デバガメッ!~100日以内にクラスでカップリング成立させないと死ぬってマジ!?~
仏座ななくさ
第1話:突然襲い掛かる現実は不条理である
キーンコーン カーンコーン
チャイムの音と共に俺は小さく欠伸をする。
ファンダリウム魔法学校の3年に上がってすぐ。始業式はいつも憂鬱だ。
ほとんど授業に参加しない俺も、この日ばかりは出席しないといけない。
「お、ウィルじゃねえか。お前が学校いるなんて珍しいな」
「うっせ。今期の課題もらったら直ぐに帰るっての」
ライオットがけたりと笑ってこちらの肩に置いた手を、そっけなく跳ねのける。
それを見た双子の妹のカチェルが、アニキふられてやんの~と調子よく笑った。このクラスでも指折りのムードメーカー二人。
「でもお前がいるなんて珍しいじゃん。折角だし放課後一緒にダンジョン行こうぜ!ノエルも誘えばバランスいいじゃん」
お断りだ。
ライオットの面倒見の良さは認めてやらんでもないが、ダンジョンなんて一人でだって行ける。小遣い稼ぎなら確かにチームを組んで潜った方が成果も上がるが、学校が出している課題のクリアくらいならそれで十分だ。そも、俺は一人でいたい。
しっしと追い払うように手を振れば、それよりも後方で深々とした溜息が聞こえた。
「全く…ウィル殿は久方の登校だというのに。そうも貴殿が絡んでいては、いらぬ心労をかけるのでは?」
「んだとこらぁ!?喧嘩売ってんのかタクミ!」
応、その通りその通り。あんまこっちに声かけねえでいいから。
それはそれとして、喧嘩おっぱじめんのもやめてくれ。うるさい。煩わしい。
何が悲しくて目の前で小競り合いをはじめてしまうのか。やるならここじゃなくてダンジョンでやれ。競技場でもいいけどとにかく俺のいないところで。
じっとりとした目をタクミと同じ黒髪の女性に向ければ、不思議そうにぱちくりと瞳を瞬かせてから、にっこりと微笑みを返された。
「いや、笑ってねえで、こいつら止めろよ」
すでにカチェルは間に入ろうとしているが、ヒートアップを始めるあの二人を止めるにはやや力不足だ。
エリオットなど今にも自らの髪と同じ色をした紅の剣を手のひらに生成させそうだし、それに応じるようにタクミも腰に携えている刀へと手を添えている。教室の隅にいる女子もおろおろとし、教室内も騒ぎ出した。
教室内での戦闘はご法度だろ。やるならダンジョンでやってくれ。俺の座席から3メートルと離れていないところでおっぱじめるな。
「……ああ!」
そしてこちらはこちらで反応が遅いな。こちらの視線から1テンポ遅れてようやくポンと手を叩いてから、艶のある黒髪を揺らした少女。そのままにらみ合っている二人の片割れへと声をかける。
「タクミ、駄目ですよ。もうすぐ先生がいらっしゃいますから、席に着かなくては」
いやそうじゃない、ポイントはそこじゃねえがもういいや。実際タクミも気が付いたように闘気を抑えて深々と黒髪の少女に礼をした。
「申し訳ございません、アサカ様。いらぬお手間をお掛けしてしまいました」
「いいえ、気になさることはありませんよ」
「いや気にしろよ」
相変らず天然だなこのアサカお嬢様は。そしてお嬢様の言うことには忠実なタクミは、さっさと席へと着いた。ようやく妹の制止が効いたライオットも、どうやら剣を納めたようだ。
「おいおいおい、うちの教室から魔力の波長が感じられたが大丈夫かー?うっかり天井とか焦がしてねえだろうな。教室の喧嘩はばれないようにやってくれよぉ」
暢気な声をあげて、うちの担任が扉を開けた。
◆ ◇ ◆
「さって、もうお前らも3回目となったから分かるだろうが、うちの学園の呪術科は毎年このタイミングで課題をお前らに与えることになる」
飄々とした調子の担任が小脇に抱えているのは、小さい子供なら丸ごとすっぽり収まりそうな大きさの壺。
禍々しいデザインと歪なオーラすら見えるそれは、何も知らぬ者が見てしまえば容易に"中てられて"しまうだろう。
とはいえそれを見てクラスの奴らが戸惑うことはない。何せこの壺を見るのはこれで3回目。毎年このクラスで見ているのだから。
かつて伝説の呪術師がその命を代償に生み出したという壺は、その中に手を入れたヒトに対して尤も忌まわしい呪いを与えるとされる。
……まあ、この壺はその伝承を元に作られたレプリカだが。
空洞に手を入れた生徒一人一人に異なった呪いを与える壺。
生徒たちは自身に掛けられた呪いについての解呪方法を把握し、条件を満たして達成する。
それがこの呪術科に与えられた年間課題で、それを熟せなければ進級出来ない訳だ。
とはいえ呪いとは言ってもそう悍ましきものではない。精々が呪いが解けないと髪が抜けるとか、一定の条件下で泣き虫になるとか、そういったささやかなものだ。
「んじゃ、出席番号順に前でて壺に手ぇつっこめ~。今月中に最低限、呪いの種類だけは把握しろよ?」
担任が順に名前を呼んでいく。1人ずつ前に出て壺に手を入れていく。
直ぐに呪いの種類を把握したのか、席に戻る道中に級友に雑談ついでに報告する者。まだ把握しきれていないのか、難しそうな顔で首を傾げながら戻る者。
呪術科一の秀才であるセリエなどは、呪いを直ぐに理解したのかその場で解呪をしてしまうなど、千差万別の反応だ。
「んじゃ最後はウィルだな」
「せめてフルネームで呼べよ」
「え~…んじゃあウィリアム。ウィリアム=シックネス」
ようやく俺の名前が呼ばれ、壺へと近づく。手を差し込めばぞわりと背筋を冷たいものが過る感覚。
何度この課題を受けても──呪いを受けてもこの感覚になれる気がしない。
手を引き抜いて一度息を吐きだす。自身に宿された呪いを探るように神経を集中させるように張り巡らせた糸。
そこに引っかかった感覚を言語化したところで、最初に浮かんだのは違和感。次いで勘違いかという疑問。
けれどもそれが事実だと理解したところで、ぎゅっと眉間に皺が寄った。
「よぉーし、んじゃこれで全員呪いを受け取ったな?そしたら各自その解決を目指「待て待て待てってのこの不良教師!!」
役目は終わったとばかりに壺を持って教室を出ていこうとした担任の首根っこを引っ掴む。
ぐえっとか呻き声が聞こえたが知ったこっちゃない。こっちだって必死だ!
「うぇ……何だよウィル。お前もちゃんと課題受け取ったろ。2年の時のうっかりとは違って」
「あん時はあん時で完全に存在忘れられてたがな!!……いやそうじゃない。そうじゃなくて」
普段教室内でほとんど目立つ行動をしていない俺の突飛な動きに、クラスもざわつきを見せている。視線を向けられたり、ひそひそと囁き声も聞こえているが、なりふりなんて構っていられない。
自身の胸に手を当てて、全力で抗議をした。
「今受けた俺の呪い!!どう診ても最悪死ぬやつなんだが!?!?」
「………」
その言葉で降りる沈黙。無言で担任が俺へと手を翳す。感知魔法を発動したのだ。
今俺に掛けられた呪いのタイムリミットは僅か100日。
達成できなかった場合は──── 死ぬ。
明らかに学校の課題として架せられるよりも重いリミットに、目の前の担任が神妙な顔になった。
「………。………え?なんで?」
「俺が聞きたいわ!!!!!!!!!」
怒鳴り声が、教室内に響き渡った。
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