第37話 特攻開始
放送室の扉を開けると、そこには思ってた通り、よく見る三人の顔があった。
田中に里井、そして畑山。
どいつもこいつもゲスなことしか考えて無さそうな顔をしてるけど……顔に関しては俺もあんまり偉そうなことは言えない。
他人の容姿についてあれこれ言えるのなんて、最強イケメンくらいだからな……。今のはなかったことに。
とまあ、そんなことは置いといて、案の定欅宮さんと一緒に俺が入って来て、田中たちは動揺してた。
「は……? なんで宇井君が居んの……?」
「しかも、欅宮さんと一緒に入室って」
「あ? どういうことだよ、お前」
……うん。
ちょっと語弊があったかもしれない。
動揺ってより、これは憤り……?
明らかに連中から格下だと思われてる俺は、入って早々に威厳を見せることができず、三人から睨まれ、詰め寄られていた。
俺も俺で、一瞬怯んでしまう。情けない話だ。
ただ、怯んでるだけじゃ何をしに来たのかまるでわからない。
一歩前に出て、欅宮さんを庇うように、三人を睨み返した。
「簡単な話だよ。田中君たち三人に言いたいことがあって来た」
俺が言うと、爽やかスポーツヘアの田中は怪訝そうに「はぁ?」と疑問符。
「言いたいことぉ? つっても、今って生徒総会中だろ? 何、宇井君って状況把握とかもできない人?」
田中に続き、里井も言ってくる。
「言いたいこととかどうでもいいし。そもそも、一般生徒は体育館に居なきゃいけないんだけど? 宇井君、放送委員でも何でもないよね?」
里井の次は畑山だ。
「そもそも、宇井君っていっつも教室の隅で本読んでる系キャラじゃん?(笑) んなのがなんで欅宮さんと一緒にここ来ましたーみたいなツラしてるわけ? 気に食わねーんだけど」
まあ、そこは突かれるよなぁ……。
普段陰キャラでオタクな俺が何をしに来たのか。
三者三様にそんな感じの言い方だ。
「……確かに、今俺はここに居ちゃいけない。体育館もこっそり抜け出してきた」
自戒するように、若干俯きながら俺は呟く。
「だけど、それは相応の理由があるからで、その理由が何なのかって聞かれると、さっきも言ったように三人に言いたいことがあって、なおかつ欅宮さんを守るためにここへ来たんだよ」
「欅宮さんを守る?」
白々しくとぼける里井。
けど、俺はもうそんなのを相手にしない。
勢いよく続けた。
「男子三人に、欅宮さん一人の委員会構成。総会中、密室になるだろう放送室。今さらもう言い訳しても無駄だ。君ら、ここを使って欅宮さんへ乱暴しようとしてただろ?」
「「――!」」
里井と畑中の表情がピクリと動く。
田中はポーカーフェイスを貫き通してたけど、誤魔化しても意味ない。
既にこいつらが何をしようとしてたのか、俺は全部把握してるんだから。
「話は全部茶谷さんから聞いた。彼女が放送委員の動きを怪しんでて、生徒会長とも何かつながりがるんじゃないかって教えてくれたんだ」
「……おい、宇井。何訳わかんねぇこと言ってんだ?」
田中が睨み付けながら問うてくる。
俺は首を横に振った。
「訳わからないことじゃない。実際に俺は生徒会長にも話を聞きに行った。茶谷さん、放送委員のメンバーも総会が近付いてるのによくわからないって言ってたから、直接生徒会長までね。そこで、会長と話したんだよ」
「話したって……何を?」
不安そうなのが隠し切れない畑山。
俺は首をすくめ、「さぁ」と言ってみせる。
「何を話したかなんて、畑山君たちが自分の胸に聞いてみたらいいんじゃないか? さっき、その生徒会長と何かしらの作戦立てはしてたみたいだしさ」
その言葉で、ようやく田中の表情にも動きが見られた。
眉がピクリと動き、反応。
「お前、今俺たちがここで話してたこと、聞いてたのか?」
「そりゃね。そのために休憩の合間に総会抜け出してきたんだから。部屋にビデオか何かでも設置してるのか? それとも録音機? わからないけど、それを公にする準備、こっちはもう整ってるよ」
「……お前……」
「言いたいことはそれだ。欅宮さんにいつも突っかかってて、胸がどうとか、下品なこと言ってたのも知ってる。でも、もうそんなことさせない。彼女と付き合ってる身として、俺は君らと戦う気でいる。暴力でも、言葉でも、どんな形であれね」
「「「……は?」」」
三人とも、目を見開いて驚く。
そして、さっきまでポーカーフェイスを貫いてた田中が真っ先に問うてきた。
「お前、この委員長と付き合ってるのか?」
「そうだけど。何か問題でもある?」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
驚きの声を放送室内に響き渡らせる三人だった。
まあ、そんな反応になるのも無理はない。
現状、仮恋人の契約を結んでるだけなんだけどな。
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