おっぱいが大きいことに悩んでる委員長の相談に乗り続けてたらなぜか俺の前でだけツンを消してデレ甘な天使になりました

せせら木

第1話 おっぱいについて相談したくて

「……そろそろ帰るか」


 誰もいない放課後の静かな図書室。開いている窓から入り込む心地よい初夏の風。


 俺――宇井圭太ういけいたは、そんな快適な環境の中読んでいたライトノベル【ちっぱいでも愛してくれますか?】を閉じ、帰り支度を始めた。


 時刻は十七時ちょっと過ぎくらい。


 帰りのホームルームが終わるのがだいたい十六時過ぎくらいだから、おおよそ一時間ほど一人で図書室にいたことになる。


 寂しい奴だな、とか思っただろうか? ……正解だ。


自分でも『割と寂しいやつだよな、これ』って思ってる節はあるから。そこは安心して欲しい。何に対して安心しろと? という話ではあるが。


 けどまあ、こんなのは陰キャラで、ぼっちで、クラスの中でも空気と化してる状況からしてみれば当然といえば当然だ。


 今さらそれに対して何か状況を改善する策を講じようとか、そんな大それたことは考えてないわけで、人にはそれぞれポジションがあるっていうかさ、どこか青春を諦めた自分ってのを認めちゃってる節があるのだ。


 だから、たとえ寂しい奴だと思われたって別にいい。


俺は俺で、放課後の図書室で持参してるラノベを読むって時間が好きだし、たとえキラキラ輝いた恋模様、友情模様のある青春が送れなくても構わないのだ。


「では、失礼いたす。また明日も来るぞ」


 確実に誰にも聞かれていないのを確認し、独り言を呟いて一礼してから、もぬけの殻になった図書室を後にする。


 なんか、この図書室も俺がいなくなったら寂しい雰囲気漂いまくってるだろうし、まるで自分を見てるようで同情してしまうのだ。


 故の一礼。誰かに見られてたら、絶対変人扱いされそうだけどね。


 で、すぐさま下駄箱を目指した。


 六時になれば、下駄箱周辺とか、昇降口辺りには軽い人だかりができるのだ。運動部の人たちとかの活動が終わるんだと思う。ガヤガヤしてるところの間を避けて外に出たりするの、嫌なんだよな。


 そうやって、急ぎ足になってた折のことだ。


 渡り廊下のところを歩いていると、


「ね、ねぇ……!」


 唐突に背後から声を掛けられた。


 驚き、俺は体をビクつかせて振り返る。前、日中これをして、結局呼ばれてたのは俺じゃなかったとかいう死ぬほど恥ずかしい思いも経験したけど、今回ばっかりは確実に俺が呼ばれたものだと思ったから。


「あ……」


 振り返ると、そこには俺と同じクラスに属してる二年B組のクラス委員長、欅宮秋音けやきみやあきねさんの姿があった。


 いつも通りツンツンした雰囲気が表情に現れてて、腕組みもしてる。


 腕組みするのはたぶん彼女の癖なんだろう。癖なんだろうけど……。


『ちょっとやめた方がいいんじゃなかろうか……』とも思った。


 理由は単純だ。欅宮さん、結構な感じでお胸が発達しておられるから。


 そのサイズは平均的な女子高生のものを優に超えてらっしゃっていて、思春期の男子高校生には刺激が強すぎるわけだ。


なのに、それをさらに強調するかの如く腕組みされてるわけだから、もうビッグマウンテンズ。いつかこのお山を登頂したいと願わずにはいられなくなり、同じクラスの男子たちは陰で欅宮さんのことを『おっぱい委員長』だとか、『乳女神様』とか、勝手にあだ名を付けて呼んでる。


 加えて顔も整ってるし、美少女といっても差し支えないのだが、少々ツン成分の強い性格をなさっていることから、人気もそこまで高くなく、逆に彼女のことを悪く言ってる層の方が多いくらい。


 欅宮さんを支持してる男子だって、「罵られたい」みたいな性癖をしてる人ばかりだからな。それを彼女が知ってるのかどうかはわからないけど、少なくとも俺が欅宮さんの立場であれば、あんまり嬉しくないというか、きつい言い方をすればちょっと嫌悪感を覚えてしまうのも無理はないかもしれないというか……。


 とにもかくにも、俺にはなんで彼女がこのタイミングで声を掛けてきたのかわからなかった。


 当然ながら女の子慣れしてるはずもない俺だ。気持ち悪いと思われないよう、どうにかキョドらないで平静を装いながら対面してるのだが、目だけは合わせられない。これだけは本当に無理だ。


「宇井くん、い、今下校しようとしてるところ?」


「え、あ、は、はい。図書室でキリのいいところまで本が読めたので……」


 言った瞬間に口を塞ぎかけた。


俺のアホ。どうでもいいことをわざわざ言わなくてもよかったのに……!


「そ、そうなんだ。じゃあ、今は別に急ぎの用事とかもないのかな?」


「はい。特には……」


 俺が応答すると、欅宮さんは一瞬俺から目を逸らし、視線を斜め下へ落としながら、続く言葉を言いづらそうにしてる。


 雰囲気もどことなくいつもの強気な感じってよりかはしおらしい感じだし、顔も赤く、様子が変だった。


「あ、あの……、欅宮……さん?」


「宇井くん……!」


「……! は、はい……!」


 一段と語調を強め、彼女の声音に決心の色が灯った。


 な、なんだっていうんだ……?


「あの……あのね……」


「……はい……」


「わた……わた……」


 綿……?


 なんて、ふわふわとバカなことを考えた刹那だった。


「わたっ、私のお、おっぱいについてちょっと相談したいことがあるのっ! だ、だから、話を聞いて欲しいのっ!」


 俺の頭は真っ白になった。


 色鮮やかで甘酸っぱい青春なんて諦めてたのに、ここからすべてが動き始めたんだ。

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