさんと神父と先生の4人で行く感じ?」
「いや、ライデス神父も先生も大聖堂での仕事があるようでな。残念だが、私一人なのだ。」
「ふーん。……お貴族様のカタラナさん一人で街中大冒険出来る?」
「ば、馬鹿にするな!このカタラナ、たとえ一人であろうとも完璧に案内してみせると誓おう!」
「がっはっは!カタラナ様は意地っ張りだねえ!」
胸に手を当て、少し困った顔で胸を張るカタラナさん。そんな彼女に対するおばちゃんの豪快な笑い声が部屋に木霊していた。
し、心配だなぁ。
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