第42話 傭兵団VS『使役』③

 魔の森の遥か上空。

 リーフの固有スキル『転移』により強制転移させられたブルーノは、地面に落下しながら感心した表情を浮かべていた。


「ふぅむ……敵ながら、中々、やりおるわい。少し、敵を侮り過ぎていたかのぅ……うん? あれは……」


 落下中、魔の森に視線を向けると、森の中心部に向かって走る人間の集団が目に入る。

 魔の森の中心部に向かって走っているのは、傭兵団の団員たち。

 そのことに気付いたブルーノは目を大きく見開かせる。


「――こりゃあ、いかん。殺り漏れがあったか……このままでは、婆さんに怒られてしまう」


 朱雀を倒し、ブルーノの攻撃を掻い潜り逃げ延びた団員たち。

 ノアとイデアに迫る脅威を認識したブルーノは、『ストレージ』から金色の手斧を取り出すと、魔石に魔力を込める。


(……少し雑になるが仕方ないのぅ)


 そして、その手斧を振りかぶると、拠点のある森の中心部に向かって思い切り投げ付けた。


『グォオオオオッ――!!』


 ブルーノが投げた手斧は、黄金の軌跡を描くと黄龍へと姿を変え、森の中心部に向かっていく。


(――これでよし。森の中心部には、青龍と玄武を配置してある。そこに黄龍が加われば、護りは万全……いや、そうとも言えぬか……?)


 敵は中々、強かだった。

 現に朱雀は倒され、攻撃を掻い潜り、手札を補うため白虎をこの場所に連れて来てしまっている。とはいえ……


「まあ、大丈夫じゃろ……婆さんはワシより強いからのぅ」


『読心』の魔女・イデアは、その名の通り人の思考を……心を読むスキルを持っている。

 イデアのスキルは、一定範囲内にいる生物の心を声として聞くことができるスキル。そのため、不意打ちは通じず、全属性魔法が使えることから、どんな困難な場面においても対応可能。そこに、黄龍を初めとした四聖獣が加われば、万全。

 敵に到達者クラスの人間がいない限り遅れを取ることはない。


(――むしろ、連中はワシが相手で良かったと喜ぶかもしれんな……さて、そろそろ地上か……)


 下に視線を向けると、ミギーたちが笑みを浮かべているのが見える。

 大方、ブルーノが落下死すると幻想しているのだろう。

 15mの高さから落下して生き残る確率は50%。30m以上の高さから落下すれば、まず助からない。


 ブルーノが『転移』させられたのは上空300m。

 この高さであれば、数秒の内に地面に激突し、大抵の者がこの世を去ることになる。

 しかし、ブルーノは到達者。この世に存在する人種の頂点に近い個体。

 通常、落ちて助からない高さでも、到達者であれば、その類稀なるステータスをもって無事に着地することができる。


 だが、落下による衝撃すべてを相殺することは到達者であったとしてもできることではない。骨は軋み、筋線維は断裂。内臓にも少なからずダメージが入る。


「――白虎よ。ワシの下に来い」


 だからこそ、ブルーノは声を上げ、白虎を呼び出すことにした。


『グァロォオオオオゥ――!』


 ブルーノの声を聞き、咆哮を上げる白虎。


「――と、止めろぉぉぉぉ! ぎゃああああっ!?」

「――絶対に行かせるなっ! 絶対に……絶対にだっ! ぐああああっ!!」


 助けに入ろうとする白虎を止めるため、団員たちが前に立ち塞がるも、それをもろともせず薙ぎ払い、落下するブルーノの下に駆け付ける。

 そして、ブルーノが落下による衝撃を受けぬよう落下速度に合わせ、背に乗せた。

 ブルーノは『グルゥ』と鳴く白虎の頭を撫でると、下で驚愕といった顔を浮かべる団員たちに視線を向ける。


「さて、白虎よ。折角じゃ、お主の力を奴等に見せてやれ――」


 着地すると共に白虎の背から飛び降りそう投げかけると、白虎の目が金色から水色へと変化する。

 そして、爪で大地を掴むと、思い切り跳躍し団員たちに襲いかかった。


「う、うわぁぁぁぁ!」

「嫌だ……嫌だぁぁぁぁ!!」

「ぎゃああああっ!」

「助け……誰か助けて……!?」


 白虎が団員たちに襲いかかり数秒で響き渡る悲鳴の数々。

 例え、ミギーに『ライフ』を与えられ蘇るとしても、傷を負えば痛いし、死ぬのは苦しい。


「そ、そんな……これほどまでとは……」


 白虎の猛攻に抗うことすらできず地面の染みになっていく団員たちを前に呆然と立ち尽くすガリア。そんなガリアたちの前にブルーノが再び降り立った。


「……流石は『使役』といった所か。強い強い。ダグラス傭兵団がこうも簡単に半壊状態に陥るとは思いもしなかった。さて、リーフ。君のスキルで『使役』を殺すことはできそうか?」


 ミギーの問いに、リーフは冷や汗を流しながら答える。


「――それは、流石に難しいかなぁ……なんて……」


 自信なさ気なリーフの言葉にミギーはヤレヤレと首を振る。

 当然だ。リーフの持つ固有スキルで攻撃に転用できるスキルは『転移』をおいて他にない。300m上空から落とし無傷でいられるような化け物に対する攻撃方法を持ち合わせていない。


「……話は終わりかの? それで、どうする? ワシを前にして尻尾巻いて逃げて見るか?」

「――見逃してくれるなら魅力的なお誘いだがね。そんな気はさらさらないのだろう? これでも俺はミギー傭兵団の団長なんだ。部下を率いている以上、そんな無様な真似はできないな……」


 それに魔の森では、ノアを人質に取るため団員たちが奔走中。

 団長であるミギーがこんな所で諦める訳にはいかない。


「ほう。ならばどうする……?」


 ミギーは横目でガリアとリーフに視線を向けると深い笑みを浮かべる。


「……そうだな。ここには俺を含め準到達者が三人もいることだし、俺の団員たちが目的を遂げるまでの間、もう少しだけ俺たちと遊んでいて貰おうかぁ!」


 ミギーがそう声を荒げると、ガリアとリーフの体が硬直したかのように動かなくなる。そして、体が動かないことに気付いた二人は驚愕の表情を浮かべた。

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