第30話 悪くなかった気がします
茶谷さんとケーキ食べ放題の店へ行き、そこで俺たちは大いに好きなことを語り合った。
大事なことはもちろんのこと、どうでもいいことまで、本当に色々。
俺と茶谷さんは少しだけ、ほんの少しだけ、仲を深めたんじゃないかと思う。
それは、言ってしまえば、掘ることのできない穴を思った以上に掘れた時のような、そんな感覚に近いのかもしれない。
うん。とりあえず、自分でも何言ってるのかわかんなくなってきた。
でも。でもだ。
「君は本当に策士だよな」
「どういう意味です?」
「おっぱいのことしか頭にないくせに、上手くケヤちゃんに気に入られて、学内で一番いいポジションでケヤぱいを堪能してる。本当に策士だ」
「嫌な言い方するの止めてもらってもいいですかね?」
「うわぁ、出たよ。ひ●ゆき。そういうところだよな、君が君である所以。本当にせこくてズルくて詐欺師でおっぱい魔だ。変態め」
「いや、言い過ぎでしょさすがに! ただシンプルにやめてくださいって言ってるだけなんですが!?」
こういうやり取りを高頻度でするくらいには仲良くなれた。
基本的に俺はいじられる役で、茶谷さんはいじる役なんだけど……。まあ、仲良くなれないよりはいいんじゃないかと思う。
とりあえず、したい会話もできたしね。
月曜日から何をするか。
誰のところへ行き、誰と話し、どんな会話をするか。
目指すところは生徒会長だ。
生徒会長に、これから欅宮さんがどんなことをされそうになってるのか、単刀直入に話す。それで、どうなるか。
欅宮さんに攻撃しようとしてる俺のクラスメイトたちだって、事が公になる前にやらんとしてることがどれほどマズいことなのか、事前に知って、事前にやめることができれば、それが一番いい。
俺だってそうなのだ。
もちろん、欅宮さんに何かするなら、全力で止める。
それは、暴力に打って出なくてはならなくなったとしても。
だけど、そうならないなら、ならない方がいい。
暴力は出来る限り控えたい。
どんな状況であれ、だ。
そう言うと、なんか色々矛盾してるように聞こえるかもだけどさ。
――とまあ、そういうわけで、俺と茶谷さんは、予定していたデート(?)の全日程を終えた。
カラオケ行って、ケーキ食べて、会話して……。
そりゃ、有意義か有意義でないかで聞かれたら、有意義だった、と答えるつもりだ。
なんだかんだ振り返ってみれば、楽しかった。
茶谷さんは最後の最後まで俺のことを変態だのなんだのと罵ってくれてたけど(遅刻とか本人はしてるくせに)、ただ、それでも俺からすれば楽しかったのだ。
楽しいか、楽しくないかに対しては、理由なんてどうでもいい。
いつだってこれらに関してはそんなもんだ。
「じゃあ、今日はここで別れるとしよう。明日、放課後頼んだぞ」
「はい。わかってます。茶谷さんは――」
「私も行く。仕事があるが、大事なケヤちゃんのためだ。そんなことは放ってでも行く。だから、昇降口でもどこでもいい。待っててくれ」
「了解です。……その、本当に欅宮さんのこと、好きなんですね」
夕陽の中、俺が言うと、彼女は「ふっ」と鼻で笑い、
「それは君もだろう。早く付き合ってしまえ、と言いたいレベルだ」
「はっ……!?」
「あぁ、羨ましいな。今だけはケヤちゃんのおっぱいを好きにできない男子の気持ちがわかったよ。目の前に、こうして好き勝手出来る男がいれば、『自分も!』となり、強硬策に出たくなる」
「えぇ!? ちょ、き、危険思想に染まらないでくださいよ! こんな時に!」
「ふははっ。冗談だ、冗談。あまり真に受けすぎるな。弱く見えるぞ」
「はぁ……。ったく」
どこのブ●ーチネタだよ。いくら何でも少年誌に寄り過ぎてるだろ。見た目は少女漫画派っぽそうなのに。
「まあいい。そういうことだ。大切にしてやってくれ、ケヤちゃんのことは」
「いやいや……」
別に付き合ってるわけでもないし……。
そう、心の中でツッコむも、現実でそれを言うのはナンセンスだって俺にもわかってる。
このまま。このままでいいんだ。
「それじゃあな。改めて、ばいばい」
「は、はい。ば、ばい……ばい」
ぎこちなく手を振り、俺は駅の構内に消えていく茶谷さんを見送る。
角の方へ曲がり、消えた――と思いきや、そこからチラッとこちらを見て、納得したようにうんうん頷きながら、帰っていく茶谷さん。
ほんと、何から何まで『らしい』人だ。
「さてと。俺も、明日に備えて今日は早く寝ますかね」
そう、一人呟いた時だった。
スマホからLIMEのスタンプ着信が鳴る。
誰だよ……。
画面を見ると、そこには――
「えっ……?」
欅宮さんの名前があった。
どうしたんだろう。
『総会が終わったら、話したいことがあるの。来てくれる?』
話したいこと……。
話したいことってなんだ?
そう思うも、俺は間髪入れずに返した。
『わかりました』と。
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