人と魔獣1
森に爆発音が鳴り響く。
「なんですか?!」
驚くほのかをかばうようにフライシャークが飛び立ち、警戒態勢に入る。マモも同じく警戒態勢に入った。
グランドウルフだけは、落ち着かない様子でぐるぐると同じところを歩き回り始める。
「行こう」
「え、爆発した方にってことですよね?」
「ほのかにも、知っておいてもらう必要がある」
「え……?」
森での爆発音はこの世界では別に珍しいものではない。大掛かりな爆発物など用意しなくても、人が一人いればそれだけの破壊力を持つのがこの世界だ。十中八九、戦闘が起きている。
人間同士の争いには厳しい決まりがある。こんなところで突然魔法を使った大掛かりなやりあいなど、あり得ない。
魔獣同士も、縄張りやメスを取りあえって争うことはあるが、自分たちより強い捕食者がいる森の中で、魔法を使ってこれだけ目立った衝突は避けるのが普通だ。
「異世界一日目にしては少し詰め込みすぎかもしれないけど、もうちょっと付き合ってもらおうかな」
よくわからないなりに、表情から何かを読み取ったほのかは何も言わずに着いてきた。爆発のあった地点へ急ぐには、足があったほうがいいだろう。
「サモン!」
マモの時よりも大きな魔法陣が空中に浮かびあがる。暗くなった森にしばらく光があふれた後、白い巨体が召喚に応じて現れた。
「ハク!」
嬉しそうにほのかがハクに抱きつく。ハクも目を細めて頭をこすりつける。
「ほのかはハクに乗せてもらってくれ」
「え、いいんですか?」
俺とハクを交互に窺うほのか。その目がきらきらしているのが、簡易な魔法の光しかない薄暗い森の中でも、はっきりと見えた。
ハクの方も膝を曲げて問題がないことをアピールする。
「わあ!」
「ちゃんと捕まってな、その“もふもふ”は、人間の力で引っ張ったくらいなら痛くないみたいだし」
「わかりました。ごめんね?ハク」
俺もグランドウルフへ向き合う。状況を察しているグランドウルフは早くしろと言わんばかりの表情で、背中に乗ることを促した。
「ありがとな」
俺が飛び乗ったのを確認すると、グランドウルフが大きな咆哮をあげる。あの時と同じ、森中に響き渡る大音量で。
びりびりと空気が揺れる。相手を委縮させ、味方を高揚させる効果を持つそれは、もはや一種の魔法だった。
「びっくりしました」
「今回は許してやってくれ。それから、今からもっとびっくりすることになるから、しっかりつかまって、しばらく口を開かない方がいい」
「え、どういう……わわ」
膝を曲げていたハクが起き上がり、慌ててほのかがバランスを取り直す。サポートするようにハクが身体を揺すり、落ち着いたところでもう一度ほのかを見る。
しっかりと口を閉じてコクコク頷いていた。
「それじゃあ、行こうか」
声をかけた次の瞬間、景色が勢いをつけて流れ始めた。
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