第24話出汁による食用以外の利用方法などの回
「いやいやいや、愉快愉快! 体は動くし、この歳で挑戦者とは!!」
「くっそー、完封してやるつもりだったのに2本も取られた!」
「お二人相手は本当にしんどいのでもう勘弁してくださいよ……」
オッサン三人が子供の用にはしゃぎながら水浴びをする。
こんなに楽しい時間、あったっけな?
「……俺も……復帰しようかなー……」
「おお! ツユマルも連れてまだ見ぬダンジョンの深淵に挑むか!?」
「いや、でも、仕事がなぁ……」
「お前のことだ、部下も厳しく鍛えてるだろ? 大丈夫大丈夫!!」
「だ、大丈夫かなぁ?」
シンサールさんのクールなイメージはすっかり無くなっていた。
ライオネンさんと冒険の旅に出ていた頃の青年が、顔を出している。
そんな楽しそうな二人と混ざって、俺も、忘れていた情熱みたいなものに火がついていた。
「サーナ殿が待っているし、積もる話は夜にでも、どっか良い店あるか?」
「ライオネン、ここは王都だぞ。星の数ほどあるぞ」
「よし! ツユマル、王都の星々を食らいつくすまで眠らせんぞ!」
「か、勘弁してくださいよー」
ライオネンさんは以前にもまして筋肉量が増加して、それでいて体が絞られて、キレッキレだ。
シンサールさんも同年代の男性に比べれば見事に鍛えられ、引き締まった肉体をしている。
この二人と比べると俺の体なんて幼児みたいだが、それでもこっちに来てからの日々のおかげでビール腹はすっかり消えてなくなって、うっすらと割れて来てる? 自分の人生でこんなにごつごつとした筋肉がついたことが無いくらいには鍛えられている。おかげで体が軽い軽い、走ったり運動してもまるで子供のころに戻ったかのように動き回れる。出汁は素晴らしい!
こっちの世界で俺が作る出汁料理を食べると、成長補正とやらがかかるらしく、鍛えれば鍛えるだけ効果が出るし、栄養価が著しく上昇するために健康面でもとんでもなく有益だそうで、サーナ様の街でも試験的に炊き出しなどをやった結果、病気やケガ、出産時の事故、出生率、高齢者の死亡率などが飛躍的に改善していった。運動能力の向上や学習能力の向上なども著しく、まさに出汁は万能である証左になった。
それ以外にも様々な実験をしてみた。
海から近いために塩害、さらに魔王によって汚された海の影響ですっかりと汚染されてしまった土壌に昆布の粘液を散布し、回収する。これで汚染物質や食塩が回収することが出来た。
次に鰹節の出涸らしを乾燥させて肥料として土壌に混ぜ込んだ。
これだけでチート農場が完成した。
その農場で造られた野菜は通常の農場に比べて倍近い速度で成長するし、その味わいも格段に向上した。しかも、連作しようが何しようが障害も起きない。
厄介な病気や害虫も寄ってこなくなるというおまけつき、農業革命が起きた。
その農作物を食べた家畜も、成長促進、病気予防、味の向上、乳や卵の量、質の向上などなど、農畜産業界はお祭り騒ぎになった。
その後の研究で粘液を俺が回収せずとも土壌改良効果は十分に期待できることが分かった。
昆布の粘液と出し殻は農業革命の二大アイテムとなった。
俺の出す昆布も鰹節も腐敗や劣化という事象から解放されているので、とにかく大量に出してどこかに保存しておけばいい。
そして、その過程で偶然発見されたのが、同じ倉庫内に保存されている生鮮食品の劣化防止効果だ。
鰹節30cm程の物を一つ倉庫に入れておくだけで、野菜などの日持ちは10倍以上伸びる。
カビや虫なども防いでくれる最高の保存兵器であることが分かった。
物流に革命が起きた。
浄化された海でとれた海産物も鰹節と一緒に保存すれば保存期間が飛躍的に伸びる。
保存のために燻製や天日干しにするときも、傍らに鰹節を置いておくとなぜか味が良くなって、カビなども生えにくくなって保存期間が延びた。
とりあえず鰹節を一個となりに置いておくだけで様々な恩恵が得られる。
家の中に置いておくと虫よけ、カビ防止、匂いの吸着など、様々な効果があることがわかった。
乾燥昆布でも同じような効果が出るのだが、少し匂いが出るので鰹節の方が人気になっている。
生昆布は水回りの洗浄に使うと非常に有益であることがわかっている。
もちろん水質改善もしてくれる。
鰹節と昆布、マジ神。
「あら、皆さんお揃いで、随分と楽しそうですね」
「これはこれはサーナ殿、遅れてすまない」
「ツユマル殿に剣の指南をしていただいたら思いのほか盛り上がりましてね」
「すみませんでしたサーナ様、お待たせいたしました」
「? どうされたのですかツユマル様、そんな「いやーーーー! 体を動かしたら腹が減りました!! 最近腹が減って腹が減って」
「今日はツユマル様の出汁をふんだんに使っていますので、運動後にもぴったりですよ」
「なるほど、ライオネンはいつもこんな美味しそうなものを食べているのか、それでは私もライオネンの強さの秘密を味わせていただくとするか」
「どれも美味しそうですね。いただきます」
流石は一流の宿の料理人、持ち込まれた出汁、鰹節、昆布という食材を見事に生かしてコース料理として昇華させている。
「ツユマル様がおっしゃっていた東の国の料理もありますので」
「本当だ、いい香りですね。ありがとうございます」
「……?」
鶏肉と根菜が醤油、砂糖、酒、それに出汁で煮込まれた筑前煮に近い煮物。
美味しい、本当に美味しい。
すこし日本が懐かしく感じてしまう。
「美味しいです。ありがとうございます、私なんかに配慮していただき」
「は、はい……ツユマル様、やはりまだ調子がよろしくないのですか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。体も動かして随分と疲れも取れました。
ご心配をおかけして申し訳ございません」
「そ、そうですか……」
ああ、体調管理もしっかりしないとな。サーナ様の心を煩わせたら失礼に当たる。
接客モードを全開にすれば、サーナさんともなんとか会話することが出来た。
ホット胸を撫でおろす。ま、もちろん直視なんてできませんけどね。
作り笑顔で目を細めて見ない作戦のおかげで顔面真っ赤になることを防いでいるだけだ。
それからはライオネンさん達と今日の立ち合いについてなどの話で盛り上がり、食事を楽しむことが出来た。
夜は少し休憩後、王都で合流することに話がまとまるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます