第101話 恐怖の慟哭

 自由落下する異形のうちの1体に近付く。

 こちらを体の中に飲み込もうとしてか、四肢を大の字に広げている。


「させる訳無いでしょう」

 勿論飲み込まれるどころか触れさせるつもりも無い。


 左手に持つ短剣『変幻自在』を伸ばし、刃を首にめがけて振りかぶる。刃は細くしなって異形の首を2つに切り裂いた。


「うん、鞭みたいにも使えるね」

 細くしてから手首のスナップを使って振ればかなり切れ味が維持できそうだ。あんまり鞭使ったことはないけど。それより……


 怯むことなく降下しながらこちらに近付く異形の姿があった。やはり首を落とした程度では死なないらしい。


「ならまだまだ……」


 次は右腕と右脚に相当する部分に向けて刃を振りかぶる。首の他に両腕と両脚を落とせば無力化出来ると聞いたため、ここを重点的に狙う。


「――――!」

「よし」


 今度は刃を普通の刃物の様にして縦に振りかぶる。すると、脚の部分が横に出ていたこともあり同時に切り落とすことが出来た。


「それにしても奇妙ねこれ……」


 何が奇妙かというと、切り落とした時に何も飛び散らないのだ。人を切れば当然血などが出るのだから、この現象には違和感を覚えざるを得ない。


「まあそもそもこれ肉じゃないしそうなるのも当然だよね。断面も外皮と何ら変わりないし」

 人の断面に見えるはずの骨、血管、筋肉とかが見えることもなく、ベージュ1色なんだもの。


 切り落とした頭や腕などが霧散して消滅した所から目を逸らしつつ、左腕と左脚の残った胴体に目をやる。


「じゃあ、とっとと倒そうか」


 再び『変幻自在』の刃を伸ばして、右の時と同じように切り落とす。それにより、頭と四肢のない胴体の形をしたベージュ色の塊が残る。


「こうすれば掴んで引きずり込まれることも無いってことね」

 これなら近付いても問題ない……おっと!


 100m落ち続けたようで胴体が床に激突して跳ね上がった。勿論私は激突する前に止まった。


 それにしても自由落下するにしては時間かかってたし、もしかしたら向こうも飛んでた? 私は《自由飛翔》使ってたから気付かなかったのかも。


 胴体は2回跳ねた後動かなくなったが、消えてはいないらしい。六天の構成素材に似ていると思ったので試しに近くに寄ってみる。

 しばらく観察してみたが詳しくは分からなかったので倒すことにした。しかし、そのために『変幻自在』の刃を突き立てたが、刃は全く入ることは無かった。


「ん、なんで?」

 腕とかは普通に落とせたのに……。なら、こっちかな?


 右手に持っていた短剣『極悪非道』の方を見る。『変幻自在』の方はあくまで物理攻撃なので、闇属性攻撃が出来るこれなら何か変わるだろうと考えた。

 試しに闇を纏わせてみると、黒い刃の周りが更に真っ黒な霧で覆われた。刃は普通の金属だったので光を反射していたが、これは一切の光を反射していないようだった。


「これなら……!」

「――――!」


 もう一度刺してみると、今度は普通に刃がめり込んでいった。それと共に形容し難い音が発される。

 少し経つと胴体も消滅したので、これで倒せたらしい。


「それにしても、頭が無いのに声は出るってどうなってるんだろう」

 中身は人では無いって結論着いたし、今更か。

 さて、残り9体かな? 全部殺っちゃおうか。


 次の個体に向かって《自由飛翔》で加速して接近していった。




「よっ、ほっ……と!」


 今は最後の10体目を相手している。ただ左手以外は落としていないが。


「それっ!」


 異形右腕で私を引きずり込もうとしている所に合わせ、左手の『変幻自在』で右腕を半分程切り落とす。

 そして、闇を纏わせた『極悪非道』で心臓を狙う。


「――――!」


 今度は全身で包まれそうになるが、《無形の瘴霧》で横に逃れる。


「さて、これでよし」

 途中から面倒になって頭と四肢は落とさずに相手をしてたけど、特に問題なかったね。前も落とさずに相手出来てたし、安全を取るなら落とした方が良さそうだ。


「――――――!」


 異形を全滅させたところで、再び六天から音が響き沸騰し始める。今度は溢れ出た泡沫が集まると、テトラポッドのような形になり六天の周りに浮遊し始めた。

 少し経つと、中心は眼球のような見た目に、周りの4本の柱はメガホンのような穴の空いた円錐型になる。


「なるほど、あれが『恐怖』ね……」

 前もって掲示板で確認した通りの見た目だね。《鑑定》はしなくても『慟哭-ufssps』というのは分かってる。

 確か叫び声と霧が出るはずだ、だから耳を塞いで……。


 10体現れたテトラポッドを見て1度耳を塞いで音に備える。

 中心にある眼球の瞳が少し大きくなって全体が震える。そうして、叫び声のようなとてつもなく大きい音が轟く。


「っ…………づあっ……」


 距離をとった上に耳を塞いでいたが、あまりの音の大きさで耳が酷く痛み始め、すぐに耳鳴りがし始める。


「や、止んだ……? って、えっ」


 音が止んだようで手を耳から離す。だが、ふと手を見ると血が付着していた。


 ああ、これは鼓膜破れたかな。でも腕とか脚が無くなるよりはまだマシか。

 再生薬はまだ使わないで良いかな、このまま戦えるなら温存しておいた方がよさそうだ。耳は聞こえてなさそうだけど、これ相手なら聞こえない方が良いかもしれない。


「さて、HPだけ回復して……よし」


 HP回復薬を飲んで、テトラポッドの群れに向かって飛び立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る