第26話王都の夜は蝋燭の火とともに……な回
つぎつぎと料理がテーブルに並べられていく。
冒険者向けのお店なので量が多く、味付けが強く、美味しい!
「ツユマルの調理も最高だが、こういう飯はこういう飯でまた最高だ!」
「わかります! この肉は噛み応え最高ですね!」
「それ、グルメオークの肉だな。うまいよなー」
オークの肉か……ま、いいや。旨い物は旨い!
魔物という食材がある世界、自分の知らない食糧がたくさんあるというのは料理人として非常に魅力的だ。メインは蕎麦だが、サイドメニューにもこだわっており、酒飲みの方々からはそれなりに評価されていたので、こっちではもう少しメニューを増やしてみても面白いのかもしれない。
「ブレイドさんってどんな人なんですか?」
気になったので、もう一度話を戻してみた。
「あいつは、馬鹿だ」
「ええっと、それは分かりましたが……」
「行動は猪突猛進、思い立ったら周りのことなんて考えもしないで進んじまうくせに、変なところでうじうじと悩みだして、他人のことは良く見えているようで、自分のことが絡むとからっきし見えなくなる」
「そうそう、基本的には周りの人が主語になっていて自分を犠牲にすることは何とも思わねー。
人を振り回すだけ振り回すが、自分のことを無価値とでも思ってるのか無茶苦茶しやがる……」
「確かに、それなりの強さでしかなかったが、なぜか人を惹きつける華がある。
敵が強いと、なぜか実力以上の力を出すし、意味が解らない奴だよ本当に……」
「いい人……なんですよね?」
「そりゃ助けられた側からすればいい人かもしれんがなぁー!
巻き込まれる方からすれば次から次へとトラブルを自分からしょい込んでくるんだぞ!?
たまったもんじゃない!」
「まぁ、俺らのパーティの名声もあいつのおかげではあるけど……
大変だったなぁ……」
「ああ、大変だった……だが、楽しかったなぁ……」
「……なんだか、うらやましいです」
「ははは、実際は、地獄だぞ」「ああ、地獄だ」
急に真顔になる二人が怖い。
それから過去のパーティの話を聞いたり大いに盛り上がった。
「よっしゃそれでは二軒目行くぞー!!」
「おっしゃー!!」
「だ、大丈夫ですかお二人とも?」
「何言ってるだー! まだまだぁ!」
なんか、すっごい楽しそうだ。水を差すわけにはいかない。
最後の料理が運ばれてきた、締めの野菜スープがこっちの居酒屋の定番らしい。
俺はそのスープに大量の鰹節の薄造りをぶっかける。
「とりあえず、これを食べてから行きましょう!
食べ物を粗末にしてはいけません!」
「おおう、いいな、これ食べとけば翌日も……うっま!
なんかしたなツユマル!!」
「どれどれ……おお、普段のも十分に美味しいが、これは素晴らしいな!」
「店の人に悪いですからあまり大きな声では……」
「どれどれ、おお! おにーさん、これ何したの?」
「あ、すみません勝手に味を変えてしまって……」
「いいのいいの、ここの奴らは無茶苦茶するし残すしどーしようもないのにおにーさんはちゃんとしてくれたから、それでこれは何使ったの?」
おれはとりあえずパンが置かれていた皿に大量の鰹節を出す。
「これを最後に振りかけると美味しいと思いまして」
「なんだいこれは……お、おいしい! 凄いねこれ、是非店でも使いたい、どこで買ったんだい?」
「おかーちゃん、もう少しすれば皆の元にこれが届くようになるさ、迷い人のツユマルが王国を救ってくれるぜー、このライオネンが保証してやるぅ!!」
「ギルドマスターとしても保障する。ツユマルは王国を救う救世主だ!!」
「ちょ、ちょっと二人とも……」
「ツユマルさんって言うのかい、これ楽しみにしておくよ。
なんていうんだい?」
「鰹節です」
「そうかい、カツオブシ楽しみにしているよ。また飲みにいらっしゃい」
「はい、是非!」
「つゆまるーーーお代りーーーー」
「二軒目行くんじゃないんですか?」
「ああ、そうだった、行くぞー!」
「騒がしくしたな、釣りはいらない」
「あらあらマスターは太っ腹ね、今日はありがと、また来てねー」
一杯おごった冒険者たちにも盛大に見送られながら王都の夜の雑踏へと歩きだす。
王都の夜は明るく、まだまだ終わらない。
楽しい時間を過ごしている人々は陽気に町を歩き、今仕事が終わった人々も王都の雑踏に今日の疲れを癒しを求めている。そんな街の喧騒に包まれ、かすかに酔いを覚えた体を優しい風が冷やしてくれる。
「おら、ツユマルー次はもっと飲むぞー!」
「そうだぞツユマル、お前はもっと自分に自信を持つべきだぞ!」
シンサールさんもすっかり俺をツユマルと呼んでくれるようになった。
バンバンと背中をたたきながら夜の街を歩く。
いいもんだなー、こんな経験初めてだ。
「つぎはここだー! 飯を食うところじゃないが、酒が旨い!」
さっきの店よりも少し重厚な石造りのお店、扉もしっかりとした木戸で外の世界と隔てられている。
少し重い扉をシンサールが開けると、長いカウンターといくつかの円卓が並んだ店内、なるほど先ほどよりも少し落ち着いた雰囲気、それでもたくさんの人々が酒を楽しみ一日の疲れを癒している。
「なんだ、シンサールさんじゃないか、珍しいな一人じゃないなんて」
カウンターからマスターが声をかけ、店員が自然な流れで席に案内してくれる。
店内をランプの照明器具がほのかに照らし、各テーブルでは蝋燭の灯がゆらゆらと雰囲気を作り出している。
「いい趣味の店じゃねーか」
「当たり前だ、俺が飲む店だぞ」
「こ、こんな感じのお店初めてです……」
「まぁ、緊張はしなくていい。もう少し夜も更ければもう少し騒がしくもなる」
そうはいっても店の片隅では生演奏が流れ、この照明の幻想的な雰囲気は、少し緊張する。
「まずは、俺の入れてるの飲むか、マスターいつもの、グラスは3つだ」
「あいよ」
こうして、夜は少し更けていく……
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