第25話 ウザ委員長ですし

「――でね、これが小学校一年生の冬。珍しく積もるくらい雪が降ってね、お父さんと一緒に雪だるま作った時の写真」


「あぁー! これ覚えてる! この年、雪すごい降ったよね? 俺もこの時、人生初のかまくら作ろうとして、確か失敗したんだよ。雪が足りねーって」


「あははっ! そうなの? 足りなかったんだ」


「いけるかなって思ったんだよ。けど、全然ダメだった。これでも足りないのかって絶望したよね」


「あー。でも、かまくらってすごい雪の量いるんだよね。私も聞いたことはある」


「そうそう。あと、上手いこと設計しないと、中に入った途端雪に潰されてーとかもありそうだし、慎重に作らないといけないみたいでさ」


「あ、確かに確かに。ふふふっ。それで、次はね――」


 緊張の欅宮さんルーム入室からアルバム鑑賞ということで、内心ドキドキしっぱなしだったけど、蓋を開けてみたら、なんか楽しい雰囲気。


 気付けば、俺たちは写真を通して互いの昔話を語り合ったり、思い出深いエピソードなどを披露し合ってた。


「他にも、はい。こんなのもあったり」


「おぉ~。可愛い!」


 見せられた写真には、小さい欅宮さんが白のドレスに身を包み、華の髪飾りをして笑ってる姿が映し出されてた。


 素直に可愛い。どこかの国のプリンセスですか、って聞きたくなるレベル。


「これ、もちろん欅宮さんですよね? いやぁ、最高の一枚だ。たぶん、この写真を撮った人、誇ってもいいと思います。最高のショット。最高の欅宮さんだ」


「あ……え、えぇ? そう、かな……? ちなみに、この写真を撮ってくれたのは、お父さんなんだけど……」


「かぁ~っ! お父さん、いい一枚をお納めになられるっ! 今度握手したいです!」


「そ、そう……?」


「うん! どの欅宮さんも可愛いけど、これは特に可愛くて最高だ! 持って帰って、家宝にしたいレべル! 最高!」


 ――と言って、すぐ真横に座ってる欅宮さんの方を見る俺……なのだが、


「っ~……/// ほ、褒めすぎ……だよ?」


 顔を朱に染め、はにかみながら言う彼女の一撃で、すぐさま我に返った。


 何言ってんだ俺! と。


 楽しいからって、いくら何でも思ったことを口に出し過ぎだ。


「ご、ごめんっ。ちょっと俺、なんか調子に乗ってたみたいで……」


「う、ううん。謝らないで。私は……そう言ってもらえると、す、素直に嬉しい、から……」


 恥ずかしいけど。


 言った後に、小声でそう付け足す欅宮さん。


 本当に恥ずかしいんだろう。


彼女は体育座りしてるんだけど、俺からプイっと顔を逸らすかのように別の方を向いた。


 ひょっこり見える綺麗な形の耳は、すっかり赤くなってる。


 でも、事実なんだ。可愛いのは、紛れもない事実。


こんな可愛い女の子のおっぱいを好き勝手しようとしてる暴漢が複数人いることを思い出すと、怒りで目の前が赤く染まってしまう。


 許さん! 絶対に許さんぞ、放送委員内定者の男子ども! 欅宮さんのおっぱいは! いや、欅宮さんの清純は! 必ず俺が守り抜いて見せる! うぉぉぉぉおおおおおおお!


 心の中で、熱く叫ぶ俺だった。あくまでも、心の中で。


「で、でも、でもだよ? 宇井君」


「は、はいはい? 何でございましょう?」


 何か主張したいことがあるらしい。


 別の方へ向けていた顔を俺の方に戻してくれ、語り始める。


「気付いたかな? この写真たちを見てて、一つの共通点があることに」


「一つの……共通点?」


 なんだろう?


 言われて、アルバムの中の写真を見る。


 共通点……共通点…………んん?


「いや、ちょっとわかんない。何か、共通してることがあるの?」


 一つ、可愛い過ぎるって共通点なら見つけたんだが。


「たとえば、このページで映ってる私だけど、見てみて? 全部一人だよね?」


 一人……?


 確認してみる。


 んー…………?


「一人……ではなくない? お父さんとか、お母さんとか、一緒に映ってるし」


「ごめん、言い方が良くなかったね。私、同年代の子とまったく一緒に映ってないでしょ?」


「え」


 言われ、再度アルバムに目を通した。


 同年代の子たちとの写真か。


 確かにそれは……。


「……ほんと、だね。そうなると、ほとんど一人……かも」


 俺が言った途端、ズーンと空気が重くなった気がした。


 ちょっと待て。これ、気付かない方がよかった気付きなのでは!?


「でしょ? そうなんだ。私、本当に昔からお友達少なくて……」


「え、あ、いや、あの……」


「いいの。気遣ってくれなくても。だって事実だし。何なら、小学生の頃はずっとウザ委員長って言われてたし。……あへへ……」


 想像以上の闇。


 俺は何と言っていいかわからず、餌を待つコイみたいに口をパクつかせるしかない。冷や汗ダラダラだった。


「それが、中学、高校となって、今度はウザ委員長から、おっぱい委員長になったんだから、もう私、ダメだよね……。次は何になるかな……? おばさん委員長かな……? あ、でももうその歳くらいになったら、委員長もしなくていいもんね。単純なおばさんかぁ……。えへ……へへへ……」


 おぉぉ……、なんという絶望オーラ……。


 これは……もう遊園地へ行こう。


 遊園地に行って、すぐさま欅宮さんの元気を取り戻さないと。時間も時間だし。


「あ、あの……欅宮さん?」


「ん~? なに~?」


「え、えっと、そろそろ時間も時間だし、遊園地の方、行かない?」


「あ~、そうだね~。ふへへっ。でも、いいのかな~? こんなおばさんが遊園地なんて~」


「行こう。欅宮さん。何も言わず、もう早く」


「へ~?」


 虚ろな目で自虐的になる彼女を立たせてあげ、俺は玄関を出るのだった。


 どう考えても、欅宮さんはまだおばさんじゃないでしょうに。


 そんな返しができればよかったのだが、なんともしづらい。


 とにかく、移動だ移動。遊園地。

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