第25話 夢の世界での鍛練④
『読心』の力でノアの思考を読み取ると、イデアは笑みを浮かべる。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……そうくるかい(――まさか爺さんの『魔戦斧・666』にステータス値を付与するとはねぇ……二十分以上もなにをやっているかと思えば、中々、面白いことをしてくれるじゃないか)」
スキル『リセット』と『付与』を繰り返し、『魔戦斧・666』を強化すれば、召喚される悪魔は格段に強くなる。
それこそ、666体の到達者クラスの力を持つ悪魔を
「……しかし、そんなに上手く行くもんかねぇ?」
勝ちたい一心で忘れているようだが、これはあくまでルールのある鍛練『オーガごっこ』。ノアに残された時間は残り五分もない。
(――残り五分では、いくらノアが強くても……うん? あれは……)
ノアが手に持つのは、ブルーノの最高傑作の一つ『魔戦斧・666』。
魔戦斧はノアの手から離れると、そのまま地面に沈んでいく。
(なんだい? 一体なにを……)
「……っ⁉︎」
その瞬間、数百メートルに渡って足元が黒く染まり、地面から現れた巨大な顎がイデアを飲み込んだ。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ、そういうことかい……!(――インテリジェンス・ウェポン化は、ノアの専売だったねぇ……まさか、私を飲み込むほど巨大な悪魔を召喚するとは……)
悪魔とは、いわば思念を持った闇属性の魔力の塊。
そして、その姿は変幻自在。
ノアはイデアを飲み込むほどデカい口を持った悪魔を召喚し、イデアの足下から喰らい付かせた。
イデアは今、悪魔の体の中にいる。
「(――しかし、まだまだ詰めが甘い……)スキルの使い方を覚えたばかりのひよっこに負ける道理はないよ……!」
イデアは杖を握り水平にして前に突き出すと、ただ一言『聖域』と呟いた。
その瞬間、イデアを中心に眩い光が溢れ、イデアを押し潰そうとしていた悪魔の内蔵に光の刃が突き刺さる。
イデアを飲み込んだ悪魔は、内臓を収縮し、イデアを押し潰そうと力を入れるが、悪魔の体は闇属性の魔力の塊。『聖域』に触れた瞬間、闇属性の魔力は霧散し、逆に悪魔の体を蝕んでいく。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……。さて、ノアよ。このままだと、時間切れになってしまうよ?」
この『聖域』がある以上、膠着状態は続く。
『オーガごっこ』が終わるまで、もう五分を切った。
(……さあ、どうする?)
巻き返せないようであれば、これでノアのターンは終わる。
(――できることなら、真・黒龍丸をうち破ることで爺さんを驚かせたように、私のことも驚かせて欲しいものだねぇ……)
打てば響く器。
それでこそ、育て甲斐があるというものだ。
『……それじゃあ、行きます!』
「――むっ!?」
悪魔に飲み込まれてから聞こえてこなかったノアの心の声。
突然、流れ込んできたノアの心の声にイデアは身構える。
(……どこから仕掛けてくるつもりだい?)
すると、イデアを飲み込んでいた悪魔の体がボロボロと崩れ落ちる。
その瞬間、周囲が熱気に覆われた。
「――ふえっ、ふえっ、ふえっ……そういうことかいっ……!」
イデアを取り囲むように燃え盛る炎。
そして、上下左右イデアを囲むように展開された到達者クラスのステータスを誇る悪魔の軍勢。
悪魔に飲まれてから聞こえてこなかった心の声。周囲に展開された悪魔。そして、ノアが手にしている戦斧・灰燼丸を見てイデアはすべてを悟る。
「まさか、私の『読心』を封じてくるとはねぇ……」
『聖域』を解くと、イデアは楽しそうに笑った。
◇◆◇
『オーガごっこ』終了まで残り五分。
ノアはインテリジェンス・ウェポン化した魔戦斧・666を手に持ち目を閉じる。
イデアは言った。『ノアのスキルを十全に活かせる方法で私を捕まえてみな』と……
イデアの力は強大だ。
到達者として裏打ちされた自信と経験、スキルの習熟度。そして、読心のスキル。
そのすべてがノアを上回っている。
しかし、二点だけイデアを上回る力をノアは持っている。
一つ目は、『付与』そして『リセット』によるステータスの無限付与。
二つ目は、武器のインテリジェンス・ウェポン化。
ステータスを付与することでしか、インテリジェンス・ウェポン化することのできないこの手段は、ステータス値を無限に付与することのできるノア以外には、できないことだ。
そして、インテリジェンス・ウェポン化した戦斧を持ったことでわかった事がもう一つ。インテリジェンス・ウェポン化した戦斧は、意思を持つ。
(――すごい。これが、インテリジェンス・ウェポン化した『魔戦斧・666』の本当の力……単純に666体の悪魔を召喚するだけじゃなかったんだ……それにこんな力まで……これなら……)
魔力を込めることで『魔戦斧・666』の本質的な使い方を理解したノアは、魔戦斧の柄から手を放した。
魔戦斧は、地面に吸い込まれるように消えると、イデアの足元を中心に黒く染まり、地面から現れた巨大な顎が現れる。
その顎は、イデアを飲み込むと収縮し、急激に体積を縮めていく。
インテリジェンス・ウェポン化した『魔戦斧・666』の力は二つ。
一つ目は、1体から666体の悪魔を召喚する力。
召喚する悪魔は、召喚する数が少なければ少ないほど強力な悪魔を召喚できる。
二つ目は、悪魔の体内に取り込んだ者のスキルを封じる力。
封じる事ができるのはあくまでスキルのみ。そのため、魔法そのものを封じる事はできない。しかし、今はそれで十分。
「それじゃあ、行きます!」
イデアを飲み込んだ球体状の悪魔。
その周りを囲う様に悪魔を配置すると、灰燼丸に魔力を流し、イデアを迎え撃つための準備を始めた。
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