第18話 第三の鍛練②
『――GRU! GUGYAAAAAAA‼︎』
ノアの振り下ろした戦斧が尻尾を両断すると、黒龍は咆哮を上げた。
両断された尻尾は溶けるように霧散し、尻尾を切り落とされた黒龍は森の中でのたうち回るように暴れ始める。
「おおっ、ノアの奴、やりおった!」
ブルーノの想定を上回る黒龍との戦闘。
黒龍のブレスを無傷で乗り切り、尻尾を両断したことにブルーノは感嘆の声を上げる。
(……うーむ。ノアのステータス値の高さを見込んで黒龍を召喚したが、まだまだ余裕がありそうじゃのぅ。流石はノア……ワシの想像を易々と超えてくるわぃ。末恐ろしいのぅ)
身を捩らせ暴れる黒龍に容赦のない斬撃を繰り返すノア。
(ノアが手に持つ戦斧の秘密に気付く前に戦いを止めた方が良さそうじゃ……)
黒龍の圧倒的なまでの劣勢。
このままでは、ブルーノが再度、鍛え上げた戦斧。真・黒龍丸が破壊されてしまう。
「くらえぇぇぇぇ!」
そう声を上げて、ブルーノの最高傑作である灰塵丸を振るうノア。
その先では、胴体を輪切りにされ、ブレスを吐き散らし、のたうち回る黒龍がいた。
首に狙いを付け、戦斧を振り下ろそうとした途端、黒龍の目がギラリと光る。
(まあそれは……ノアが黒龍最後の足掻きに耐えたらに限るがのぅ)
黒龍はその動きをピタリと止めると、その身に赤黒いオーラを纏わせる。
そして、角に紫電の光が帯びると、その瞬間、雷撃がノアを襲った。
「――ギャッ⁉︎」
ノアの体を貫く紫電の光。
雷撃を受けたノアは、体を動かすこともできず黒龍の前に倒れる。
(い、一体、なにが……体が痛い。痺れて動けない……)
ステータス値の高さ故に気を失わずに済んだのだろう。ノアにはもう戦う余力は残されていない。
勝負は決した。そう判断したブルーノは立ち上がる。
(流石のノアも雷撃を身に受けるのは初めてのようじゃの。アレを初見で避けるのは不可能じゃ……どれ、そろそろ戦いを止めてやるか)
「鍛練はこれで終了じゃ。ノアよ。よく頑張ったな……」
そう声をかけようとしてブルーノは絶句する。
雷撃を受け満身創痍だったはずのノア。
そのノアが立ち上がり、黒龍相手に戦斧の刃先を向けていることにブルーノは目を見開いて驚いた。
◇◆◇
黒龍の電撃を浴び、地に臥しながらもノアは考える。
なにか、この絶望的な状況を打開する術はないものかと……。
(考えろ、考えるんだ……ブルーノさんが言ったことを思い出せ……!)
ブルーノはこれを鍛練だと言った。
鍛練とは、技術や心身を鍛えることを指す言葉。
(――今、俺はなにをしている。この鍛練の意味は何だっ!?)
既にブルーノの頭の中には、鍛練のたの字もない。しかし、そのことを知らないノアは必至になって考える。
(ブルーノさんは、出来もしない試練は与えない。どこかに必ず解答が用意されているはず……俺はなにを見落としてる? どうすれば、この危機から脱することができる⁉︎)
ノアが倒れている間に受けた傷を治していく黒龍。
黒龍はノアに視線を向けると『GRU……!』と軽く唸り声を上げた。
「……っ!」
ノアには、その黒龍の声が『傷が癒えたら覚えていろよ』と、そう言っているように感じた。
そうこうしている内に、黒龍はどんどん傷を癒していく。
時間がないと焦るノア。
(――ブルーノさんだったら、この危機的状況をどう……あっ⁉︎)
そこまで考え、ノアは思い出す。
今、手に握っている斧がなんなのか……どこで見て、どこで拾ったものなのかを……。
(……銀色に輝くこの戦斧は、ブルーノさんが担いでいた戦斧。そして、黒龍に姿を変えたあの戦斧も同じブルーノさんが鍛え上げた戦斧だ。ブルーノさんは魔力を込めることで黒龍を召喚した。と、いうことは、この戦斧にも同様の力が込められている……考えて見ればそうだ。あんな所にブルーノさんが戦斧を置くはずない。黒龍を攻略するために用意したもの。そう考えるとすべての辻褄が合う)
実際には、ブルーノが薪割り用の斧が壊してしまったため、灰塵丸を代用し、切り株に刺しっぱなしにしてしまっただけで、稽古に使うため用意しておいたものではない。
しかし、そんなことはノアにはわからない。
ノアはブルーノのうっかりを深読みし、打開策を考える。
(……黒龍が雷撃を放つことはブルーノさんも知っていたはず。と、いうことは、この状態異常を治す策もブルーノさんは思い付いていたはずだ。状態異常を無くすためにはどうしたら……うん? 状態異常をなくす? 状態異常を無くす? 状態異常をリセットする⁉︎)
『リセット』のスキルは、自身のステータスを初期化するスキル。
(――えっ? そんなことできるの⁇)
そんなことを思いつつ、ステータスを『リセット』するノア。
その瞬間、体が急に軽くなる。痺れもないし、不思議なことに体力まで回復している。
「……知らなかった。リセットには、こんな使い方もあったんだ(――ブルーノさん。そういうことだったんですね……)」
鍛練開始前にブルーノは言っていた。『三つの鍛練を乗り越え、己が力を魅せて見せよ』と……。
(恐怖を乗り越え、起こり得る未来を予測し、己がスキルを見極める。三つの鍛練には、こういう意味が込められていたんだ……)
ノアは戦斧を杖代わりに立ち上がる。
そして、黒龍に対峙すると、刃先を真正面に向け戦斧に魔力を流した。
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