第14話ダンジョンのボスと筋肉がぶつかり合う回
「すごい……これが伝説の刃風のライオネン……」
ダンジョンに入ってから、筋肉ダルマさんの凄さを理解した。
巨大な両手持ちの剣をまるで小枝でも振るうように振り回し、迫りくる魔物を紙きれのように切り裂いていく……これは凄い。
俺もストーンブリッジのメンバーもすることが無い。
メンバーの皆さんはきちっと俺のことを守ってくれているんだけど、あまりにライオネンさんが凄すぎる。
「いやー、現役のころよりも体が動く!
いい調子ですぞー! これは10階層くらいまではノンストップですな!」
「ライオネン様、もしかして上層のボスと戦うおつもりですか?」
「うむ、そこまでするつもりもなかったが、これでは試し切りにもならん。
なあに、ちょっと覗いてぶっ倒したら帰れば問題なしだ!」
「はぁ……どうせ止めても行かれるんでしょうから、ツユマル様は我らでお守りしておりますので……」
「すまんな、がっはっは!!」
やっぱり暴走し始めた……
確かにライオネンさんが振るう刃の嵐に巻き込まれて一寸でも耐えられる魔物がいないことは事実だ。
本人としても拍子抜けというか、暖簾に腕押しというか。そんな感じなんだと思う。
休憩中に出汁を飲んで滾ったライオネンさんを止めれられるものはすでにいなかった。
もちろん、上層の魔物が束になってかかってもだ。
「まさか数時間で10階層のボスの部屋まで来れるとか……これが伝説なのねー……」
斥候の仕事も必要がないシフさんはあくびをしながらそう話した。
ここまでで色々と教えてもらったが、上層とはいえ、普通は5~7階層で一度キャンプで夜を越して10階層アタックするのが通例で、こんな異常なペースはあり得ないそうだ。
「それではツユマル殿を頼んだぞストーンブリッジの方々!」
だいぶ身体があったまったのか、筋肉がまるで生き物のように脈動している。
その姿は、どちらかと言えば魔物だ……
ボス部屋の前の大きな扉を片手で軽々と開けてずんずんと中へ歩いていくライオネンさん、それに続いて部屋に入るとかなり大きな部屋で突き当りに何かが座っている。
ふーっふーっと息づかい荒くそこに鎮座していたのはミノタウロス。
牛の頭に巨大な戦斧を振り回すライオネンさんに負けず劣らずの腰ミノ筋肉牛男がそこにいた。
「かかってくるがよいミノタウロス! 今宵の儂は一味違うぞ!」
ブルンブルンと大剣を振り回すたびに背中の筋肉が隆起して動く、どっちが化け物かわからんです……
「ブルォォォォォォォ!!」
雄たけびと共にミノタウロスが戦斧を振るって突っ込んでくる。
「フンヌゥ!!」
ギャーーーーーン!! 巨大な鉄の塊同士がぶつかり合うような音ともに、ミノタウロスの戦斧がはじかれる。
「どうした牛野郎? お前の全力はそんなもんか?」
「ブルァァァアッァァァァァァァァァァァ!!!」
戦斧を両手に振りかぶり鉄の戦斧がゆがむほどの超スピードで振るわれる、遠心力と重力、それに膂力を乗せられた一撃がライオネンさんに迫る。
「それでこそぉおおおおお!!!」
その一撃に真っ向から大剣を振るって打ち返していく、幾度となく鉄がぶつかり合う音が響き渡る。
「フアハハハハハハ!! いいぞいいぞぉ!!」
「ブルルルルアアアアアアァァァァァァ!!!」
なんか、めっちゃ笑ってる……
二人は汗を周囲に巻き散らかしながら一合一合確かめ合う様に打ち合っている。
「す、凄すぎて何もできない……」
「いやー、楽しそうですし手を出したら怒られますよ……」
「ソロでミノタウロスと渡り合う人間なんているんですね……」
「一番恐ろしいのは力で互角以上に戦っていることですよね、スピードや技、魔法ならソロでも戦える者はいるかもしれませんが……」
「距離を取って……いや、なかなか難しいな」
その戦いを見ながらストーンブリッジの方々は色々と考察している。
ミノタウロスもライオネンとの戦いで一杯一杯みたいで、こちらに気を割っている暇はないみたい……
「皆さん薄目に作った出汁スープ飲みます?」
「あ、いただきます。ありがとうございます」「私も」「ウチもー」
結局その戦いに決着がつくまで隣でお茶をして観戦することになった。
途中でお互いの武器が破壊されて、殴り合いに移行した。
最後の一撃が深々とミノタウロスに突き刺さると、まるで勝者を讃えるようにその腕を高々とかかげ、満足したようにミノタウロスは倒れて、塩になった。
「……良き戦いであった、お主のことは胸に刻もう……」
ミノタウロスが落とした大きな美しい魔石にライオネンさんは語り掛けていた。
「お疲れさまでしたー。出汁をどうぞ」
「忝い……うむ、旨い」
青あざだらけだった身体から一瞬でケガが治り綺麗な肌に変っていく。
その効果にストーンブリッジのメンバーも息を飲む。
「これは……私の仕事が無くなりそうですな……」
「戦闘中でゆったりと出汁というか、このポーションを飲めない時などはやっぱり必要だと思うぞ」
ホミさんの呟きにライオネンさんがフォローする。
確かにあの激しい戦い中にゆったりと出汁を飲むのは難しい。
何事も適材適所だ。
「さてさて、まさかのボス部屋……お宝は―……お、あったあった。
ようやくワイの仕事や~~」
部屋の奥に現れた宝箱にシフさんが嬉々として接近していく。
ソレは突然訪れた。全員が油断はしてはいなかったが勝利に浮ついた隙をついて、罠が発動した。
部屋一面に魔方陣が浮かび上がった。
「な、なんだ!? こんなこと報告には?」
「ま、まだ宝箱には触ってない!」
「皆さん、集まって!!」
気がつけば俺は左手から昆布を出して全員と荷物を巻き込むように絡め取っていた。
次の瞬間、ふっと体が浮いたと思ったら。
真っ暗な部屋に投げ出された……
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