第36話 鍛練の裏側で……②
スキルを移すため、ポケットから『同化のピアス』を取り出すと、ダグラスは笑いながら首輪に付けられた鎖を引く。
「――うっ⁉︎」
苦しそうに両手で隷属の首輪を掴むレジーナ。
ダグラスはレジーナの手を取ると、『同化のピアス』を握らせる。
「……さあ、さあさあさあっ! その『同化のピアス』にお前の全ステータス値と今、賜ったばかりの固有スキル『同族殺し』を付与しろ!」
『同化のピアス』それはステータス値やスキルを簒奪することを前提に作られた『付与』のスキル保持者専用アイテム。
『付与』のスキル保持者が『同化のピアス』にステータス値とスキルを移し、他の者がそれを身に着ければ、誰でも容易に付与されたスキルを使うことができるようになる。
ダグラスの命令を受け、隷属の首輪に光が帯びる。
「――う、ううっ、イヤッ……イヤァァァァ!」
ステータス値とスキルを『同化のピアス』に移せば、どうなるか……
ダグラスの邪な視線からそれを悟ったレジーナは震え泣きながら声を上げた。
(――なんで、なんで私がこんな目に……なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのっ!? 私は……私はただ十歳の頃、『付与』のスキルを授かっただけじゃない――!)
レジーナの心に宿る憎悪の炎。
自分にこんなスキルを与えた神を呪い、自分を利用しようとするすべての人に心の中で怨嗟の言葉を投げかける。
「(――許さない。絶対に許さないっ! 私は呪う。呪うわ。神を……私を苦しめるすべての者を……そして、私からすべてを奪い、笑みを浮かべる。この異常者をっ……! 絶対に呪ってや……る……)――ァァァァ……」
自分のすべてが奪われる。それを悟った瞬間、レジーナの心に宿った怨嗟の炎。
ステータス値やスキルが移動すると共に、レジーナの瞳から光が消えていく。
しかし、レジーナが生前宿した怨嗟の炎は消えることなくステータス値、そして、スキルと共に『同化のピアス』へ移動した。
「――これが『同族殺し』……『同族殺し』のスキルが宿った……」
レジーナの手から『同化のピアス』を奪い取ると、ダグラスはステンドグラスから差し込んでくる光にそれを当てる。
「ふはっ! ふははははっ! やった! やったぞっ! このスキルさえあれば俺は最強だっ!」
胸の鼓動が高鳴る。高揚が止まらない。
(――折角だ。こいつを殺すことでスキルの効果を試して見るとしよう。これが俺の知る『同族殺し』であれば、スキルの効果は……)
『同化のピアス』を左耳に着けたダグラスは、鎖を引きレジーナを手繰り寄せる。
そして、首輪を掴みレジーナを立ち上がらせ顔を覗き込むと、つまらなそうな表情を浮かべた。
「――ふむ? ……興覚めもいい所だな。死んでいるじゃないか。しかし、どういうことだ? ステータス値やスキルを付与しただけでは、そんな……まあいい」
ダグラスはレジーナの死体を床に放ると、ガリアに視線を向ける。
「――ガリア。村人はこの教会の地下に収容されているんだったな?」
「はい。もしや……団長自ら引導を渡すおつもりで?」
『同族殺し』が付与された『同化のピアス』を左指で撫でると、ダグラスは深い笑みを浮かべる。
「――どの道処分する予定だった。それが遅いか早いかの違いだ。俺はこれから地下に潜る。お前はこの村に残っている傭兵を引き連れ、ミギーを追え……『使役』を倒し捕縛するにしても人手が必要だろうからな……」
ミギーの持つスキルの一つに『形状不変化』がある。
スキルの発動中、ミギーを中心に半径20km以内の物の形状を封じる嫌がらせのようなスキルだが、斧を魔物に変え『使役』するドワーフには絶大な効果を及ぼす。
「はい。かしこまりました……」
「よろしい。それでは、俺も地下に向かうとしよう」
『同族殺し』は自ら殺意を持って同族を殺さぬことには発動しないスキル。
(――確か、村人は百人前後いたな……)
地下へと続く扉を開くと、ダグラスは笑みを浮かべたまま、一歩一歩階段を降りていく。
その日、教会の地下で人の悲鳴が木霊した。
◇◆◇
まるで侵入を阻むかのように張り巡らされた黒く禍々しい檻。
魔の森をスッポリ覆うお椀を反転させたかのような檻を見て、ミギー傭兵団の団長・ミギーはポカンとした表情を浮かべる。
「こいつは凄い。こりゃあ、中々、厄介そうだ……(――遠目からじゃわからないこともあるもんだ……これが報告にあった『使役』の作り出した檻。確か、『魔戦斧・666』だったか? おぞましいね。なんというおぞましさだ……格子縞状に張り巡らされた構造物。まるで悪魔が重なり合うように作られているじゃあないか……)確かにこれはダグラスのスキルじゃ荷が重い。檻に張り巡らされた悪魔。中に入り込んだ瞬間、実体化しそうな勢いだ。しかーし、この俺様がいればもう大丈夫……『形状不変化』」
ミギーが檻に近付き手を触れると、まるで時が止まったかのように木々の動きが制止する。
「――『形状不変化』は物の形状を不変にするスキル。風が木を揺らそうとも木の形状は不変。このスキルを使っている間、『使役』の奴は斧を魔物に変えることはできない。当然、この檻を悪魔に変えることもなぁ……さあ、野郎共っ! 『使役』と『読心』を打倒し捕縛しろぉぉぉぉ!」
「「「おおおおっ!!!!」」」
ミギーは檻に触れたままそう言うと、魔の森へ傭兵団を送り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます