第30話すれ違い会話の難解さに先人たちの偉大さを理解する回
母さん……僕はもう、死にたくなっているわけで……
ショッピングでの失敗の後、サーナ様はいっさい! 俺の方を見てくれなくなりました。
完全に上の空で、お怒りのようです……
その後のお店でも、失敗を取り戻そうと話しかけようものなら明らかに距離を取られ、怒りのために耳まで真っ赤になられてしまう。
あまりの状態に、ライオネンとシンサールにもそれくらいにしろと、呆れられてしまった。
「怖いわお前」
そ、そこまで酷いことを言っているつもりは……
「アイツを超える器だな……」
もうダメだ……変な意識をしてからというもの、俺は罰を受け続けるんだ。
分不相応な恋心なんて持った俺が悪かったんだ……
俺はボロ雑巾の様になるし、相変わらずサーナ様はこっちを見るとバッっと目をそらすし……
なんとも言えない馬車の空気が俺の胃をねじりあげる。
「サーナ殿、少々ツユマル殿をお借りしてもよろしいか?
護衛はライオネンが努めますので、武具などの店もツユマル殿に紹介したいので」
「あ、そ、そうですね! それがよろしいかと思います!!」
あんなに嬉しそうに……はぁ、死んだ。俺、死んだ。
半ば引きずられるようにシンサールに身を委ね、気がつけば武具屋の中だった。
「ツユマル……俺は誤解していた。
お前はアイツと同じようにクソ鈍感野郎なのかと思ってたが、凄まじい攻撃力を持っていたんだな……」
「やっぱり、そんなに?」
「なかなかあんなに(上手い)言葉を選んで言えるもんじゃないぞ。サーナ殿は(嬉しくて)真っ赤だったじゃないか」
「やっぱりそんな(酷い)言葉をかけていたか……(怒りで)耳まで赤くして震えていたな……」
「ああいう服とかの知識もあったんだな、正直ツユマルの普段の格好からすると、意外すぎだな。
それが刺さったようだが……」
「なんていうか、そういうのが乗ってる本を読むのは好きだったから……実際にはそんな金も着ていく場所もなかったから……」
「ま、ちょっと今日はやりすぎだったな。サーナ様も(恥ずかしくて)今日は限界だろう。
このまま夜まで俺に付き合えよ」
「(怒りで)限界か……ははは、さらば俺の青春……、最後まで付き合えよ?」
「お、おう……」(どうにも話が噛み合ってないような……)
それからシンサールと王都最高級の武器屋を見て回る。
俺らが手に入れた武具を超えるような物もあったが、国家予算か!? って値段がついていた。
「このレベルの品になると、国家が管理している。
ダンジョンの深淵部の敵や宝箱産だからな、国として軍を動かしたりしなければまずお目にかかれんよ」
「冒険者でこういったレベルまで到達できる人たちはいなかったのか?
それこそライオネンとかシンサールとか」
「そうだな、確かにこういうレベルに挑んでいた時期もあったな……
ただな、消耗が激しすぎるんだよこういうレベルになると、物資の補充一つにしても隊を作ってやるような形でないと……」
「なるほどなぁ……」
アイテムバッグとかが無ければ、そうなってしまうんだろうなぁ。
しかも人が多くなればさらに物資の問題が出てくる。だからこその国家レベルのプロジェクトになるってわけか……
「ブレイドさんは、そういう場所に行ったんですか?」
「……たぶんな、アイツはアイツで引けない理由もあった。
最後まで、付き合ってやりたかったんだが……
ま、続きは夜な。こないだの店の親父がツユマルを連れてこいって煩くてな」
「ああ、あそこは雰囲気もよかったし、また行きたい」
シンサールと話していたら、少し元気が出た。
この年になって、友達っていいもんだなって、再確認した。
向こうがどう思ってるか知らないけど、酒を飲めば、友達だよな。
結局そのまま話しが盛り上がったってことにして、シンサールと夜まで行動して、ライオネンと合流した。
ライオネンはなんだかわからないけど俺を見るとバンバンと力いっぱい背中を叩いてきた。
「やりやがったなこの野郎!!」
「痛っ、なんだよライオネン! もう十分反省したよ……」
「はっはっは、このたらし野郎。鈍感朴念仁かと思ったらとんでもねぇ牙を持っていやがった!」
「思い出させるなよ……落ち込むだろ?」
「落ち込む? こいつは何言ってるんだシンサール?」
「わからん、たぶん、アイツと違う感じで歪んでるんじゃないか?」
「はぁーーーー……ほんとにお前ってやつは……。
ま、サーナ殿が本当に申し訳なかったって謝っていたぞ、次からはちゃんとするように努力するってよ」
「……はぁ……サーナ様にそんな無理をさせて……俺はゴミクズだ……」
「……シンサール、こいつ殴ってもいいかな?」
「いいんじゃないか? 本気だと多分避けられるぞ?」
「仕方ねぇ、酒で潰すしかねぇな」
「言ったな! 聞いたからな、今日は付き合ってもらうぞ!
よっし、シンサール、酒だ! じゃんじゃん飲める店に連れてってくれ!
俺は今日のことを忘れるんだーーーーーー!!」
王都の飲み屋は星の数ほどある。と言われている。
その日に連れてってもらったお店は王都でも少し外れのお店だった。
「まぁ、酒を浴びるように飲むならこういう店もいいもんだ」
「いいねぇ、懐かしい感じだ。金欠の頃を思い出すぜ」
「へぇ~~、でも、賑わってるね……」
「珍しいなギルマス。どうもお客人、安くて早くて旨い。それが家のモットーだ」
ちょび髭が印象的な人懐っこそうな親父がエールをでかいジョッキで持ってきた。
どことなく日本人っぽい顔つきをしているのが印象的だった。
「久しぶりだな、実はこちらの方が東の出身でな、久々に故郷の味を食べたくなったんだと」
なるほどそういうことか、そういえばお店全体に醤油とか味噌っぽい香りがする。
「おおそうかい! 生の魚は無理だが、いいもの出すぜ!
楽しみにしてな!」
「へー、ここは東の料理を出すのか」
「ああ、ツユマルも迷い人とはいえ興味あるだろ」
「ああ、ありがとう!」
すっかり落ち込んだ気持ちは、料理への興味に上書きされているのだった。
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